宮部みゆき『火車』を読み、マイナンバー・キャッシュレスを考える
私はこれまで小説はほとんど読んでこなかった。
だから読書好きの人がこぞって「名作だ」というおもしろい作品のテッパンを読んでみようと思い、宮部みゆきの『火車』を読んだ。
もう30年以上前の作品であるにも関わらず、私の住む地域の図書館で蔵書されている本のほとんどが貸出中で、今も劣らずの人気作品なようだ。
最寄りの図書館では借りれなかったので、取り寄せてもらった。
本書を読むにあたって「ローン」「失踪」というワード以外の前情報は入れずに読んだ。
読んでみると、この物語のテーマは大きく分けて二つあると思った。
そのひとつが背乗り。
背乗りとは、赤の他人の戸籍を乗っ取って、その人として生きるという恐ろしい行為だ。
そんなことしたら誰かに気づかれそうなものだけど、実際にそういった事件はある。
たとえば朝鮮で若い女性を慰安婦にするために自身が強制連行したとする証言を数多く行い、自らそれについての出版物を出すなどしていた吉田清治という男。
もう一人は割と記憶にも新しい人物で、兵庫県尼崎市のドラム缶から死体が見つかった不気味な事件の主犯として逮捕された角田美代子という女。
この2名は他人の戸籍を乗っとった可能性が高いと噂されている。
日本人と姿がよく似ている外国人が、孤独な人を標的にするパターンが多いようだ。
本書では乗っ取る側も乗っ取られる側も日本人だった。
作中にこんなことが書いてある。
現在はさすがに本人確認書類として運転免許証やパスポートなど、顔写真付きの書類の提出を要求されるので、作品が書かれた当時ほどはセキュリティがガバガバではないものの、病院では今でも顔写真なしの健康保険証が多く使われている。
私たち日本国民の認識としては、一人一枚必ず社保でも国保でもとにかく健康保険証を持っているのが常識であるが、中には友人の健康保険証を借りて病院にいくという不届き者がいる。
その最たる例が外国人。
たった一枚の健康保険証を何人もの間でシェアしまくっている。
病気の治療目的としてわざわざ日本にやってきて、治療が終わったら即帰国という件も多いそう。
そのツケを払うのはもちろん私たち日本人だ。
たしかに健康保険証だけでは、そこに記載されている人物と本人が同一人物かなんて確認する術がない。
そういった問題を考えると、私はやはりマイナンバーカードは普及すべきだと思うし、いち早く健康保険証と一本化して欲しいと願う。
本書のふたつめのテーマが多重債務。
「借金は恐ろしい」ということは誰しもが聞いたことがあるはずだ。
金銭感覚を失った瞬間に人生は暗転する。
その事実を恐ろしいほどに突きつけられたのがこの物語だった。
「私は大丈夫」「そんなバカなことはしない」
そうやって誰もが思って生きている。
でも金融業界というのは、私たちよりもはるかにうわてだ。
あの手この手で自分達が儲けるためにと地雷を設置している。
今はなんでもキャッシュレスで物が買えてしまう世の中だ。
携帯をかざすだけ、クリックするだけで高額な買い物までできてしまう。
だから現金払いかクレジットカード払いの二択だった時代に比べると、より罠に嵌まりやすくなっていると思う。
私が本書で一番胸に刺さったのが以下のセリフだ。
そう、私たちは日々の情報から要らないものまで欲しいと思わされているところがある。
私もマイホームにずっと憧れている。
インテリアや日用品に徹底的にこだわった最高の暮らしをいつかしたいと夢見ている。
でも、よく考えたらそれって「情報」から生まれた幻想なんだと思った。
SNSや動画が普及することで私たちの物欲はさらに高まっている。
幸せに暮らす、幸せに生きるってなんだろう。
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