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中学生ののび太初登場!『大きくなってジャイアンをやっつけろ』/近未来ののび太くん①

「ドラえもん」は、主に学年別学習誌に連載され、読者と同じ学年ののび太が主人公となっている。つまり「小学一年生」では小学一年生の、「小学六年生」では小学六年生ののび太が描かれている。

これは裏を返せば、「ドラえもん」では小学校を卒業した後ののび太は描かれていないということになる。

かと言って、中学入学後ののび太が全く登場しないかというと、そうではない。いくつかの短編で中高生、もしくは大学生となったのび太も顔を見せているのだ。


そこで、「近未来ののび太くん」と題して、中学生になってからののび太の様子がわかるエピソードを集めてみる。なお、本シリーズでは中学~大学生時代ののび太のお話に特化し、大人になってからのお話は、また別途違う形で紹介したい。

それでは、少しだけ成長した(?)のび太を覗いてみよう。


『大きくなってジャイアンをやっつけろ』
「小学四年生」1973年2月号/大全集2巻

本作は「小学四先生」に掲載された作品であり、のび太の学年設定も当然小学四年生である。すなわち、三年後には中学生となっている。それを踏まえて読み進めたい。


冒頭では、いつものようにのび太がジャイアンを怒らせ、「ぶん殴るぞ」と脅されている。そして、「素直に謝るなら許してやってもいい」と譲歩され、のび太は殴られないことを喜んで「悪かった」と頭を下げようとする。

ところが、近くでやりとりを聞いていたドラえもんが、のび太の行動を制止する。「悪いのはジャイアンじゃないか」というのである。

ドラえもんは、のび太の言葉を勝手に代弁し、「そっちこそ謝れ、謝らないとただじゃ置かないぞ」と言い返す。これに激怒したジャイアンは、狂わんばかりにのび太たちを追いかけてくる。


のび太は家に逃げ込む。外で見張っているジャイアンを恐れるのび太に、ドラえもんはいつか使った「けんかマシン」を貸してやると言い出す。のび太は「あれを使えば負けないや」と期待を膨らませるが、なぜかドラえもんのポケットから出てこない。

代わりに使えそうもない道具がどんどん出てくるのだが、それを列挙しておこう。ここでしか登場していないレアものばかりである。
・自動はなくそとり機
・しゃっくりどめびっくり箱
・夜間ふとんの中からおしっこできるホース
・雨が降る傘などなど・・

また、ここで話題となっている「けんかマシン」は、本作から約3年間の「小学四年生」1970年3月号掲載の『けんかマシン』で登場したものを指しているものと思われる。この作品は大全集以外では読めない作品となっていて、かなりの珍作なので、どこかで紹介してみたい。


結局ジャイアンをやっつける道具は出てこなく、代わりに「きずグスリつき自動まきほうたい」が用意される。これは殴られた時のための道具である。

のび太はジャイアンに謝ってくると言い出すが、ドラえもんは「ばか!!」と制止し、

「男だろ、負けてもいいから戦うくらいの勇気をもて!!」

と発破をかける。するとのび太は・・

「ほんとはあたし女なの」

とメソメソし出すのであった。


ここでドラえもんがあることを思いつく。今ののび太ではジャイアンに勝てないが、中学生ののび太であれば勝てるので、「タイムマシン」で連れてこよういうのだ。

のび太はこのドラえもんのアイディアに対して「ずるいんじゃないかな」と感想を述べ、ドラえもんは「ずるいもんか、のび太には違いない」と肯定している。

これは他の記事でも紹介していくが、このドラえもんのアイディアをその後ののび太は採用していくことになる。何かあれば進学したのび太を今の世界に連れてこようと考えるようになる。のび太のズルい行為のきっかけは、なんとドラえもんの発案であったのである。


三年後の世界へタイムマシンで向かう。この頃は今の勉強机は古くなって物置に仕舞われている。(この設定は今回限りのようだが・・)

中学生ののび太がここで初登場。今と雰囲気が変わらず、「三年経ってものんびりした顔だ」とドラえもんがコメントする。さっそく小学生のジャイアンをやっつけて欲しいとお願いすると、「よせよせくだらん」と否定的。そして、今はそれどころではなく、何かに気を取られている様子。

「自分が困っているのに見捨てる気!?」と追いかけるが、「しつこいぞぼく」と嫌がって、そのままどっかへと消えてしまう。のび太は

「なんて不人情な、ひどい僕だろう」

と泣き出すのであった。


これで打つ手なし。がっくり肩を落として現代に戻るのび太たち。その間もジャイアンはイライラして町を徘徊している。のび太はここで意を決して、負けを覚悟でケンカをするしかないと、ジャイアンのところへ向かう。

ドラえもんは「えらいっ」と他人事。もともとはドラえもんが悪口を言ったことでジャイアンの怒りに火を点けたくせに・・・。このように、初期ドラはかなりいい加減な性格なのである。


するとなぜか、中学生ののび太が町をキョロキョロと歩いている。やっぱり来てくれたのかと感激するが、三年後の世界に行くつもりで三年前に来てしまったのだという。

なぜ、中学生ののび太は三年後に行こうとしたのか。ま、理由はともかく、せっかく来たのだからジャイアンをやっつけてくれ、という流れになる。すると、前から歩いてくるのは、大きくなったジャイアン!

ドラえもんは「大学生の自分を連れてきたな」と驚くが、タイムマシンを持っている訳がない。ドラえもんは「何でもいいから適当にやってよ」と中学生ののび太の背を押すが、たった一発押されただけで跳ね返されて伸びてしまう。

中学生になっても、のび太はだらしがないまま。そして、このシーンでもドラえもんはどこかいい加減・・・。


何はともあれ、ジャイアンもこれで気が済んだはず。ところが、向こうから「ここにいたか」とジャイアンが怒って走ってくる。そこで、

「もうすんだはずだよ。中学生の僕を大学生の君が突き飛ばして」

と、のび太は説明するが、ジャイアンは「何を寝ぼけてやがる」と薄い反応。そこへ先ほどの大学生のジャイアンが姿を見せる。彼はジャイアンのいとこなのであった。


まだジャイアンの怒りは収まっていない。慌てて逃げ出し、もう一度中学生ののび太を呼んでくることにする。すると、三年後の世界に、のび太の姿はない。彼はどこへ行ったのか?

すると物置の机の中から、ドタバタと中学生ののび太が出てくる。「嫌だってば!!」と言いながら、もう一回り大人ののび太が一緒に連れてこられる。

「ジャイアンと喧嘩するんだ。大学生の僕なら、中学生のジャイアンに勝てるだろ」

と、それはまるで今ののび太の取った行動と同じ。

小学生ののび太は中学生ののび太を頼り、
中学生ののび太は大学生ののび太を頼る。

同じような行動を取る所に、のび太は成長しても相変わらずであることが明示される。ただし、もともと年長の自分を連れてくるというアイディアは、ドラえもんの発案であることを、ここで再確認しておきたい。


そして、本作で使われた年上の自分を頼るパターンは、次稿で紹介する作品(『ぼくを、ぼくの先生に』)でも使われる。しかもそれは本作の3カ月後というタイミングで発表されている。

本作は藤子先生が存命中には、てんとう虫コミックスに収録されなかった作品だが、同じパターンの作品を2本収録することをためらったものと想像できるのである。



「ドラえもん」の考察しています。


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