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CSO(チーフ・ストーリーテラー)という役割


2006年、佐藤可士和さんがユニクロの根幹に関わってイメージを刷新させ、「アートディレクター」という仕事が確立されました。

2017年頃から、noteを爆進させる深津貴之さんのような「CXO」という仕事が注目を集めています。


こうして「クリエイターが経営者と共に歩む」という事例は沢山生まれている……のですが、企業のストーリーをしっかり組み立てていくような役割は、案外まだまだ弱いのかも。いや、その役割は今も確かに存在しているのですが、「高度な専門職」として、認識されにくいのかもしれません。


CSO(チーフ・ストーリーテリング・オフィサー)という役割


オウンドメディアだ、SNSだ、創業者の原体験をnoteで発信だ……などなど、企業が「ことば」を世の中に出すチャネルは、ここ数年でいくつも増えています。

それと時期を同じくして「ブランド・ジャーナリズム」や「ストーリー消費」なんていう用語が、マーケティング雑誌の表紙を今っぽく飾っています。が、実際、多くの企業が「ことば」の出し方に悩んでいる。

私はそのお悩み相談役としてコンサルに入らせてもらうことが多いのですが、紐解いていくと、「ことば」を出す場面ってめちゃくちゃ多岐にわたり、それがかなり、こんがらがっている。その内訳を見てみると、座組はだいたいこんな感じ。


企業から出る「ことば」と、その担当者

経営理念
▶ 広告会社のコピーライター・経営者
キャンペーンのコピー ▶ 広告会社のコピーライター・社内のマーケター
経営者のSNS運用 ▶ 経営者本人
経営者のスピーチライター ▶ 経営者本人
プレスリリース ▶ 広報担当者
メディア対応 ▶ 広報担当者
オウンドメディア ▶ 広報担当者・外部の編プロ
SNS運用 ▶ マーケター・SNS得意な大学生
採用広報 ▶人事と広報
カスタマーサポート ▶カスタマーサポート担当
炎上時の謝罪文 ▶ 広報担当者・経営者・外部の有識者や弁護士


担当者、見事にバラバラや……!


もちろん会社の規模によっては「全部社長がやってるで!ってかデザインもコーディングもカスタマーサポートもSNSも、全部社長や!」というところもありますが(お疲れ様です…)大きな規模の企業になると、上記のような座組が増えていきます。

で、この、経営者から大学生バイトまで幅広すぎて、コンセンサスがとれない世界。

経営理念を作るために、コピーライターに大きな対価を払って何日も何日も練ることはありますが、実は大学生バイトの担ってるSNS発信のほうが世の中に見られていたりもします。そして一番SNS動向を追っている大学生バイトは、経営理念を考える会議には参加していない……!

チャネル多すぎ、担当者多すぎ、意見バラバラすぎ……で、客観的に見えるブランドイメージもまとまらず、そうすると社員の意志もまとまらず、ぐちゃぐちゃの配線みたいになっちゃいます。。



もちろん、アウトプットする面は多いので、担当者が複数人いることは問題ではありません。SNSは若い人が得意……ということも多いので、優秀な大学生アルバイトだと適任だと思います。


でも、大学生アルバイトや、委託先の編集プロダクションの方に「そもそも、この会社が大切にしていることって何なのでしょう?」と聞いても、なかなか核となる内容が返ってこない。現状のKPIや課題しか見えていないし、そもそもクライアントから「現状の課題」しか共有されていないことが多いです。



絡まった状況に、筋をスーっと通せる軸。CSO(Chief Story telling Officer)という専門職に該当する人が、まだまだ少ない。

そして軸がないまま、

「広告キャンペーンは代理店にお願いしよう」
「オウンドメディアは編プロにお願いしよう」
「PRはPR会社にお願いしよう」
「SNSは詳しい大学生にお願いしよう」


と、「餅は餅屋だ!」と外部に依頼してしまうと、さらにややこしいことになります。広告会社も編プロも、マジシャンではありません。軸のない、無理矢理与えられた素材で考えても、一過性のバズや、表層的な訴求になってしまうことも多々……。


一方、Nikeの広告キャンペーンが一貫して強いメッセージを打ち出していることは有名です。これは今に始まったことではなく、長い歴史をかけてブランドを築きながら、さらに時代を切り開いています。


そんなNikeの中には、なんと90年代からCSO(Chief Story telling Officer)の役割が存在しているんだとか。チーフ・ストーリーテリングオフィサー、もしくはチーフ・ストーリーテラー(長いな!) あまり耳馴染みのないワードですが、以下の記事でその役割が語られています。

NikeのCSOであるNelson Farrisによって生み出されたストーリーの軸は、新入社員研修ではもちろん、小売店の営業担当者まで、隅々まで伝播しているそうです。


また、CSOという肩書きこそありませんが、日本企業で「ことば」の軸が通っているなぁ……と惚れ惚れしてしまうのが、無印良品。

次々と海外の都市に受け入れられていく無印良品。NYやアイルランドで暮らしていると、そのファンが多いことに驚きます。

「MUJI、とても好き。日本らしいブランドだよね」
「狭い家で上手に生きる術を、僕は日本から、そしてMUJIから学んでるよ!」

と、海外では「日本らしさ」と共に愛されています。

その軸となる姿勢を、同社のアドバイザリーボードである原研哉さんはこの広告とあわせて、以下のように語っておられました。


      「 水のようでありたい 」


原 研哉 『それから4番目は「水」です。「水は方円に随う」という中国の言葉があるように、水は器の形に合わせて自在に姿を変えることができます。無印良品のお店が世界中に広がってきたある年に「水のようでありたい」というメッセージを作りました。それは、何かを主張して無印の色に染まってくださいというのではなくて、あなた方の文化の中に知らないうちに入り込んで、必要不可欠なものになっていたい、という意味合いがあります。

これは、都市をコップの水に映しこんだ写真で、背景の都市のシルエットが水の中に結像しているものです。MUJIが出店するごとにその土地にグラスを持っていき、こんな写真を撮っています。それをお店にどんと据えながら、「水のようでありたい」というメッセージを、さりげなく伝えているつもりです。』

   無印良品とクリエイター より


そして、無印良品のサイトには以下のような文章が掲載されていました。

"無印良品は水のようでありたいと思います。水は穏やかで、不可欠で、いつも人の傍らにあり、憩いと潤いを提供します。酒のような華やかさはなく、香水のように人々を魅了することはありませんが、純粋であり続けることで、全ての人々の普通の健やかさを保証し続けます。穏やかな水は、年月を重ねることで、山をも削り、時には大きな自然の力の現れとして岩をも砕く力を発揮します。そのような力を秘めながら、あくまで悠々と、世界の隅々へ、人々の求める場所に、広がって行きたいと考えています。"

無印良品からのメッセージ より


この「ことば」を読んだとき、私のなかで、ストン、と気持ちよくあわさった感覚がありました。

無印良品の商品であり、SNSであり、店内のBGMであり、店員さん1人ひとりの接客であり、アプリのUXであり、お菓子の品質であり……すべてのイメージと、この「ことば」が、同じブランドであることがストンと、腑に落ちた。軸がある、哲学があるなぁ、と。


こちらに原研哉さんのトークをまとめた記事がありますので、ご興味のある方はぜひ。



また、経営者自身がSNSに長けていたり、スピーチ力が圧倒的に高い……という会社もあります。それは本当に素晴らしいことですし、私の友人知人にもそういったカリスマ的な経営者は多いです。

ですが、そうした経営者ほど、その現状を楽観的には捉えていないこともあります。

個の時代と言われている今ではありますが、会社は器でもあります。経営者のカリスマ性に深く依存している場合「万が一私がいなくなったら、この会社はどうなってしまうのか」という不安は尽きません。


スティーブ・ジョブズ亡き今も、私はApple製品を愛用しています。





ちなみに、私の思うCSO像は、まず経営者の一番の相談相手であること。そして経営者の「属人性」という不自由さを溶かしていき、彼ら彼女らの精神的負担を楽にするような、カウンセラーのような役割でもあると思っています。



でも、「ことば」を複数人で展開するのは難しい



ただ、デザインとは違い、「ことば」というのは、ルールづくりがものすごく難しいのです。

たとえば、以下のようなロゴガイドラインはよくありますよね。

https://slack.com/intl/ja-jp/media-kit より

ロゴに限らず、ブランドのデザイン面は、かなり細かなガイドラインが作られていることが多いです。そのガイドラインがあれば、複数人のデザイナーで同じクオリティのものを作り上げられるから。だからこそ、ルールを作るアートディレクターの地位が高くなっている、というのもあるでしょう。


しかし「ことば」はどうなっているでしょう。

地位の高いコピーライターが根幹の「ことば」を作ることはありますが、「ことばや思想のガイドライン」を明確に作ることは稀です。というか、難しい。



漢字やひらがなの正しい表記一覧なとはあっても、表現面での厳格なガイドラインがあると、臨機応変さを求められるSNSアカウントの運用は難しくなってしまうでしょう。これとか絶対にアウトやん。

(この炊飯器おしゃれやな……)



SHARPさんはSNSアカウントの代表例……のように言われることが多いですが、これはもう、天才です。なかなか他の人が真似できることではありません。

対象的に、無印良品の初代SNS担当者であった風間さんは、インタビューで以下のように話されています。

"風間さんが公式アカウントの運営に当たって重視しているのは「無名性」だ。無印良品の店舗やECサイトでは、著名なデザイナーを起用した商品でも大々的にそれを公表せず、まるで無名のデザイナーが作ったかのように演出する。それと同様に、ソーシャルメディアでも運営者個人の人間性を前面に出しすぎないよう意識しているという。"

「リアルもWebも変わらない」――ファン100万人の「無印良品」アカウントを1人で支える風間さん (ITmedia)より 

上記は2012年のインタビューですが、最近のコラムでも「ソーシャルメディアは担当者の個性を披露する場ではない」と語られています。


SNS運用の世界でも、こうして「成功事例」が二極化していることもあり、「ことば」を司るというのは正解が見えづらい。そして、個々の才能に依存しやすい。


私の見解ですが、CSOはスポークスパーソンや、SNS上のインフルエンサーである必要は必ずしもないと思っています。まずはすべての社員やアルバイト、店頭スタッフ、制作会社や代理店などのステークスホルダーと向き合い、筋道を示すことが重要でしょう。

ですが同時に、SNSの風向きなどを理解していることも重要なスキルになると思います。



ことばの力を軽くみて、ことばの価値が低くなった



CSOという役割はなぜ少ないのか。それは、「ことば」はデザインのような専門職のように捉えられにくい……という側面も大きいと思います。

まぁ日本語って、みんなだいたい書けますもんね。それに誰でもWebメディアを立ち上げられる今、ライターにだって、編集長にだって、明日から誰でもなれるわけです。


ただ、本当に「誰でもできる」簡単な仕事なのでしょうか?




私が2015年から、THE BAKE MAGAZINEというお菓子屋さんのオウンドメディアの編集を任されていたとき。(3年間の編集長期間を経て、現在は退任しています)


創業者と何度も話し、その気持ちに憑依し、国内外に取材に走り、原材料を産む北海道の牧場にも、衛生を徹底する工場にも行き、新宿の店頭で商品を焼き、アルバイトにも役員にも様々な話を聞き、あらゆる知人に商品をプレゼントしては反応を見て、SNSで毎日ずっと評判をリサーチし、海外の先行事例を調べまくり、目が届く限りすべてに意識を巡らせていました。

それで「全てを知っている」とは言えないかもしれませんが、それでも、出来る限りの細胞を使って吸収し、その知識や感情を集大成させて、そして最終的には遠く遠くからの俯瞰した視点で、記事を書きました。

すると、「この記事を読んで、感動して、入社を決めました」という新入社員や、「少し忙しすぎて疲れてたけど、この記事読んで、泣いちゃった。この会社で頑張ろうと思った」と言ってくれた現役社員がいました。社外のファンも増えました。コアファンと呼べるような方々でした。たくさんの取材も来ました。新入社員も、記者さんも、ほとんどがオウンドメディアを読んで、何かしらの感想をくれました。店舗の食べログにも「オウンドメディアが面白い」というレビューが書いてありました。嬉しかった。


創業時を盛り上げるオウンドメディアとしては、大成功だったと思います。




でも、そういった成功事例を真似て、世の中に中途半端なオウンドメディアが量産されるのが、本当に吐くほど嫌だった。オウンドメディアブーム真っ只中だったときは、大量に「オウンドメディアの成功方法」について取材依頼が来たのですが、ほとんど断っていました。あまりにも「どうすれば簡単に成功しますか?」というスタンスが多すぎて、心底腹が立っていたからです。


結果、オウンドメディアブームはすぐに終了。
ほんの4、5年でした。


真摯にやっていたところもありますし、時代が変わったこともありますが、失敗の大きな原因は「ことば」を生み出すことを、ナメてかかった人が多かったことだと思います。


また同時に、「ことば」を専門職にする私たちが、積極的に、経営に深入りできなかったこと。ささやかな自己実現(これはこれで、尊いものです)に注力しているうちに、「役職」ではなく「キャラクター」として消費されていく流れを作ってしまったようにも思います。

オウンドメディアの高度な成功事例がもっと生まれれば、CSOのような役職、人材が生まれていたかもしれません。でも、出来なかった。私は佐藤可士和にはなれなかった。

これは私達が、深く反省すべきことです。人様のお金を使い、失敗した事実を、反省しなくちゃいけません。大いに反省して、次のフェーズにいかなきゃいけない。



デザイナーに学ぶ、働き方の構造改革



先日モリジュンヤ(@JUNYAmori)さんと話していたとき「僕たちも、デザイナーの人たちが歩んできた道を歩んでいかなければいけない」という言葉が出てきました。

(モリジュンヤさんは以前milieuの記事にも登場してもらっています)


ここ数年のデザイン業界で、どんな前進があったか。

デザイナーがCCOやCXOという経営者ポジションになり、それが商品にとって、社員にとって、社会にとって、より良い影響を起こす。そのための立場を証明する。デザイナーの人たちは、ここ数年で猛烈に、その努力をしてきました。

深津さん(@fladict)や坪田さん(@tsubotax)の姿を見て「こういう働き方があるのか!」と進路を考える若者も多いでしょう。そしてこうした活動は、広告やデザインの価値が再定義される中で生まれた、彼らの本質的な生存戦略でもあると思います。

(司会をさせていただいたCXO Nightでは、彼らの歩みを学ばせていただきました)




正直、私は、いつまでもネットの片隅で、好きなことを1人気ままにつぶやく人生でいたい……という気持ちもあります。それで現状生きていけているし、産みの苦しみはあるものの、自由で、気ままで、楽しいからです。


ただ周囲の経営者が、困ったとき、炎上したとき、「どうしよう、どうしたら良いですか?」と相談に来てくれる。会社経営経験もない私に。

その状況に対して、私が裏方で「ことばの骨組み」を考えて、伝えていくことで、物事がおどろくほどスルスルと良い方向に流れていく……という成功体験が何度もありました。そしてそのことに、とても激しく生き甲斐を感じている自分もいました。

ことばは夜道を照らす光にもなるし、攻撃から守る盾にもなるし、傷を癒やす薬にもなる。私にはそうした「ことば」と「ネット」の専門性がある、と自覚しました。

小学生の頃からずっとインターネットばかりしていて、「私なんか…」と自虐していましたが、今はもう「私だから」と言えるだけの筋力が育っている。自虐はそろそろやめよう、と思いました。


だから私は、CSOになりたいです。
そしてその専門職を、ちゃんと根付かせていきたい。


片足をアメリカに突っ込んで暮らしているので、リアルタイムに出来ることに限りはあるかもしれませんが、だからこそ持てる視野もあると思っています。

ということで、ストーリーテラーの、CSOとしての相談をしたい……という企業さんがいらっしゃいましたら、contact@milieu.ink までご相談ください。(スタッフも目を通します。冷やかしはやめてください)

一応断っておくと、「インフルエンサーとしての表向きの拡散業」ではない、ということだけご理解いただければ幸いです。


……という、長編の営業noteになってしまいました!



ここからは、購読者の方に向けたオフレコな話をしていきます。どうしてこのような方向転換をするのか、裏側を書いていければ。



これまでにも何度か、

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1988年大阪・千里生まれ。京都市立芸術大学卒業。ニューヨーク、ニュージャージを拠点に活動。大学時代にSHAKE ART!を創刊。会社員を経て、2015年に独立。milieu、noteマガジン『視点』にてエッセイを更新中。著書『ここじゃない世界に行きたかった』が文藝春秋より発売