1分で読める短編:あばずれメシア
ここ数ヶ月で、私は本当にどうしようもない人間になってしまった。でも本当はもともとそういう人間だったのが、何かのタイミングで自分自身にばれてしまっただけなんだろう。
ひとりで眠るには到底大きすぎるこのベッドの上で、私はいろんなことを考えてきたつもりだった。今のことも、昔のことも、これからのことも。そうしているほかに眠りに落ちるためのやり方を知らなかったし、そうしているのがなんだか好きだった。
でも、今は違う。私にとって夜は顔もはっきり覚えていないような男のことを愛していると信じ込むための行為の時間になったし、大きなベッドはただ二人の動きにあわせて気を遣ったような音を立てるだけの無機質な隣人のようになってしまった。
今隣で寝ているこの人は、さっき私の上に乗っかっていたときしきりに私の左手首のためらい傷にキスをした。私はなんだか嬉しくなって、彼に「なんで?」と問いかけた。彼は少し考えたあと、なんだかそれっぽいことを言って笑った。なんと言っていたのかはもう覚えていないが、何も答えられなかった方が幾分もましだと思った。
私には、一つ決めていることがある。それは、行為をしている間も、電気を明るくつけたままにしておくということ。私がこの小さな部屋の中でつけている光が、どこかの誰かの見る夜景の一部になっている、とでも信じていないと、本当にどうにかなってしまいそうだから。
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