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1分で読める短編:スター

 ウチ、オトンもオカンも動物好きじゃなかったからちっちゃい頃からペットとかあんまりちゃんと飼ったことないねんな。でもな、小学校の二年か三年かぐらいの頃やったかなあ、夏休みのプール開きからの帰り道でセミ見つけて、そのまま持って帰ったことあんねん。

 手づかみで羽のとこ抑えてそのまま持って帰ってきたセミを、庭の物置から引っ張り出してきたちっちゃいカゴみたいなんに入れて、「スター」って名前つけてん。そんでその日はランドセル玄関に置いたらスターのカゴ持ってマキちゃんちに遊び行って、二人で色々野菜とかエサあげたりしてん。

 その日の夜、家帰って家族みんなで居間でご飯食べてる時に、オトンとオカンに「玄関でスター飼うねん」みたいな話をさらっとしたんやけど、二人ともテレビ見てたから「おーん」て適当に聞き流しててんな。まさかこんなにすんなりペット飼うの許してもらえると思ってなかったから、めっちゃ嬉しかったの覚えてるわ。

 でも次の日の朝になったら、玄関のとこに置いといたカゴにスター入ってないねん。めっちゃ焦ってオトンに「スターどうしたん?」て聞いたら、オトンはスターがセミやと思ってなかったみたいで、「セミなんか飼うたらうるさくてあかん!昨日の夜中もめっちゃうるさくて眠られへんかったから、二階の窓から逃してしもたわ。」って言ったんよ。

 それ聞いてもうウチ大泣きして、急いで家の裏の林みたいになってるとこ行って、スターのこと探してん。でも、林にはセミいっぱいおって、どれがスターかわからんかってんな。でもウチ、勝手にスター逃がされてめっちゃ腹たってたから、オトンへの当てつけのつもりでその辺にいたセミ15匹くらい捕まえて、スターのカゴに入れて持って帰ってん。

 でも、流石にまた玄関にカゴ置いてたらオトンに捨てられてまうと思ったから、庭の物置の中にカゴ入れとくことにしてん。そんで結局その日の夜、オトンが仕事から帰ってきても別に何にも言われんかってんな。

 次の日の朝になって、そういえばセミにエサやらなあかんと思って、冷蔵庫からレタス取って物置行ってカゴ開けたら、カゴの中のセミみんな死んでてん。今考えてみれば、真夏の物置の中なんてめっちゃ暑いし、空気穴もちゃんと開いてないような適当なカゴの中にぎゅうぎゅう詰めにされたんやから、そうなるよな。

 でも一匹くらいはまだ生きてるのおるんちゃうかと思ってカゴひっくり返してセミ全部地面に出したら、一匹だけ「ジジッ」てちょっと鳴いて動いた奴おって。ウチ、その時なぜか「こいつがスターや」って思ってん。

 でも、昨日までは全然平気で触れてたはずやのに、なんでかそいつを拾い上げられヘんようになってしもて。結局、他のセミの死骸ごと、ホウキで掃いて庭の隅の方に隠してん。

 あの時の、まだ微かに動いてるスターを拾い上げれんかった時に立った鳥肌の感覚、多分一生忘れられへんと思うわ。

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