MBOに伴うTOB価格の問題(下)

T:前回、大正製薬ホールディングスのMBOに関して、米Curi RMB Capitalと香港Oasis Managementが東京地裁に公正価格の決定を申し立てたことを説明したよね。

A:はい。本日は、その続きですね。

T:米Curi RMB Capitalは、TOBには応募しなかった。そのため、スクイーズアウトとなった。

A:TOB価格はPBRで0.85倍でしたし、TOBに応募するわけにはいかないですよね。

T:米Curi RMB Capitalは「TOB価格が不当に低く抑制されており、一般株主の利益が損なわれている」と本年2月に表明。また、経済産業省が2019年に策定した「公正なM&Aの在り方に関する指針」にも反していると指摘。さらに、特別委員会(一般株主の利益などを議論)の委員に社外取締役がいなかったことや、独自の金融アドバイザーを選任しなかった点なども問題視。

A:マネックスグループのカタリスト投資顧問も2023年12月に、特別委員会が適切に機能しなかったのではないかとの疑念を表明していました。

T:そうだね。東証がPBR1倍割れ改善要請を出したのが2023年3月。大正製薬ホールディングスのMBO発表は同年11月。PBR1倍が最低水準との社会通念が形成された年に、過去最大のMBOを通じて、東証の要請を鮮やかに無視したと言える。

A:もともとMBOには、経営陣と他の株主の利益相反の問題が付きまといますが、本来、上場する資格があったのか疑わしくなるほど、問題事案が多い印象です。

T:米Curi RMB Capitalの細水政和氏は日経で「創業家などによるMBOでは引き続き旧来の不公正な手続きを繰り返している。少数株主利益の保護を図る決定を裁判所に求めるとともに、市場規律に反する実務慣行を是正するためにも議論が行ってほしい」と話されている。

A:少なくとも、PBR1倍割れでのTOBは禁止にするくらいの対処が必要かもしれないですね。

T:それで、次に香港のOasis Management。ここも特別委員会の機能を問題視。また「保有する不動産、政策保有株式の価値が適正に加味されていない可能性が高い」とのことで、会社の提示価格よりも最低でも25%以上は高い価格があるべきものとの主張を行った。

A:1倍÷0.85倍でも、そのくらいにはなりますね。

T:そして、面白いのは米Kaname Capital。同社は、時期は未定としながらも、大正製薬ホールディングスの取締役や特別委員会の委員に対して、損害賠償請求訴訟の提訴を検討しているとのこと。

A:一般個人にはなかなかできないことです。

T:同社の調査責任者である槙野尚氏は日経で「問題を広く世の中に問うために損害賠償請求訴訟を検討している。取締役個人の責任を問う事例を作ることで、特別委員会や取締役の責任の重さを周知することにもつながる」と話されている。個人株主などと共同で提訴する可能性も検討中とのこと。

A:価格決定の場合には、取締役の責任が直接問われないこともあり、こうした形を検討中なのですね。

T:そのようだね。伊藤忠商事によるファミリーマートへのTOBに関しては、実際のTOB価格よりも高い公正価格が東京地裁により示された。この申し立てを行った1社が米Curi RMB Capital。

A:MBOは、市場の新陳代謝のために必要と思います。ただ、少数株主が軽視され続けるのは問題ですので、よい結果が示されてほしいです。

T:とにかく今は、大きな変革期。市場や株主を軽視した企業が退出し、悪弊も一掃されてほしいね。

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