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のび太、小人の星へ『めいわくガリバー』/「進撃の巨人」完結記念・藤子Fの巨人伝①

『めいわくガリバー』
「小学六年生」1983年10月号/大全集11巻

「進撃の巨人」が、足かけ11年・169回(13×13)の連載を終えて完結を迎えた。僕としては、新刊を待つのが辛いということで、コミック7~8巻で読むのを中断していたが、是非この機会に続きを読みたいと考えている。

今回は、「進撃の巨人」完結記念の便乗企画ということで、F作品の中から「巨人」をテーマとしている作品を二回に分けて紹介していきたい。

巨人といえば「ガリバー旅行記」がまず浮かぶわけだが、F先生は、子供の頃から「ガリバー旅行記」や「ロビンソン・クルーソー」や「西遊記」「アラビアンナイト」など、少し不思議なお話を愛読していた。そしてこうした若い頃から読んできた世界観を、色々な形で作品にモチーフに取り上げて、昇華している。

特にジョナサン・スウィフトの書いた「ガリバー旅行記」、とりわけ第一篇のリリパット国と第二篇のブロブディンナグ国の、自分が巨大な男となる国、自分が小人となる国、という世界観は、その後のF作品に欠かせない重要な栄養素となっていることは間違いない。(ちなみにラピュータ国が登場するのは第三篇)

第一篇の序盤の有名シーンである小人たちにロープで体をがんじがらめにされてしまう描写は、F作品の中で何度も見かけることになる。代表的なところで言うと、「ドラえもん のび太とブリキの迷宮」でドラえもんがおもちゃたちに捕まっている。この作品ではラピュータを思わせる国が宙に浮いていくシーンも登場している。

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SF短編でいうと、『うちの石炭紀』で知能を持ったゴキブリ集団に主人公の男の子が捕らえられてしまう。この作品は、生命と進化というテーマの作品として、いずれ考察する予定。

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そしてもう一本、まさしくガリバー旅行記をパロディとして題材にした『超兵器ガ壱號』という作品もあるが、こちらは次回の記事で踏み込んで紹介していきたい。


本稿では「ドラえもん」の中から、やはりガリバー旅行記をパロディ化した短編『めいわくガリバー』を見ていきたい。現代社会にガリバーが現れたら、ヒーローとなれるのか、そういう皮肉めいた作品となっている。

冒頭のび太が、近所の小さい子から「ガリバー旅行記」を借りて、熱心に読んでいる所から始まる。ガリバーが敵の船団を引っ張っていくシーンが描かれていて、のび太はどうやらガリバーに心を寄せている様子。案の定、読み終わった後は、

「あんな感動的な本があったのか。初めて読んだ」

と感銘を隠さない。そこにドラえもんが冷たい一言。

「君は他の子よりも数年遅れて生きているんだね」

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ちなみにこの時ドラえもんが見ているTVにはTOMOYOという原田知世似のアイドルが映っている。


のび太は、広い宇宙のどこかに小さい人間が住んでいる星があるはずだと雄弁に語り、「宇宙救命ボート」を使って小人の星に行って自分もヒーローになろうと考える。

「宇宙救命ボート」は、近くこちらも特集記事を書く予定だが、ドラえもんの中で何度も登場するひみつ道具の一つ。名前通り、地球が滅亡しそうな時に脱出する用途で作られた乗り物である。このボートは色々な問題を抱えていて、のび太たちは二度も願わない冒険に出てしまった過去があった。今回は三度目の登場となっている。

今回は、自分たちがガリバーとなるために、「小さな」人間の住んでいる星へ、という条件を付けて飛ばしており、救命の用途は完全に薄れ、宇宙の冒険用の乗り物として使われているようだ。

発見は難しいとドラえもんは予想するが、そう言った次のコマでもう到着。海の真ん中に着水したのだが、凄く浅い。どうやらあっと言う間に願った星に着いたようである。この辺りのスピード感はさすがF先生というコマ運びである。

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通りがかった船は小さく、小人の星であることを確信したのび太とドラえもんは、町を探す。さっそく港を見つけてはしゃぐのび太たち。小人たちが集まってきて何かをしゃべっているが聞き取れないので、「マイクロ補聴器」で聞いてみると・・・。

「怪獣だ、キンギコングだ、タヌキのゴジラだ」

と非難ごうごうなのであった。

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ドラえもんは、「自分たちは正義の巨人なので仲良くしよう」と声を掛けて、町中へと進んでいく。町の様子は、小さいだけで現代の地球の科学水準とほぼ一緒のようである。そんなのび太たちに住民は、

「街を歩くな。交通事故のもとだ」

とまたも非難の声を浴びせる。

仕方なく、空き地を探し出して、そこに「おりたたみハウス」で簡易な住処を建てて、しばらく暮らして自分たちの力を発揮できる場面を待つことにする。ところがそんな所にも小人たちが現れ、てっきり自分たちに何か頼みかと思いきや、裁判所の命令で立ち退け、という通達であった。のび太たちが建てた「おりたたみハウス」が大きすぎて、町がすっぽりと日陰になって大迷惑となっていたのだった。

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その後、人里離れて山奥に移動するが、そこでもダム建設予定地なので出ていけと言われる。それならばと、海に出て海上でハウスを建てるのだが、海中の小さな魚を見つけて取っていると、漁場を荒らすなと抗議される。

どこに行っても何をしても文句を言われ、すっかり当てが外れてがっかりするのび太。さりげなく、海に向かって立ちションをするのだが・・・。「きれいな海を返せ」「海洋汚染」「巨人帰れ」と、猛烈なデモが始まってしまう。

現代に巨人が出現したら・・・それは迷惑なのではないか?
のび太たちは、体が大きいという理由から、日照権、ダム開発、公害(海洋汚染)、交通事故などの現代的な問題を次々と引き起こしてしまう。これも一つのギャップネタであると言えるだろう。

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結局追い出されるように、のび太たちは地球へと戻ることに。「帰るよ、帰ればいいんでしょ」と投げやり。

帰ってきたのび太は、ガリバーはもう時代に合わないということで、新しいガリバーの物語を作ることに。

「ガリバーは小人たちにとても迷惑がられました」

と紙芝居を作って、「ガリバー旅行記」を貸してくれた近所の小さな子に見せて、「つまんない!」と言われてしまうのであった。

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「進撃の巨人」でもそうだが、やはり自分たちとサイズの合わない生物とは、相容れないものなのだな、とシニカルに感じてしまう一本であった。本作のように、自分が愛した物語でさえも、ギャグ満載の物語としてしまうF先生のパロディ精神が溜まらなく好きだなと改めて思うのだった。


「ドラえもん」の考察たくさんやっています。目次から進んで読んでやってください。


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