自治体アクティビズム

A:今年の7月に、岡山県真庭市がJR西日本の株式3.4万株を1億円で取得しました。

T:自治体が上場企業の株式を取得するのは珍しいね。

A:国と東京都が保有する東京地下鉄(東京メトロ)の株式を売り出す中、真逆の動きです。

T:真庭市には赤字路線の廃線への危機感があるらしいね。

A:はい。姫新線(きしんせん)です。兵庫県姫路市から岡山県新見市に至るローカル線です。

T:乗ったことあるの?

A:ありますよ。一応、「乗り鉄」ですから。

T:そうだった。だから関心があるわけだ。

A:鉄道ファンとすれば真庭市の動きは歓迎です。でも資本の論理からすると不思議なことになりますよね。

T:うん。株主がいわば赤字事業の継続を求めることになるわけでしょ。

A:はい。真庭市の市長は、「出資を行うことで、より責任ある株主の立場で主張できるという」という趣旨のことを述べられていました。

T:真庭市は良いとしても、他の投資家は赤字事業の存続をどう思うのだろうか。

A:そこですね。市長は日経ビジネスで「JRの公共性をはっきりさせることも企業価値の向上につながるだろう。鉄道用地はもともと、国民の財産だった。姫新線の用地は地域住民が無償提供したと聞いている。採算性は大事だが、国民の移動手段を担うということを十分意識した経営をしてほしい。他の株主にも理解していただけると思う」と述べられていました。

T:公共性が極めて高いセクターに属しながら、上場している企業全般に共通する問いかけだと思う。

A:中長期的な企業価値向上を求める機関投資家の理解は得られるでしょうか。

T:難しいと思うよ。ただ、タワー投資顧問のファンドマネージャーだった清原達郎さんは、著書の中で、こうした公的セクターは国民のために存在しているのであって、投資ユニバースから外すべきといった趣旨のことを述べられている。

A:はい。諸外国では、JRのような企業で上場しているところを探すのが難しいですよね。

T:鉄道関係者からも、そうした話を聞いたことがある。

A:今年の10月に上場予定の東京メトロは、上場に際して新株発行を予定していないことから、上場の意義を問われていますよね。

T:「これから会社を成長させるために資金が必要です。だから出資をお願いします。将来の成長を通じて、投資家にはしっかりとリターンをもたらします」という約束が上場と言える。だから成長が大前提。

A:どんな企業も赤字は許されず、上場企業であればなおさら成長を続けなければいけませんが、JRのような企業の場合は、公共性は絶対に失ってはいけないと思います。

T:そう思う。ただ、国鉄の反省があったから上場したわけで。

A:公的セクターは、強力な応援投資家が支えることによって、資本の論理だけに振り回されないことが必要と思います。だから、真庭市のような動きがもっと出てきてほしいと思っています。

T:上場しているから、応援したい組織や個人が株式を取得できる。これも上場の意義と言える。

A:自治体によるアクティビズムとも言われていますが、自治体とは生活者の集合体ですよね。

T:上場企業も自治体も機関投資家も一般生活者のために存在する。上場の意義、定義を見直すきっかけになるテーマかもしれない。

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