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それは孤独と祈り~7.18 カネコアヤノ単独演奏会『よすが』@福岡イムズホール

カネコアヤノ、春夏のバンドツアーから立て続けに単独演奏会と名付けた8公演の弾き語りツアーを敢行。その2公演目が福岡イムズホールにて。6月に開催が発表されたので、こんな短い間隔でアヤノ氏をもう1度観れるとは!という喜びは特大。また、この8月で閉店となる天神IMSが会場であり、個人的にもラストイムズ。イムズというとのん、ゴジゲン、ラバーガール、さらば青春の光とこれまでも思い出深い鑑賞体験が多かったので、最後を"初めて観るカネコアヤノ弾き語り"なんて心に残りそうなもので括れるのは嬉しい。

バンドセットの時もかなり控えた演出だったが、今回は照明の切り替えも一切なくただひたすらにギター1本での演奏と歌のみを純粋に聴く時間でこんなにも削ぎ落された表現があるのか、、と圧倒された。シンプルなやり方だけで成立してる、なんてレベルではなく、MCもなくただ歌を歌うということこそが音楽のライブとして根源的で至上のものであることを堂々と物語っていた。手拍子すらも拒むような凛とした空気が流れており、弾き語りライブ=リラックスモード、という固定概念を覆すような耽美な緊張感があった。

バンドツアーとは選曲や曲の配置を変える。弾き語りのほうが、前後で情緒や曲調の振れ幅が大きい気がした。ころころと変わる気分のように、それを一つ一つ自然な所作で拾っていくような時間が続く。5曲目というかなり序盤に大名曲「祝日」が歌われたのには驚いた。低空飛行な世界の中、おぼろげな不安が常に傍にある時代にあってこの曲に刻まれた<手当て>がまた力強い意味を持つ。中盤に不意に演奏された「燦々」も嬉しかった。自分で決め、自分で選ぶこと。タフな生き様が、近い距離で届くのが弾き語りだ。

いつもの賑やかな3人のバンドメンバーがいない分、彼女の姿を注視することになるのだが、その佇まいはどこから観てもとても画になる。愛想を振る舞くことなど一切せず、歌を放つことだけに集中し続けるがゆえの険しい表情も、曲の高揚感に合わせて弦をはじく音がバキッと強まるところも、彼女の歌の芯の強さを示しているようだった。歌い出しが決まらなかったり伴奏がうまくいかなかったりして、曲を先に進めない場面が何度もあったのが印象的だった。呼吸を整え、意を決して歌い始める姿はまさに"孤独と祈り"だ。

終盤、「ごあいさつ」以降の熱量たっぷりの演奏は思わず席から立ち上がりそうになるほどに燃え上がってしまった。「栄えた街の」は『よすが ひとりでに』の音源よりも遥かに迫力があったし、「かみつきたい」の小気味よさも「愛のままを」のクライマックス感も、アコースティックギター1本で鳴らされているとは思えない爆発力があった。「アーケード」は、どんな形態でもとんでもない拍手をもたらすんだよな。ラストは「抱擁」と「追憶」でじっくりと浸らせて幕。MCは「ありがとうございました」「皆さん、気を付けて帰って」の二言のみ。でもこれで充分。これが最高。この、しばらく固まって動けないくらいの圧倒的な表現を彼女に歌には期待し続けてしまう。

<setlist>
1.爛漫
2.孤独と祈り
3.カウボーイ
4.セゾン
5.祝日
6.手紙
7.窓辺
8.腕の中でしか眠れない猫のように
9.星占いと朝
10.光の方へ
11.閃きは彼方
12.春の夜へ
13.燦々
14.明け方
15.朝になって夢からさめて
16.ごあいさつ
17.栄えた街の
18.かみつきたい
19.愛のままを
20.アーケード
21.抱擁
22.追憶

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