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今の自分を変えるために・・『ぼくを、ぼくの先生に』/近未来ののび太くん②

ドラえもんは基本的に小学生ののび太が主人公の作品なのだが、色々な短編の中で過去や未来も描かれている。そこで、特に中高生・大学生の頃ののび太の様子が伺える作品を集めてみようというのが、今回の企画である。

題して「近未来ののび太くん」

前稿で紹介した『大きくなってジャイアンをやっつけろ』は、ジャイアンとの喧嘩に勝つために、中学生ののび太をタイムマシンで連れてこようとするが、中学生ののび太もジャイアンとの喧嘩を控えており、大学生の自分を連れてこようとする・・・というお話。

中学生になっても、全然変わらないのび太の様子が描かれていた。記事は以下。

ひとつポイントとしては、この記事を読んでもらえればわかるが、中学生ののび太を連れてこようという、ある種の反則技を思いついたのはドラえもんであるということだ。

初期ドラでは、未来から来たばかりのドラえもんの常識が、まだ現代とは適合していないようで、かなり無茶苦茶なアイディアを思いつき、それを実行してしまう傾向がある。


『ぼくを、ぼくの先生に』「小学五年生」1973年9月/大全集2巻

本作は、困った時は中学生ののび太を連れてくるというドラえもんのアイディアが生かされるお話となっている。

冒頭で、のび太のパパとママが何やら相談をしている。家計を切り詰める話題らしく、パパはタバコの本数を減らし、ママはセットへ行く回数を減らそうと言っている。全てはのび太のための節約であるらしい。

この話を聞いたのび太は、節約して何かを買ってもらえるのかと思って喜んでいると、家計を切り詰めてのび太に家庭教師を付けようというのである。思わぬ話に飛び上がって驚くのび太。

パパとママはあまりに悪いのび太の成績を考えてのことだが、のび太は「これから頑張る、二学期の成績を見ていて欲しい」とやる気を見せる。本作は9月号の作品なので、決意を改めるにはちょうどいい機会だが・・・。


家まで先生がいるんではやりきれない。のび太は、ドラえもんも部屋に近づけず、勉強に励むことにする。しかし、部屋の外のドラえもんは思う。のび太の決心は続かないと。5分経過しそろそろ欠伸が出る頃と予測、10分過ぎると、いつもなら机を離れて寝そべる時間帯とみる。

案の定、部屋に入るとのび太は転がって昼寝の態勢。「ほら、やっぱり」と呆れたドラえもんは、家庭教師を頼んだ方が良いと、パパママにチクりに行こうとする。


のび太はドラえもんを制止し、あるアイディアを閃く。「タイムマシン」で三年後の世界へ行って、中学生の僕を連れてきて、家庭教師にしようというのである。

自分で自分を教えるのであれば、お金もかからず親切にしてくれるはず。うまくすれば宿題なんかもやってもらえる。そんな打算を働かせて、三年後へと向かうことにする。

「そううまくいくかね」とドラえもんは感想を述べるが、元はと言えばこのアイディアは、本作の7ヵ月前にドラえもんはのび太に吹き込んだもの。


三年後の世界。前稿での『大きくなってジャイアンをやっつけろ』では、のび太の机は古くなって、物置に仕舞われていた。なので、タイムマシンの出口は物置の中だったわけだが、本作ではきちんとのび太の部屋の机に直結する。

中学生ののび太を探して一階に降りていくのび太たち。すると居間では、パパとママがのび太の成績について話題にしている。曰く「成績が悪くて困っている。やっぱり家庭教師を付けなくては」と。

これを聞いたのび太は、たまらず「いらないってのに!」と止めに入る。パパとママは、小学生ののび太を見て急に縮んだと大騒ぎ。やはり三年の経てば、まるで容姿は変わっているようである。もっとも、のび太の成績は悪いままのようだが・・。


部屋から逃げ出したのび太とドラえもん。その後、結局中学生ののび太は見つからず、「勉強をみて欲しいので三年前に来て欲しい」と置手紙を残して、現代へと戻る。

で、現代に戻るとさっそく中学生ののび太が部屋に座って待っている。ところが、「小学生の僕か。どこを遊び歩いてた!」とあまり親切さは感じられない。ちなみに前回でののび太は詰襟だったが、今回は私服。


「勉強をみてもらおうと呼びに行っていた」と答えると、中学生ののび太も「ちょうど勉強を見てやろうと思ってやってきたのだ」という。さすがは自分同士、考えることは一緒である。

しかし、思惑はそれぞれ異なっていることがすぐに判明する。小学生ののび太は中学生の自分に宿題をやってほしいわけだが、中学生ののび太は「甘ったれるな、自分でやれ」というスタンス。

考え方の食い違いに戸惑う小学生ののび太に、中学生ののび太は語る。

「僕の成績は今非常に悪い! 君のせいだ! 小学校の頃、しっかり勉強していれば、こんなことにならなかったんだぞ!」

これは、自分の酷い成績を、完全に過去の自分に押し付ける発言である。小学生の自分からすれば、これは滅茶苦茶な理論。

小学生ののび太は中学生の自分に勉強をやらせたい。中学生ののび太は小学生の自分に勉強を頑張らせたい。年は違えど、今の自分が頑張るという方向性に向かないのが、のび太の変わらぬ性格のようである。


無理やりに机に向かわされて勉強させられるのび太。中学生ののび太は、「毎日みに来てやる」と威張っている。そして、

「今から一生懸命やれば、中学生になる頃は・・・。つまり僕はクラスで二番くらいになるかもね。エヘヘヘ・・・」

と、のび太らしい皮算用をしてほくそ笑むのであった。


すると、のび太の机の引き出しが開く。そこから現れたのは、何と高校生ののび太。前回は大学生ののび太が一瞬映っていたが、大学生ののび太は本作が初登場である。少し体重が増えて、顔は少し肌荒れしている。思春期真っただ中の風貌である。

高校生ののび太は中学生ののび太を探しにタイムマシンでやってきたという。その理由とは・・・

「中学まで怠けると、高校の俺が迷惑する。俺が見てやるから勉強しろ」

と、動機は中学生ののび太とまるで一緒。自分の勉強の出来なさを過去の自分の責任にしているのである。


中学生ののび太は小学生ののび太を勉強させたく、
高校生ののび太も中学生ののび太を勉強させたい。
(小学生ののび太は中学生ののび太に宿題をやって欲しい)

前作に引き続き、中学・高校と進学しても、のび太の根本は何も変わっていないのである。


中学生の自分が高校生に自分に連れて行かれる姿をみて、小学生ののび太は「僕はいくつになってもダメみたいだね」と感想を漏らす。この悪い流れは、今の自分が断ち切るしかあるまい・・。

のび太はドラえもんに励まされて、「やれやれ」と机に向かう。大事なのは、今の自分のために過去の自分を変えるのではなく、未来の自分のために今の自分が変わらなくてはならないということなのだ。

少しだけ前向きな感じで、本作は終わるのであった。


・・・しかし、こんなことではのび太の性格は変わらない。よって、中学になったのび太も変わらない・・。そんな様子がわかる作品を、次稿でご紹介したい。


「ドラえもん」考察、幅広くやっています。


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