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鏡越しに唱える 今日を生きることば#3

「人は自由になるのではなく、自由なのだ。」

『物語のなかとそと 江國香織散文集』江國香織、2018年、朝日新聞出版

こんにちは、Shadeと申します。
僕は30代、既婚(子無し)、バイセクシャル、メンタル疾患持ちの男性です。
このコラムでは、映画や小説、ドラマ、音楽など、サブカル大好きな僕が日常的に触れるあらゆるものから拾った、「今日を生きる」ための言葉を記録していきたいと思います。

不自由という幻想

子供の頃、「自由にしていいよ」という言葉が嫌いでした。
例えば小学校の図工の時間。
校庭に出て、先生に「自由に好きなものを描きましょう」と言われると、どうしていいか分からずに、ほかの友達が一体何を描いているのか、チラチラと盗み見てばかりいたのを覚えています。
結局、時間内に対象となる「何か」を選び、画用紙を埋めるのですが、その「何か」が本当に自分が描きたいものなのかどうか、よく分からなかった。
同じように、「自由に遊びましょう」「自由に過ごしましょう」という言葉にも、嫌いを通り越して、子供ながらに恐怖心を感じていました。
自由にって言われても…一体何をしたらいいんだ!?
あれはきっと、「何もルールがない」ということに不安を覚えていたのだと思います。
大人になった今でも、「自由に〜しましょう」という言葉は苦手です。
僕は多分、根本的に、ルールがある=少し不自由な状態というのが、一番楽な人間なのだと思います。そして、自分自身にも勝手にある種のルールを設定して、この年齢まで生きてきてしまいました。
異性だけでなく、同性に惹かれる気持ちがある「もう一人の自分」を抑圧していたのも、恐らくそうした、「世の中の一般的な規範」から逸脱しないことに重きを置いていた、というところに一因があるような気がします。
そのルールが、自分の勝手に作り上げた「幻想」でしかないことに気づいたのは本当につい最近のこと。
結果として、僕はバイセクシャルである「ありのままの自分」を認め、奥さんにもカミングアウトし、「本当の人生」を生き始めることを選び取りました。
相変わらず不安はあるし、まだおっかなびっくり歩いている状態ですが、より自由に生きるための切符だけは、手にすることができたのかなと感じています。

足跡を確かめながら、ゆっくり

冒頭に引用したのは、最近出会い、非常に腑に落ちた言葉。
作者の江國香織さんは、映画化もされた『東京タワー』や、辻仁成さんとの共著『冷静と情熱のあいだ』などで知られるベテラン小説家です。
この本は、タイトルにもある通り、エッセイやショートストーリなどを集めた散文集になっており、江國さんの透明感のある文章で全体が構成されているのですが、その一方で、引用したフレーズのような、鋭く人生の真実をつく言葉が、まるで隠し味の如くところどころに散りばめられています。
人は生まれながらに自由であるはずなのに、勝手に不自由なルールを設定し、自縄自縛に陥る。これは完全に、これまでの僕の人生です(見事に言い当てられています…)。
世の中の風潮や、他者からのバイアス、「普通」でなければならないという無言の圧力を自ら忖度した結果、本当はシンプルなはずの人生を、より複雑な形に歪めてしまった。
けれど、そうした幻想を取っ払って周囲を見てみると、実際に自由に生きている人はたくさんいるし(noteで他の方の記事を読んでいてもまさにそう思います)、世の中はまだ誰の足跡もついていない豊かな地平で溢れていることに気が付きます。
バイセクシャルであることをカミングアウトした僕が、最終的にどのようなところに行き着くかは分かりませんが、今は「新たな人生」に自分の足跡がついていくのをしっかりと確かめながら、自分なりにゆっくりと歩き出しているところです。

また、この言葉にはこんな続きもあります。

「むしろ、自由からは逃げられない。」

自由であるということは、楽しいだけではありません。
それは常に、自分がどのように行動するかの選択を迫られるということでもあります。
そういう意味では、既存のルールに則って生きる方が、「楽」に歩めることは確かです。
でも、本来の「自由である自分」から逃げずに、選択を繰り返した結果待っている結末の方に、現在の僕はより魅力を覚えています。それがどんなに痛みを伴うものであったとしても。
そして、(少し人よりも遅かったですが)そのことに気がつけて本当に良かったと考えているのです。
ただ、「三つ子の魂百まで」とはよく言ったもので、相変わらず、一般的なルールや規範を忖度してしまい(もちろん法に触れることをするのは論外ですが)、そちらに流されそうになる自分が根強く居座っていることも確かです。
けれど、人生で本当に大切な選択をするときには、不要な、幻想でしかない「不自由」を取り払って、なるべく自分に正直な道を選ぶことを心がけたい。数年後、あの時ああしておけば良かったと後悔しないように。
今はそう考えている次第です。

もしも今、生きづらさを感じていたり、生きていく上で何となく「自由」じゃないなあと考えている方がいらっしゃいましたら、冒頭のフレーズを呪文のように心の中で唱えることで、少しでも楽になっていただけたら嬉しいです。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました!

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