上海のくらげ

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  • 読んで頂きたいもの

    自分の書いたものの中で特に読んでいただきたいものたちです。

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1分で読める短編:魚の幻

 もうすぐ世界が終わってしまうのは仕方のないことだ。どうせみんな消えてしまうのなら、せめて最後にあたたかい幻を見たい。  田舎道、遠くに見える電波塔を指差して「東京タワー!」と笑う子どものような。昔読み聞かせてもらった絵本に、大人になってから偶然出会った時のような。  そんなことを考えているうち、気づけば私は砂浜に居た。周りには、同じように日の出を待っているであろう人たちが5、6人居た。彼らの中にも不思議と怯えたり悲しんだりという目をした者はなくて、おだやかな微笑みをたた

    • 歌詞1:ガム

      夢を見るのが怖い 例えばその中で 大きな天使の翼 与えられたとして 僕はそれを重ね合わせて 空に祈ることしかできない もう戻れないあの部屋 窓から見えた観覧車
 訳もなく噛み続けているガムの味が 目を瞑った瞬間に全部なくなったら どうしよう 夢を見るのが怖い 例えばその中で 大きな紙とペン 与えられたとして そこに書くのが 虚しいだけの歌だったら もう戻れないあの部屋 ベランダで吸ったたばこ 訳もなく一つ残しているだけの飴玉が 目を瞑った瞬間に全部なくなったら どう

      • 1分で読める短編:祈りの時間

         毎晩の日課である祈りの時間もそろそろ終わりにしようと閉じていた眼を開けると、彼はそこに神を見た。神は彼に向かってこう言った。「お前はちょうど三日後の0時に死ぬことになっている。しかし、お前は私の存在を信じ、よく祈り、誠実に生きた。その褒美として、死の際にお前が心から知りたいと思う問いに対する答えを教えてやる。」  彼がクリスチャンになったのは、晩年、末期の癌が発覚して余命宣告を受けてからだった。しかし、一年あまりにも及ぶ闘病生活の苦しみは、彼に神の存在を心から信じ、縋らせ

        • 1分で読める短編:スター

           ウチ、オトンもオカンも動物好きじゃなかったからちっちゃい頃からペットとかあんまりちゃんと飼ったことないねんな。でもな、小学校の二年か三年かぐらいの頃やったかなあ、夏休みのプール開きからの帰り道でセミ見つけて、そのまま持って帰ったことあんねん。  手づかみで羽のとこ抑えてそのまま持って帰ってきたセミを、庭の物置から引っ張り出してきたちっちゃいカゴみたいなんに入れて、「スター」って名前つけてん。そんでその日はランドセル玄関に置いたらスターのカゴ持ってマキちゃんちに遊び行って、

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        1分で読める短編:魚の幻

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          6本

        記事

          1分で読める短編:月の秘密

           私が生まれる少し前に一度だけ行ったきりで、それ以来人間は月に行こうとするのをやめてしまった。なんでも、「わざわざ行ってもそこに何もないことがわかってしまったから」だそうだ。  そんな風に扱われるなんて、あんまりだ。月も、誰からも目指されずにぼんやりと浮かんでいるくらいなら、小さなゴムボールくらいの大きさにちぢこまって私の部屋に遊びに来ればいいのに。  そうしたら、月といろんなことをしてみたい。とっても大きなコップにサイダーをなみなみ注いで、氷の代わりに月をぽちゃんと入れ

          1分で読める短編:月の秘密

          3分で読める短編:熱帯夜

           飲み物でも買いにコンビニに行こうとアパルトのドアを開けた瞬間、いわゆる夏の匂いに包み込まれて私は思わずイヤホンを外した。  私にとっての夏の匂いとは、すなわち小学校のプールの匂いだった。今年引っ越してきたこのアパルトの目の前には小学校がある。今まで毎朝毎晩仕事に行く時と帰ってくる時はこの小学校の前を通っているはずだが、プールの匂いを感じたのは始めてだった。  なんだか懐かしい気持ちになって、小学校の門の前に立ってみる。なんだか小さく感じられるのは、単に私の身体が大きくな

          3分で読める短編:熱帯夜

          1分で読める短編:集団性夢遊病

           この東京を包み込む灰色の湿気に毒されて、現代を生きる人々は病に侵されてしまった。朝の通勤ラッシュ時に、まるでおもちゃ屋に並んでるクマのぬいぐるみみたいに無理やり電車に押し込まれる連中の目を見たことがあるか?  あいつらの世界には色がない。モノクロの日々を生きている。電車の中で急に怒鳴りだす老人がいてもさして気にも留めず、昼に食った飯の味もはっきり覚えていないまま自分のベッドに帰るために息をしている。そしてベッドに戻ると、明日もここから出なきゃいけないのかという憂鬱のうちに

          1分で読める短編:集団性夢遊病

          3分で読める短編:女の幽霊

           最寄り駅の近くに居酒屋がたくさんあるせいで、俺が金曜の夜にアルバイトを終えてアパートに帰る帰り道は、いつも酔っ払って馬鹿騒ぎしている大学生でいっぱいだ。俺はこういう馬鹿な大学生のことを心底見下している。馬鹿な男と馬鹿な女、セックスと酒のことしか頭にないくせに、どいつもこいつも自分が物語の主人公だ、みたいな顔をして笑っている。  そういう奴らを見下しながら帰路に着くのも最初の方は悪くはなかった。しかし最近は奴らとすれ違うだけでも苛ついて仕方がないので、金曜の夜はわざわざ人通

          3分で読める短編:女の幽霊

          1分で読める短編:imagine

           イヤホンから流れ出した曲は、いつも通りジョン・レノンの『imagine』。僕はこの曲が昔からずっと好きだ。小さい頃から家族でどこか出かける時は、ママがいつもビートルズのベスト・アルバムをかけてくれたっけ。おかげで今は、僕もすっかりビートルズ・フリークスに育ってしまい、音楽プレーヤーの容量いっぱいにビートルズの曲を詰め込んだ。  最近、歴史の授業でちょうど『imagine』が作られた20世紀の歴史について勉強した。当時はまだ人種差別が根強く存在していて、たくさんの人が根拠も

          1分で読める短編:imagine

          1分で読める短編:銀河

           以前、無性に何かを書きたくなった夜、酔いに任せて不特定多数の知り合いに「何か書いて欲しい題目は無いですか。」と尋ねてみたことがある。  色々と返信は送られてきたものの、その殆どについてはまだ書くに至っていない。なぜなら、とても濃いタバコを吸っていた女の先輩から送られてきた「君が美しいと思うものについて書いてみて欲しい。」という題目に、私はその後数ヶ月の間すっかり囚われてしまったからである。  その場の返事には「ありがとうございます!書いてみます。」と元気よく返してみたも

          1分で読める短編:銀河

          1分で読める短編:不毛な闘争

           2xxx年、。黒人差別反対のデモに端を発した差別撤廃の潮流が世界中を飲み込んだ。黒人差別だけでなく女性差別、LGBT差別、部落差別をはじめとする全ての差別を無くそうとマイノリティたちは躍起になり、実際それらは瞬く間に消滅した。  しかし、他の誰かを共通の敵にしたがるという人間の性は思っていたより強力なものであった。「差別のない世界」にも小さな、しかし確実な差別が新しく発見されるのだ。身長差別、一人っ子差別、海なし地域差別...。様々な差別たちが毎日次々と生まれては消され、

          1分で読める短編:不毛な闘争

          1分で読める短編:あばずれメシア

           ここ数ヶ月で、私は本当にどうしようもない人間になってしまった。でも本当はもともとそういう人間だったのが、何かのタイミングで自分自身にばれてしまっただけなんだろう。  ひとりで眠るには到底大きすぎるこのベッドの上で、私はいろんなことを考えてきたつもりだった。今のことも、昔のことも、これからのことも。そうしているほかに眠りに落ちるためのやり方を知らなかったし、そうしているのがなんだか好きだった。  でも、今は違う。私にとって夜は顔もはっきり覚えていないような男のことを愛して

          1分で読める短編:あばずれメシア

          1分で読める短編:働きがいセラピー

           社会人のうち、何割が自分の仕事にやりがいを感じられていると思う?そうじゃないやつのほうが圧倒的に多いに決まってる。それもそうだ、いつも同じ服を着て、同じ時間の電車に乗って、同じ席について同じような仕事をする...そんな仕事に憧れる人間なんているはずがない。現に、今年も「子供の将来の夢ランキング」ではスポーツ選手やタレント、youtuberなんかが上位を独占した。  そんなかわいそうな社会の奴隷たちに「働きがい」を与えるためにあるのが、「働きがいセラピー」というサービスだ。

          1分で読める短編:働きがいセラピー