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江戸川乱歩『白昼夢』

人間の独占欲は怖い…

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江戸川乱歩は探偵もので有名だが、個人的に恋愛もののほうが好みだ。短篇集に収録されていた『白昼夢』『人間椅子』『押絵と旅する男』など、人間の恋愛感情を描いた作品は実に魅力的だ。

思春期に憧れるような砂糖菓子のような純愛とは違い、乱歩は人間臭い純愛を見せてくれる。愛するが故の暴走、それらも純粋に愛情を求める行為の結果だったりする。乱歩の作品は最初は変態性が目立つが、読んでいくうちに人間の哀しい性(さが)を見せつけてくる。

たった8ページの話でも伝わってくる恐怖『白昼夢』

『江戸川乱歩短篇集』岩波文庫のなかで特に印象に残った話は『白昼夢』だ。女房に逃げられた薬屋の亭主がおかしくなって、昼間から何やら街頭演説をしている。周りを囲んでいる人々はただの気狂いだと思って、馬鹿にしながら話を聞いている。しかし、主人公だけは違和感を感じている。そして、店先に展示されている蝋人形を見てその異常さを確信してしまう。

更に恐ろしいのは、周りがそれに気がついていないことだ。せいぜい「よくできた人形」程度にしか思っていない。正確には「あの気狂い亭主がつくったホラ話だろ」と馬鹿にしている。気狂いと馬鹿にしている人間が本当にヤバい奴なのに、そのことに気がつかない人間の鈍感さが一番の恐怖かもしれない。「自分の近くで殺人が起こるわけがない」と楽観的になってしまうのが人間の性(さが)だ。薬屋の女房も「私にぞっこんなひ弱な亭主が私を殺すわけがない」と同じように高を括っていたんだろう。今はその気狂い亭主も裏切り者の女房を見世物にして満足しているが、そのうち飽きて何かしでかさないか不安になってくる。そんな想像をさせる後味の悪い終わり方も江戸川乱歩の作品の魅力だと思う。

「人を愛することと裏切ることは、それなりの代償を伴う」ということだろう

それにしても乱歩の作品を読んでいると、登場する女性たちに壇蜜さんを重ねてしまう。壇蜜さんに大正時代の格好をさせたら最強だと思う。

もちろんモガも似合いそうだ。

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