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読書バトルの火蓋が切って落とされた!|ひよこ家の読書交換日記②

前置き

ビブリオバトルというものをご存じだろうか。私が大学生の頃に関西の大学界隈で始まった、読書感想プレゼン合戦イベントだ。参加者はおすすめ本を持ち寄り、プレゼンして聴衆から最も読みたい本として選ばれた図書を推薦した者が勝者となる。Wikipediaを見る限り現在も続いてて、高校や中学の世代にも広がっているらしい。

読書の感想。それは知の入力と出力の循環である。書を読み、意を汲み、評を紡ぐ。そして出力である書評はまた、新たな理解を生み、誰かの入力となってつながってゆくのだ。

ニーチェは「足下を掘れ、そこに泉あり」といったらしい。読書感想についてあれこれ御託を並べても仕方ない。大きなことを論じる前に、小さなことからコツコツと始めてみようではないか。

さて、前置きが長くなったが、家庭内でこの読書感想バトル的なことをやってみようと思う。きっかけとルールは妻が書いてくれたので、そちらを読んでほしい。ビブリオバトルが知的で優雅な競技会だとすれば、我々二人がこれから行うことは愛憎入り乱れた読書感想の総合格闘技、フリースタイルドメスティック書評バトルだ。

課題図書①の感想

妻から放たれた記念すべき1本目の矢はこれだ。

ビートたけしの毒舌本。タイトルや体裁からは技術指南書かのように見せかけているが、その実は東スポにいつも呟いているような、世相を舌鋒鋭くたたき斬った痛快ブラックエッセイだ。君主論や国富論や相対性理論なんかが出てくるものの、15年以上前の本なので取り上げられる出来事はいささか古い。それでも、これを技術書として読むとすれば、筆者は一貫して「悪口は機転だ」と言い切っている。

日本人は総じてクソ真面目であると思う。勤勉さや礼儀正しさという意味ではない。世間の目を気にするが故、言動が何一つ面白くも印象的なものにもならないのだ。最近はクソ真面目たちが、偽りの情報や、偏った情報の中で形成される幻の「正義」にとらわれて殴り合いを始めるから、真面目さを見失ってクソばかりが目立つ。

悪口こそセンスだ。困ったことや不条理なことを批判・主張する時こそ、タイミング=間が大事だし、センス=機転がものをいう。いかに場と相手に即したことが言えるかが肝要だ。反論だってそう。返しにもタイミングとセンスが問われる。だから日ごろから言葉のタイミングとセンスを磨いている芸人たちは、世相を斬るのに向いている。

しかしながら、メディアは芸人をコメンテーターに重宝しすぎだ。テレビ番組に限らず、YoutubeやSNSでも芸人のコメントが支持を多く得ている。弁が立つからと言って、彼らの主張は筋が通っているわけでも、民意を汲んでいるわけでもない。タイミングとセンスがいいスピーカーなだけだ。

東のお笑いのご意見番がビートたけしなら、かつて西のお笑いのご意見番であった上岡龍太郎は大昔にこんなことを言っている。

(芸人とヤクザは)元々同じタイプの人間やからね。できるだけラクしたい、みんなと一緒のことはしたくない、それでいてチヤホヤしてほしい、お金はようけ貰いたい。ほとんどこういう考えの人間が、芸人とヤクザになるんですね。ただ、向こうは腕が達者で、こっちは口が達者やった言うだけで。(中略)せやから、我々芸人の言うこと聞いて、へーとか、なるほどなぁとか、そういうことは一般の人が言う必要ないんですね。
「ふっ 馬鹿が」
と、こう思てりゃええ。
https://www.youtube.com/watch?v=df3kHdAdMso

ヤクザと一緒とまでは言わないが、口の達者ぶりを極めれば、立派な生業にはなる。でも、その技術は所詮、悪口への最短経路であって、主義主張の最高到達点ではない。洗練された知性や熟練の経験、研ぎ澄まされた感性から紡ぎだされる言葉には遠く及ばないはずだ。

と、いうようなことをビートたけし自身がこの本でも言っている。これが芸人の狡いところだ。
私がこの本を評するとすれば「天才ビートたけしという芸人ごときが指南する、『悪口は機転だ』というたった一言を最高に痛快に長ったらしく語った本」である。

課題図書②

妻の考えが少しわかった気がする。これが悪口の技術だと思っているなら少し視野を広げていただこう。私からはこの本を紹介する。

悪口とウソは已己巳己だ。妻が私に愛情を込めて親しげな悪口を言う時、私は妻に敬意を表して優しいウソをついている。そんなウソのつき方・見抜き方は、この本から学んだ。「悪口の技術」と発売年代はほぼ同じ。つまりは、恐らく妻が「悪口の技術」を読んでいた頃、私はこれを読んでいた。そんな本を妻が今読んだら、どんなことを感じるだろう?

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