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羊文学 Tour 2021 “Hidden Place” Online Live

https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2169514

羊文学、メジャー1stアルバム『POWERS』のリリースツアーのオンライン公演。塩塚モエカ(Vo/Gt)がヘアメイクするシーンで突然画面が歪み、タイトルバックを映して再び画が戻るとメイクは完了。薄暗い洋館のような場所で待つ河西ゆりか(Ba)、フクダヒロア(Dr)に合流して「mother」をじっくりと奏でる。レーザーが美しい揺蕩い、視聴者を吸い寄せてゆく。見入っている内に2曲目「Girsl」の歪んだギターが唸りを上げる。真っ赤な照明の中で激しく愛を乞う。「変身」ではザラザラとした演奏を背負ってはしゃぐように歌われる願いの数々を体現するような、きらきらとしたライティング。歌に込められた感情と連動するように、会場も表情をころころと変えてゆく。

ここでインディーズ期のフルアルバム『若者たちへ』より「コーリング」。過去を回想するような楽曲が多かったアルバムの中で数少ない未来を思った1曲は、特殊な形ではあるがメジャー盤のリリースパーティというこの公演によく合う。<君の明日は死なない>というメッセージも『POWERS』と深く通じているように思う。MCではふっと空気を緩ませるものの、「ハロー、ムーン」の張りつめた空気感、靄がかった中で力強く轟く「ロックスター」などライブは引き締まったグルーヴで展開。また斬新な演出は出尽くしたかに思えるオンラインライブ界隈だが、今回は"床に置かれたミラーボール"が素晴らしかった。「おまじない」でチラチラとメンバーを神秘的に映し出す。

<あいたい 明日はもう来ないかもしれない/あいたい 今は二度と戻ってこないよ>と深い残響で歌われる「花びら」など、『POWERS』にはコロナ禍の実感が刻み込まれている。青い空間に染め上げられる中で奏でられた「サイレン」はコロナ禍直前にリリースされた曲だが何気ない光景が夢のように溶けだす模様を描く曲で妙に預言めいている。どんな物語も立ちあげてしまえそうな不思議な空間は過去も現在も未来も同居しているかのよう。イントロを足して情感を高めた「砂漠のきみへ」は突出していた。コロナどうこうでない、時代そのものの閉塞感からそっと逃がしてくれるような祈りのメロディ。長い長いギターソロは、2020年でも屈指の名フレーズだと改めて。

Hidden Place=隠された場所を意味する公演名から紐解けば、この部屋の至るところに置かれているアイテム、画面上には映らない蜜柑の存在もまた納得がいく。もっと言えばこの部屋そのものが隠された場所を示しているように思う。羊文学の音楽は誰にも言えない独り言を大切に守ってくれる力がある。『POWERS』はそんな優しくも堅固なシェルターで、このライブが映し出す映像はその心の風景とも呼べそう。そう思うと「powers」の未来は変わるかもというささやかな願いが一層胸に刺さる。その後のMCでは新衣装の話や新曲を録音しているという話に加え「今年は『POWERS』を沢山演奏したい」という話も。未来の話は希望がある。そんなことを強く思う1場面。

シリアスな警鐘を込めた「人間だった」とXmasソング「1999」がせめぎ合うようにクライマックスを演出し、『POWERS』のリードソング「あいまいでいいよ」。決して大きくフォーカスするような感情ではないことを歌った曲だが、伸びやかなメロディが有無を言わさないハイライトっぷり。内なる感情が溢れ出すような、隠された場所が暴かれていくような開放のイメージ。天から光が注ぐような演出も見事だった。ラストはアルバム同様「ghost」でしとやかにエンド。鎮魂歌のようであり、ここにいないものにも全て等しく想いを捧ぐ1曲。ラストカットは白い布、、いやあれはゴーストの姿。この部屋にずっといた、この心にずっといる大切な人の象徴。隠された場所から届けられた脆く繊細な感情の粒子たちは胸の奥深くに降り積もっていった。

<setlist>
1.mother
2.Girls
3.変身
4.コーリング
-MC-
5.ハロー、ムーン
6.ロックスター
7.おまじない
8.花びら
9.サイレン
10.砂漠のきみへ
11.powers
-MC-
12.人間だった
13.1999
14.あいまいでいいよ
15.ghost

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