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『パラレルトーク』 作:小耳鋏うさみ【5分シナリオ】

「パラレルトーク」作:小耳鋏うさみ(こみみはさみうさみ)

◾️登場人物
一条 葵 (28)    ファッション雑誌編集者
闇天使 (28)   パラレルトーク参加者
編集長     葵の勤める会社の編集長


○葵の部屋
スマホに着信。着信画面には『編集長』の文字。
通話を開始する一条葵(28)。

葵 「編集長、お疲れ様です。一条です。また取材ですか?……はい、はい。」

葵、髪をくるくる指に絡めながら、流し聞いている。

が、指を止め、
葵 「え、見ず知らずの人とおしゃべりするサービス?!」

編集長の声「そう。話相手はランダムに割り当てられるらしいから。取材よろしくー」

○タイトル 「パラレルトーク」
 
○パラレルトーク画面 (Zoomのような画面)
葵が画面全体に映る。

葵 「(カメラを覗き込みながら)……あっ、入ってきた」

『闇天使が入室しました』とパラレルトークの画面にポップアップが表示される。

葵 「きゃっ……」

急に真っ暗の部屋と人影が映る。驚く葵。
闇天使(28)はフードをかぶっている。顔は見えない。

葵 「どうも~。私、アオイっていいます。これ使うの初めてで……」

闇天使「……」

葵 「あの~。お、お名前なんて言うんですか?」


闇天使「(下を向いたまま)……やみてんし」

思春期全開のハンドルネームを言われて、思わず吹き出す葵。

葵 「(笑いながら)闇天使!?え?てか何歳??」

闇天使「……28歳」

葵 「うっそー!私と同い年! じゃあ……ヤミちゃんって呼ぶね! 仕事なにしてるの?」

闇天使「……何も」

葵 「やだ~引きこもり? 正直いうとさ、今日取材しないといけなくて。ごめんね。ヤミちゃんじゃ取材にならなそうだから。もう切るね」

闇天使「まって! 愚痴とか聞くよ?」

葵、「ふーん」とすました顔。

× × ×

葵 「それで~、今日なんて休みなのに仕事頼まれちゃってえ」

ビール片手に愚痴をいう葵。
闇天使、黙って頷く。

× × ×

葵 「彼氏も一応いるけどねえ。なんか微妙で~。合コンとか呼ばれても行くの面倒になってちゃったあ」

画面越しの葵の部屋、ビールの空き缶が増えている。

× × ×

葵 「出かける用事ばっかりでやんなっちゃう~」
闇天使「大変だね。少しは休まないと」

葵、手を広げネイルを見ながらぼそっと呟く。

葵 「は~あ。もう何もしないで私も引きこもってたーい」

闇天使にやりと笑う。


闇天使「……ねえ、もう一回言って?」


葵「え?(画面を見る)だからあ、【もう何もしないで引きこもりたい】って……でも冗談」

闇天使「(葵の言葉を遮り、大きな声で)ありがとう」

葵「……え?」

闇天使「ねえ、私の本当の名前教えてあげるよ。」

闇天使の口元がア・オ・イと開く。
葵が見る画面には、フードをはずした闇天使が写る。
葵、画面を見て驚く。

葵  「(空気の抜けた声で)誰……?」

顔が映った闇天使は葵と同じ顔をしている。

闇天使「アオイっていうの」

葵 「冗談やめてよ!」

突然、画面が真っ暗になり、砂嵐が流れる。
やがて元の画面に戻り、葵と闇天使が映る。
闇天使は床に手をついて、感触を確かめている。
体を触って、画面に向かって振り向く。
画面にはにっこりと笑う葵が映る。

闇天使(葵)「ちょっとどういうことよ!これ!」

葵(闇天使)「私がしっかりあなたを生きてあげる。安心して?」

闇天使(葵)「私の体返せ! ねえ! ねえ!」

闇天使になった葵、カメラに近づいて懇願する。

葵(闇天使)「そっちの世界で頑張ってね」

画面に向かって叫んでいる闇天使(葵)。
高笑いしながら、画面を切る葵(闇天使)。
 
○闇天使の部屋内
パソコン画面。『終了しました』ポップアップが出ている。
闇天使の姿の葵、(以降、葵)は部屋を見渡す。
窓が塞がれ、外の様子が見えない。
テレビを見つけ、電源を入れてみる。
テレビ画面にニュースが流れる。ガスマスクを被ったアナウンサーが中継している。

アナウンサー「本日は隔離後60年の式典が実施されています。私たち人類は、謎のウイルス発生により、隔離生活基盤を作り上げてきました。今後も! 私たち人類はウイルスに負けず、新しい生活様式を更新していくことでしょう。たった今総理が到着されたようです」

ガスマスク姿で式典を実施している映像が流れる。『内閣総理大臣代理』と名札がついている。

葵、リモコンを投げつける。
と、突然パソコンから「テッテレー」と音楽が流れる。

パソコン音声「パラレルチャンスルーレット!」

パソコン画面。
右上には『パラレルチャンス』の文字。画面上でルーレットが回っている。



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