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スカート『アナザー・ストーリー』が似合う夜

ストーリーの新アルバム『アナザー・ストーリー』が素晴らしい。自主制作盤の『エス・オー・エス』、『ストーリー』、『ひみつ』、『サイダーの庭』から選出した16つの楽曲を再録した作品だ。元より、連作短編集の装いのあるスカートのアルバムたちだが、新たな曲順で編み直されることで異なる情感を喚起。聴き手も自身の思い出を勝手に混ぜ合わせながら聴けてしまう代物だ。良い音、良い演奏で解像度を上げた記憶の中の風景たちのよう。

1曲目『ストーリー』はビデオも素晴らしい。「CALL」以降、「静かな夜がいい」「視界良好」と節目のリード曲MVに出演してきた三浦透子が3年ぶりに登場。これまでは楽曲をモチーフとした物語を演じてきたが、今回はその物語が初めてスカートの演奏シーンと交差する。過去を現在の視点で解釈し直すアルバムの内容通り、透子もまた過去の自分を演じ、そして自身の歌声を重ねる。スカート映像部門の象徴だった透子をも楽曲の中に引き入れて、「ストーリー」以降歩んできた景色を歌に書き足しているように聴こえる。



こうやって改めてスカートの楽曲を聴き直してみると、夜を扱った歌がとても多い。ひとりぽつんと不安を募らせる歌、誰かと心を通わせようともがく歌、夜に繰り出して浮かんでくる気分をこのアルバムは昂らせる。「セブン・スター」や「ガール」のような最近はあまりやっていなかったロック然としたアプローチの曲も焦燥感を煽り「返信」や「悪ふざけ」で足されたホーンセクションもまた豊かに物語を広げ、夜の世界に溶け込んでいくよう。

みんなに広めたいのだけど、同時に自分のものにしておきたい曲がとにかく多いのがスカートの最高なところなのだけど、特に「おばけのピアノ」はあまりにも好きすぎる1曲で。何の文脈も、物語も知らない状態でライブアルバム『The First Waltz Award』で聴いて以来、未だ褪せることなく胸を揺さぶられ続けている曲。この曲については、できた経緯とか詳細な解説とか聴かなくても、いや聴かない方がずっと好きでいられると思う。勝手に沁みて、勝手に浸れる。スカートの音楽をそんな風に聴く夜が堪らなく愛おしいのだ。


#コラム #エッセイ #音楽 #邦楽 #音楽レビュー #音楽コラム #スカート

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