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「コロナ禍の作品づくりとは」 型絵染 澤田麻衣子さんに聞く

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型絵染 澤田 麻衣子さん

新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、各地で人が集まるイベントや行事の多くが中止されました。参加することを楽しみにしていた人たちは残念な思いでしたが、主催する側にとっても発表の機会を奪われる大きな痛手となりました。

例年とは違うこの1年。ものづくりの作り手たちはどのように過ごしてきたのでしょうか。

今回ご紹介する京都の「型絵染」は、京都の「京紅型」という染がベースにあります。花鳥風月などの自然素材をモチーフに図案を作成し、型紙に写して彫ります。それを用いて生地に防染糊を置いて染色していく染めものです。

その京都で活躍する型絵染 澤田麻衣子さんの工房「彩苑」にて、コロナ禍での制作活動や着物に対する思い、そしてこのような状況だからこそ大切にしたい、身近で楽しい作品づくりについて聞きました。

思うようにつくれない日々

昨年2月にある小売店の創業記念パーティーに出品することになっていた澤田さん。しかし、コロナの感染が広がる中、中止されたといいます。その後緊急事態宣言が発令され、開催を予定していた別の催事も「計画」の段階に戻されました。さらに、6月に個展を開く準備を進めていましたが、会場のカフェギャラリーがお休みに。最終的に11月に延期されることになりました。

「季節感」を大切にしている澤田さん。
「作品展に合わせて春の色柄で作品づくりを進めていましたが、秋に向けてつくり直しました。すでに制作した春のつくりの作品は一年を通しての作品としました」といいます。

「作品展は6月を予定していたので、初夏を感じさせる作品を用意していました。紗や麻などの透け感のある素材で、配色もすっきりしたものを多く制作しましたが、コロナの影響で延期。その季節に作品を身に着けて『楽しい』『お出掛けするのがワクワクする』と思っていただけることを願っていましたが、その思いは叶いませんでした」

また、いくつかのイベントが中止や計画の段階になったことで、気持ちの変化もありました。緊急事態宣言中は関係先も休業となり、初めのうちはあまり感じることのなかった不安が次第に募っていったと話します。

当初、澤田さんは前向きに考え、「時間がたくさんできたので、これを機に作品づくりをたくさんやろう」と意気込んだそうです。しかし、「これまでの納期のある仕事とは違い、自分の進度で制作したことで制作のペースは落ちていきました。その後、緊急事態宣言が解除された頃には、元のペースに戻すのが大変でした」といいます。「気持ちが乗り切らない」こともありました。「大変な世の中の状況と、着物を楽しく装うことのギャップ」に戸惑い、さらに制作のペースが乱れたことで、思うようにつくれない時期を乗り越えるのに苦労したのです。

Ⅰ.「型絵染」工程1:「図案作成」~「型彫り」~「糊置き」~「地入れ」

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上写真①:図案を基に型紙を彫ります。その型紙と「型彫り」に使う愛用の「キリ彫りの刀」


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上写真②:左:「型紙」、右:左の型紙を用いて生地に防染糊(青い部分)を置いた状態

着物を着る機会を待っている方がいる

そのような中、コロナ禍でも開かれた催事もありました。ある作品展では、日頃から着物を愛好する人たちが着物を着て見に来てくれたのです。

「自粛中は外に出るだけでなく、着物を着て出歩くことにどこか後ろめたさを感じるような空気がある中で、どのような反響があるのか予想ができない状況でした。そのときお客様から掛けられた言葉は、『着物を着る機会をつくってくれてありがとう』『待っていたよ』というものだったのです。そこには着物を着ることを楽しみにしている皆さんの姿がありました。思いがけない声に『このような状況だからこそ着物を楽しむことが必要だ』と感じたんです」

作品展でもらったお客様からの「応援」はその後の創作の励みになった、と澤田さんは話します。

普段、澤田さんは「積極的に交流を求めるタイプではない」といいます。しかし、「人に会えない状況になって、意外に自分も人と触れ合うことを求めているのだ」と気づいたそうです。

「着物を着る方と実際に会って、『どういった作品がお似合いになるか』とアイディアを錬る。これまでの作品づくりの原点を改めて見つめるとともに、人の手でつくった『ぬくもり』を感じられる作品をもっと『身近なもの』にしたいと考えるようになりました」

Ⅱ.「型絵染」工程2:「彩色」

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上写真③:帯に彩色をする澤田さん


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上写真④:写真③の帯の裏側はこのようになっています。(防染した部分は染料を通さず白いままなので、染め上がりの雰囲気を裏から確かめます。)

「型染め」をもっと身近で楽しいものに

人と触れ合えない状況だからこそ身近でありたい「手づくりのぬくもり」。それをどう伝えたらよいのか。帯を主に制作してきた澤田さんですが、日常に使用できる「小さな作品をつくりたい」という気持ちが湧いてきたそうです。

例えばマスク。「型染め」をした生地を仕立て屋さんに頼んでつくっています。衛生商品ならではの難しさもあり、試行錯誤の末、完成しました。今では日々の生活に欠かせないマスクは、作り手のぬくもりを感じられる一番身近な小物といえるかもしれません。

昨年は桜の頃に結ぶ「帯」を制作。着物を着る人にとっては「この時期にしか着られないもの」は着る回数も少なく、一度着そびれてしまったら来年になってしまうのでもったいないと思いがち。しかし澤田さんは、「この季節にしか着られないから、着よう」と、むしろ「着たくなる」ものになるといいます。着ることが増えれば楽しみも増える。季節のものにはそんな楽しみ方もあるのでしょう。

Ⅲ.「型絵染」工程3:「糊伏せ」「地染め」を経て、染料を定着させるために生地を「蒸し」、余分な染料や防染糊を洗い落とす「水元」を終えると完成です。

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上写真⑤:染め上がった作品


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上写真⑥:刺繍を施した作品

コロナ禍で変わったこと、変わらなかったこと

新型コロナウイルスの流行から1年が経ちましたが、澤田さんは「実際にお会いして雰囲気を感じて制作をしたいという方向性は変わらない」といいます。「SNSなどで注文を受けることもありますが、直にお会いすると情報量が違います。その方がどんなものを好きなのか、どんなものをつくったら喜ばれるのかを生で感じることでアイディアがより湧いてきます。それはコロナ禍でも同じです」澤田さんの作品は、着る人との「触れ合い」から生まれ、それはこれからも変わらないのです。

「このような時期だからこそ、『着物を着て楽しむ』とはどのような意味があるのかを考えました。そして、着物に大切な思いを込める日本の文化を強く意識するようになりました。主役は着る人で、作り手は黒子。作り手として、着る人にとっての「楽しみとは何か」を考えながら、その人に寄り添う作品づくりをしていきたいです」

その中でより身近に楽しんでもらえる小さな作品も生まれてきています。

「今後は友禅の勉強をして、友禅のやわらかく、絵を書くように自由なところを作品に取り入れていきたい」と楽しそうにお話くださいました。

澤田さんはお茶もされていて、今後はお茶道具の「ふくさ」や「お仕覆」もつくってみたいとか。小さな作品を通じて、すぐそばに「楽しい」と「ぬくもり」を感じられる澤田さんの新しい「型絵染」に期待で胸が膨らみます。

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