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貯金できる人

貯金できる人とできない人のちがいはなんだろう。

世のなかには貯金やお金の管理が苦手な人が山ほどいるようで、こうやって苦手を克服し、貯金できるようになりました、みたいな記事やコミックエッセイをよく目にする。基本的な論調としては、貯金できる人=ちゃんとした人、貯金できない人=だめな人、である。

自分は貯金ができるほうだ。子どものときから、たとえば親戚からもらったお年玉の総額が3万円だとしたら、1万円は好きなものを買い、2万円は貯金する子だった。最初は親にそういうふうに教えられたんだと思う。ずっとそういう感じでコツコツ貯金していたら、21歳のときキャッシュで90万円弱の軽自動車が買えた。

短大を卒業して20歳で正社員として働きはじめたとき、わたしにはお金を貯めて東京の専門学校に行くという目標があった。だから毎月コツコツ貯金して4年間で200万円貯めた。就職先は小さな個人事務所で、初任給は手取り12~13万円ぐらいだったと記憶している。実家暮らしで、家には食費として2万円入れていた(親には3万円と言われたが、猛反発して2万円にしてもらった)。実家暮らしのOLなんだから恵まれた環境だったのだろうが、手取りのなかから通勤費も払わなきゃならないし、貯金して、自己投資とみなしていた習いごともして、医療費(おもに眼科や歯科)、美容服飾費、交際費、車の維持費などを捻出しなくてはいけなかったのでカツカツだった。

でも、毎月これだけ貯金すると決めた金額を減らしたりすることはなかった。バブル崩壊前だったので、友人たちがこぞって海外旅行でハワイだプーケットだとか言って盛り上がっていたときも、わたしは一度も海外旅行ブームのビッグウェーブには乗らなかった。おかげで24歳のときに実家を出て、東京の専門学校に入れた。

結婚してからも、2年間で夫婦ふたりでそこそこまとまった額を貯め、マンションの頭金にした。子どもが生まれると、子どもの教育費を貯めるのが人生の重要課題のひとつになり、学資保険に入って来たるべきそのときに備えた。そして娘も息子も学校を卒業したいま「子どもの教育費」という重要課題がクリアされた。

やれやれ。次は老後の資金を貯めないと......。でも、これでいいのか、わたしの人生。

着々と貯金して、大きなライフイベントを大過なくクリアしてきたことは誇らしい(別にわたしの手柄じゃなくオットの功績も大きい)。でも貯金のために、長いあいだずっとそのときどきの自分の気持ちを無視してきた。たとえば、若いころのわたしはけっして海外旅行に行きたくないわけじゃなかった。自分には将来の目標があるのだから、それどころではないと自分に言い聞かせていただけだ。

貯金ができる人はいつも将来が優先、貯金ができない人はいつも「いま」が優先。これはどちらがいいとか悪いとかじゃなく、遠視と近視のように遠くと近く、どっちにフォーカスするのが得意かの違いであり、いずれも一長一短なのだと思う。貯金体質のわたしは、そのときにしかできないことや「いま」の自分の気持ちをずいぶんないがしろにしてきた。でもこれからは、将来に備えつつも「いま」の心の声に耳を傾けたい。老後の資金も大切だけど、いましかできないこともあるのだから。

いつもあきれるほど欲望に忠実で、ぜんぜん貯金ができない我が子たちを見ながら、そんなことを考える。いまも未来も、両方ともすごく大切なんだよ。

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