いい天気
俺は電話ボックスとして生きていた
電話ボックスになった俺には一つ困ったことがある。
『また、あのじいさんだ。』
やさしい表情を浮かべるこのじいさんは毎日決まった時間に10円を片手に俺のところへやってくる。
ちゃりん
ぷるるるる ぷるるるる ぷるるるる・・・
電話には誰も出ない。
『ばあさんや、今日はいい天気じゃった。』
じいさんはいつも一人で話している。
亡きばあさんにでも話しかけているのだろう。
俺は情に弱い。俺はじいさんの言葉を毎日聞かされている。これが俺の困っていることだ。
次の日もまた次の日も飽くことなく、じいさんは俺のところへやってきた。
『ばあさんや、今日はおいしいエビフライを食べた。中がプリプリしててな外はカリカリじゃった。わしが愛したばあさんにも食べさせてやりたかったな。』
いつも通り、俺は泣いた。
そして春を迎えた。
『ばあさんや、桜が満開になったぞ。一緒に桜の並木を歩いたのが懐かしいのぉ。昔のばあさんとまた歩きたいもんじゃ。』
もう勘弁してくれ。。。
俺の声が聞こえたのか、次の日、じいさんは俺のところへやってこなかった。
俺はホッとしたのと同時に、激しい空虚感を味わった。
すると、顔中にアザを作った1人のばあさんが俺のところへやってきた。
ちゃりん
ぷるるるる ぷるるるる ぷるるるる・・・
『じいさんや、今日はいい天気でしたね。私はもう限界でした。とても清々しいですわ。』
ばあさんは生きていた。
次回 2人の関係性
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