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閉鎖空間型・謎解きミステリー『白魔洞の怪人』/藤子F初期作品をぜーんぶ紹介㉒

今読める藤子F作品の初期作品をレビューしていくシリーズの第22弾。本稿では秋田書店から刊行されていた「漫画王」の別冊付録として発表された『白魔洞の怪人』という怪奇冒険ものを紹介する。


『白魔洞の怪人』「漫画王」1957年8月号別冊付録

この当時、雑誌の付録に32~64ページの中編マンガが掲載されることがよくあり、藤子F先生は、かなりの数の「別冊漫画」を残している。その早い筆と豊富なアイディアで、いつしか安心して大役を任せられる新進作家のポジションを得ていたのだ。

特に「漫画王」では、1956年~58年にかけてSF・冒険もの・時代劇と様々なジャンルで数多くの中編を発表している。本作は48ページの読み応えたっぷりのミステリ作品である。


内容をざっくり書いてしまうと、「白魔様」の祟りがあるという無人島・白魔島の謎を解明しようと、少年二人と青年、博士、地元ガイドの5名で5日間、島に滞在することになる、というお話。

島からは常に「ウオーン、オーン」と気味の悪い声が聞こえてくる。この声の主が白魔さまだと言い伝えられており、島のほら穴には白魔さまを祀っている祠がある。このほら穴が白魔洞と呼ばれている。

主人公たちの目的は白魔とその唸り声の謎を解くことだが、いざ島に泊まると、仲間が「白魔のまねき」によって毎日一人ずつ消えていってしまうため、その神隠しの謎も解明しなくてはならない。

いわゆる怪奇ミステリーのジャンルの作品だと言えるが、僕としてはその後の藤子F作品に頻出する「しかしユーレイはいない」タイプの作品だと分類している。


「しかしユーレイはいない」タイプは、最初、幽霊現象としか思えない事件が発生するのだが、それは嘘だったというオチとなる作品のこと。藤子作品では、UMAや超能力は普通に発生する世界観を持つことが多いが、なぜか幽霊だけはニセモノとして扱われることになっている。

詳細については、以前にたっぷりと特集しているので、下の記事を是非参照いただきたい。本作は、その後の藤子作品の定番ジャンルの礎となった作品なのである。


本作は48ページ(扉含む)のボリュームがあるが、他の初期短編と同じように章ごとにサブタイトルが付いているので、まずはそれを書き出してみよう。

①白魔島 7ページ
②神かくし 8ページ
③白魔はまねく 6ページ
④三日目 5ページ
⑤四日目 4ページ
⑥さいごの夜 17ページ

各章ごとに、簡単なストーリーを書いておく。

①白魔島

プロローグとなるチャプター。設定説明がここで全て明らかとなる。「オーンオーン」とうなる白魔島に船で近づく5人(船長を除く)。主人公の少年と、その友人五郎、そしてリーダー格の青年(主人公の兄)と老科学者、そして道先案内人の半下である。

半下は島のうなり声を聞いて、恐ろしい天罰が来ると他の4人を脅す。島についても最初は下船してこないが、案内料を前払いしていると言われて、渋々一緒に島に下りる。いかにも怪しい風貌で、裏がありそうな男だ。

船は5日後に戻ってくるという。これは、5日間のお話ということが明示している。

白魔島は、その昔罪人の流刑地だったと半下。白魔を祀っている洞窟があり、一行はさっそく中へと入っていく。すると行き止まりに祠があり、鍵が掛かっている。

祟りを畏れる半下の制止を聞かず博士が錠前を触ると、ウワーっと後ろへと飛ばされて気を失ってしまう。半下は、神罰だと恐れ戦く。

②神かくし

海辺の小屋に泊まる一行。ここはかつて流刑人の牢屋であったという。半下は、多くの者が恨みを抱いて死に、その人たちの魂が迷い出たのが白魔だと語る。

気絶していた博士が苦しそうに水が欲しいと声を絞り出す。少年の友人が水を汲みにいくのだが、そこで悲鳴を上げる。皆が向かうと、白い何者かがボーっと立っていたという。

部屋に戻ると、気絶していたはずの博士の姿がない。半下は神隠しだと騒ぎ立てる。皆で島を手分けして探し回るが、夜が明けても見つからない。すると、海岸の岩肌に博士の上着が落ちている。博士は海へと飛び込んだんのだろうか?

半下は、あと4日間、一人ずつ消えていくのでは、と恐ろしい予言をする。


③白魔はまねく

物語は二日目。半下は今日は誰が白魔に招かれるのだろうかと、不吉なことを言っている。皆に疎まれ、先に寝室へと入っていく。他の3人は眠れないので、トランプで時間を潰す。

すると部屋の電気が消え、寝室から半下が現れる。そして、白魔さまに呼ばれていると謎めいたことを言い捨てて、海へと走り出す。そして、そのまま荒波に飛び込んでしまう。

これで二人目が消えた。


④三日目

少年の兄が見張りをして、少年たちは先に眠ることに。すると外から「こいこい」と声が聞こえ、暗闇に光る何者かがいる。青年が後を追うが見失い、背後から何者かの手が伸びる・・。

少年たちはベッドで目を覚ますと、兄の姿がない。外へ出ると、「よんでいる、よんでいる」と言いながら、海へと飛び込む兄の後ろ姿。

3人目が消え、残るは少年たちのみとなった。


⑤四日目

最初の半下の予言通りに、毎日一人ずつ消えていく一行。夜になると、「オーンオーン」と唸り声が聞こえてくる。少年は「来るのを待たずにこちらか行こう」と、拳銃を片手に様子を見に行く。

木の影から笑い声がしたかと思うと、ボウっと光る何者かの姿が見える。拳銃を撃ち込むのだが、すぐに消えてしまう。すると主人公の友人・五郎の姿が見えない。

ついに一人となってしまうのだった。


⑥さいごの夜

初期作品では最終チャプターは、ページ数がいつも多め。ここまでの5章ははあくまで伏線で、最後に少し長めのクライマックスが来るような構成となっている。

最後の一人となった少年。五日目の晩は、雷光轟く嵐の夜である。

暗闇から光り輝く何者かが、小屋へと近づいていく。少年は部屋の中の窓の下で待ち構える。そして、窓ガラス割って入ってきたところで、腕を取って一本背負いにする。


光る男は、嵐の中へと飛び出して行き、白魔洞へと逃げ込む。少年は奥へと追っていくと、行き止まりに祠があるが、男の姿はない。

ここで洞察力のある少年が、祠の謎を解いていく。祠の中から変な音が出ていることに気付く。祠にもたれかかって倒してしまうのだが、その先に道が続いている。そして、博士が触って気絶した鍵には電線が結び付いている。博士が倒れたのは、祟りではなく、感電によるものだったのだ。

「ハイカラなお化けもあったもんだ」

と少年は、一連の神隠し事件が白魔の仕業ではないことを確信する。


洞窟を奥へと進むと、光り輝く男が座り込んでおり、「わしに近づくことはできない」と話しかけてくる。「先生たちをどうしたのか」と詰め寄る少年。すると、落とし穴の仕掛けにハマって地下空間へと落ちてしまう。

落ちた先は、針状の岩で敷き詰められていたが、偶然助かる。近くに窓があり、そこへと進んでいくと、兄と博士と五郎が岩牢に閉じ込められている。


4人合流し、ここで全ての謎が明らかとなる。一連の事件は半下とその仲間の仕業。白魔の伝説を信じさせて、島から引き返させるのが目的であった。少年の兄が海に飛び込んでいたが、これは半下の仲間の変装で、飛び込んだ後は普通に泳いで戻ったようである。

答え合わせが終わると、半下が上の窓から首を出す。「そこまで知られたからには、生きて返せない」と言う。すると、少年たちの部屋に大量の水が流れ込んでくる。水攻めで溺れ殺そうというのだ。

半下は、白魔島に人を近づかせない理由を語る。白魔島には、徳川幕府の何万両もの財宝が埋められており、半下たちが一部を掘り出しだと言う。全て見つけ出すまで、誰にも近づかせたくなかったのだ。


溺れそうになる4人。ところが五郎が偶然に部屋の地面にあった蓋を掴み、引っ張り上げると穴が開いて水が流れ出て行き、みるみる水位が下がっていく。

この穴から外へと脱出することに成功する4人。博士はこの道すがら、白魔の「オーンオーン」という声の正体を科学的に突き止める。それはほら穴が潮で満たされると、空気が岩の割れ目から押し出されて、音を出すのだという。

「超常現象も科学的に説明できる」というテーマは、藤子作品ではお馴染みのもの。代表的な例としては「のび太の大魔境」などがあるが、本作はそうした流れの上流に位置する作品である。


こうなれば攻守逆転。半下たちが使っていた蛍光塗料を塗った怪人の服を着て、財宝を掘り当てた半下たちに襲い掛かる。あっと言う間に二人を取り押さえると、ちょうど5日ぶりに船が島へと近づいてくるのであった。


財宝のために、白魔伝説を信じさせて、島から撤収させる。

このプロットを読んで、すぐに思い浮かぶのは「ドラえもん」の『ゆうれい城へ引っこし』あたりだろうか。この話も、本作の派生作品と言えるだろう。


実はユーレイはいない。
悪者がユーレイに成りすまして、真実から目を遠ざけさせる。
不思議な現象は、案外科学的に説明できる。

本作に描かれている「アンチ超常現象」の物語は、後の藤子作品に頻出する重要なモチーフである。初期短編では、こうした藤子先生の原点がヒョイと顔を出してくるので、全く読み逃すことができないのである。


読み逃せない初期短編の紹介記事はこちらから。


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