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ゲームブック 恐怖の留守番

Sゲームブッカー


これはかつてない?恐怖の73パラグラフ心霊ゲームブック。筆記用具、サイコロなどは必要ありません。1人で留守番することになった主人公を襲う不可解な出来事の数々。両親が帰ってきたとき、主人公は一体どうなっているのでしょうか。おや、あなたの背後にも……。


【1】

 部屋で勉強に集中していると、不意に背後でドアがノックされた。振り向いて「はーい」と返事をすると、ドアが少しずつ開いて、顔だけがぬっと出て部屋を覗き込む。その光景に一瞬怯む私。母さんだった。

「明日の朝には帰ってくるから、留守番よろしくね」

 ホッとした私に笑顔でそう言うとドアを閉め、父方の叔父のお通夜に父さんと出かけていく。高校2年の私は、間近に迫っている中間テストに向けての勉強をするため、1人で留守番することになっていた。そう、私は一人っ子。外で車のエンジン音がして、次第に遠ざかっていく。

 空腹を覚え、左手首の腕時計を見る。無理もない、夜の7時が過ぎている。それだけ集中していたということ。お腹をさすりながらドアを開け、部屋から出ると真っ暗だった。明かりを消してから出たのだろう。

 壁のスイッチを押して階段の電気をつける。1階へ下りると、キッチンの方から明かりが漏れている。全部は消していないとわかって安心した。

 今日の夕飯はなんだろう?

 あえて真っ暗な廊下をその明かりだけを頼りに歩く。キッチンのドアは開いていて、テーブルの上にラップのかかったオムライスがポツンと用意されていた。1人で留守番する私を喜ばせようと作ってくれたに違いない。母さんはそういう人。

 椅子に座り、両手を合わせていただきますを言い、さあ食べようと皿の右横のスプーンに手を伸ばしたときだった。皿の下に折られた紙が覗いているのに気がつく。紙を引き出し、開いてみる。

冷めないうちに食べなさい。それから、母さんたちが帰ってくるまでは、家から一歩も出てはいけませんよ。

 母さんの綺麗な字でそう書いてあった。家から出てはいけないというのは、留守番をしっかりしてほしいのだろうと、このときはあまり深くは考えなかった。そのことは一言も言っていなかったのに、書き置きにだけ書いておいたということも。

 ひとまず紙を左端に置き、ラップを外す。空腹で急いでいたのか、その拍子にラップについていたケチャップがテーブルの上に飛び散る! それがまるで血のように見えて、不吉に感じた。けれど、私には霊感などない。たまたまそのさまがそんなふうに見えて、不吉なもののように感じたのだろう。

 気を取り直し、冷蔵庫から冷えた牛乳を取り出してコップに注ぎ、二口ほど飲む。それからまだ湯気の立つオムライスを一口食べる、ふわふわの薄焼き卵をライスごとスプーンですくって。口いっぱいに広がる美味しさに、夜に1人で家に居る現実を忘れて笑顔になる。やっぱり母さんのオムライスは世界一!

「ピンポーン」

 半分ほど食べたところで不意に玄関のチャイムが鳴った。スプーンを持つ手がピタリと止まる。玄関までは駐車場の前を通るから、車がないことはわかるはずなのに……。

 こんな時間に誰だろう?

 いつもなら留守番しているときもすぐに出ていくけれど、今は夜だし、美味しいオムライスを冷める前に食べ終わりたい気もして、書き置きに目を向ける。

オムライスを食べ続ける 5へ

 玄関のドアを開ける 8へ

【2】

 テーブルにうつ伏せになって目を閉じ、チャイムが鳴り止むのを待つ。電気を消すと、それでいることがばれてしまいそうでそのままにしておく。いや、それよりも真っ暗なキッチンで待つのは嫌だったのかもしれない。

 待ち始めてからは嘘のようにチャイムが鳴らなくなった。留守だと思って帰ったのだろう。

 キッチンの電気を消し、玄関のドアのロックをかけてから、階段をこっそり上がる途中で上を見る。この電気がついているから人が居ると思って訪ねてきたのかもしれない。けれど、やっぱりそのままにしておくことにして、部屋に入ってドアを閉める。

「……?」

 何だか部屋の様子が違う。昨日見たときはベッドの上で無造作に転がっていた犬と猫のぬいぐるみが立ち上がっていて、両方ともドアの前に立つ私と目が合う! 気味が悪いと思い、ぬいぐるみたちを足側の端っこに移動させ、さらに背を向けさせる。これで目が合うこともない。

 私は寝相が悪くて、朝起きたらぬいぐるみの位置が変わっていたり、ベッドから落ちたりしていることがよくあったから、あまり気にせず、机に向かって勉強の続きを始める。今日も半分以上は終わらせたい。

「バサッ」

 2ページほど進んだとき、背後で何かが落ちた音がした! 家に1人で居るときの突然の物音ほど怖いものはない。ゆっくりと後ろを振り向くと、床に何かが落ちている。

 それは一冊の本だった。「あなたの日常に潜む恐怖!」という私が唯一持っている怖い話の本だった。確か初めて読んだ日の夜にお風呂に入れなくなって、目につかない本棚の一番上の端っこの、さらに奥の方に「封印」していたはずなのに。1冊しか持っていない怖い本が落ちてきたことに何だか不安を覚えつつ拾い上げ、本棚に戻そうとした手が止まる。

 本棚の一番上には本一冊分の隙間もない。確かにあのとき右側の端っこに押し込んで、それ以来読んでいないから、父さんか母さんが読んで、どこか落ちやすい場所にでもしまっていたのだろう。

 いつもは勉強の後、夜遅くに入るお風呂に今入っておいたほうがいいような気がしてくる。

お風呂に入る 18へ

 今日は入らない 24へ

【3】

「どなた様でしょうか?」

 すると、「俺だ」とドアの向こうで父さんらしき声がかすかに聞こえた。あれ? 帰ってきた気配や物音はしなかった気がしたけれど。忘れ物でもしたのだろうか。

「何か忘れ物?」

 そう言いながらドアを開ける。目の前に立つ父さんはうつむいたまま、何も答えずにただ立ち尽くしている。その姿からは生命力というものが感じられない。

「ど、どうしたの?」

 いつもと様子が違う父さんに戸惑いながらもそう聞く。すると、父さんの体が徐々に透けてきて、ゆっくりと消えていった!

 急いでドアを閉め、慌てた状態でどうにかロックをかける。もしかしたら父さんに何かあったのかもしれない! 一緒に乗っていた母さんは? 電話しようか迷いながら、その前にオムライスを食べ終わろうとキッチンに戻る。

「……?」

 皿にオムライスは残っていなかった。米粒さえも。途中からチャイムの音が気になっていたから、食べ終わっていたのか思い出せない。残していたと思っていたけれど、食べ終わってから玄関に向かったのだろう。牛乳はそのまま残っていたから一気に飲み干して、満足した気にさせる。

 それでも少し物足りなさを感じながら布巾でテーブルの上のケチャップを拭き、皿とコップとスプーンを流しで洗うと、食器乾燥機に入れる。冷蔵庫の前を通るときに、その横の台の上にある電話に目がいく。

父さんの携帯電話に電話してみる 20へ

母さんの携帯電話に電話してみる 28へ

 電気を消して自分の部屋に戻る 13へ

【4】

「どなた様でしょうか?」

 すると、「俺だ」と父さんらしき声がかすかに聞こえた。あれ? 帰ってきた気配や物音はしなかった気がしたけれど。忘れ物でもしたのだろうか。

「何か忘れ物?」

 そう言いながらドアを開ける。目の前に立つ父さんはうつむいたまま、何も答えずにただ立ち尽くしている。その姿からは生命力というものが感じられない。

「ど、どうしたの?」

 いつもと様子が違う父さんに戸惑いながらもそう聞く。すると、父さんの体が徐々に透けてきて、ゆっくりと消えていった!

 急いでドアを閉め、慌てた状態でどうにかロックをかける。もしかしたら父さんに何かあったのかもしれない! 一緒に乗っていた母さんは?

 電話しようか迷いながら、電気を消すためにキッチンに戻ったとき、冷蔵庫の横にある台の上の電話に目がいく。

父さんの携帯電話に電話してみる 20へ

母さんの携帯電話に電話してみる 28へ

 電気を消して部屋に戻る 13へ

【5】

 気にせず食べ続ける。

「ピンポーン」 

 チャイムが鳴っても食べ続けていると、「ピンポーン……ピンポーン……」と5秒おきくらいに鳴らしてくる! まるでじらすかのように妙な間隔を空けて。こんな時間に悪戯だろうか?

 そんな中、オムライスは食べ終わったけれど、妙なチャイムの音が気になってあまり味が感じられなかった。少し残念に思いながら布巾でテーブルの上のケチャップを拭き、皿とコップとスプーンを流しで洗うと、食器乾燥機に入れる。

「ピンポーン」 

 まだチャイムは鳴り続いている。

居留守を使う 2へ

 玄関のドアを開ける 10へ

【6】

 ドアを開けると、目の前に父さんがうつむき加減で立っていた。あれ? 帰ってきた気配や物音はしなかった気がしたけれど。忘れ物でもしたのだろうか。いつもと様子が違う父さんに戸惑いながらも「何か忘れ物?」と聞く。父さんはうつむいたまま、何も答えずにただ立ち尽くしている。その姿からは生命力というものが感じられない。

「ど、どうしたの?」

 すると、父さんの体が徐々に透けてきて、ゆっくりと消えていった!

 急いでドアを閉め、慌てた状態でどうにかロックをかける。もしかしたら父さんに何かあったのかもしれない! 一緒に乗っていた母さんは?

 電話しようか迷いながら、その前にオムライスを食べ終わろうとキッチンに戻る。

「……?」

 皿にオムライスは残っていなかった。米粒さえも。途中からチャイムの音が気になっていたから、食べ終わっていたのか思い出せない。残していたと思っていたけれど、食べ終わってから玄関に向かったのだろう。牛乳はそのまま残っていたから一気に飲み干して、満足した気にさせる。

 それでも少し物足りなさを感じながら布巾でテーブルの上のケチャップを拭き、皿とコップとスプーンを流しで洗うと、食器乾燥機に入れる。冷蔵庫の前を通るときに、その横の台の上にある電話に目がいく。

父さんの携帯電話に電話してみる 20へ

母さんの携帯電話に電話してみる 28へ

 電気を消して部屋に戻る 13へ

【7】

 ドアを開けると、目の前に父さんがうつむき加減で立っていた。あれ? 帰ってきた気配や物音はしなかった気がしたけれど。忘れ物でもしたのだろうか。いつもと様子が違う父さんに戸惑いながらも「何か忘れ物?」と聞く。父さんはうつむいたまま、何も答えずにただ立ち尽くしている。その姿からは生命力というものが感じられない。

「ど、どうしたの?」

 すると、父さんの体が徐々に透けてきて、ゆっくりと消えていった!

 急いでドアを閉め、慌てた状態でどうにかロックをかける。もしかしたら父さんに何かあったのかもしれない! 一緒に乗っていた母さんは?

 電話しようか迷いながら、電気を消すためにキッチンに戻ったとき、冷蔵庫の横にある台の上の電話に目がいく。

父さんの携帯電話に電話してみる 20へ

母さんの携帯電話に電話してみる 28へ

 電気を消して部屋に戻る 13へ

【8】

「ピン……」

 ドアの目の前まで来るとチャイムが途中で止んだ。まるで私の行動が見えているかのように……。

「はーい」と返事をしてドアを開ける 6へ

 まずは「どなた様でしょうか?」と問いかける 3へ

【9】

 勉強中は触らないようにと机の隅に置いている携帯電話を取り、今の私に何かアドバイスをしてくれそうなれい子に電話をかける。

『はーい』

 れい子の落ち着いた声を聞き、私もいくらか落ち着く。

「今1人で留守番してるんだけど、何だか怖いの。両親がお通夜で出かけちゃって」

『やっぱりね。実はさ、あなたの身に何か起ころうとしているような胸騒ぎがしたから、電話しようか迷ってたんだ』

「そうなの? 今日は夕食を食べてるときに玄関のチャイムがしつこく鳴ったり、本棚の奥に入れてたはずの1冊しか持ってない怖い本が落ちてきたり、トイレを出たらリビングのソファーに座らせてたはずのコアラのぬいぐるみがドアの反対側に転がってたりしたんだけど」

『あなたの周りに、それか家の周りに何かが集まってきているように感じるの。だから、そういった霊現象的なことが起きやすくなっているんだと思う。とにかく今日は気をつけて!』

 そう言われて、トイレでのことを思い出す。

「母さんの書き置きにも帰ってくるまでは家から一歩も出てはいけませんって書いてあったよ」

『あなたのお母さんも霊感があるのね』

 確かに母さんは霊感が強くて、霊を何度か見たこともあるらしい。

『そうだといいんだけど』

「え?」

『今、「家に居るよりは安全だ」って言わなかった?』

「そんなこと言ってないよ!」

 その後ひとしきりお喋りして、これから起こるかもしれないことに冷静に対処できそうな気がしてきた。やっぱり霊感のあるれい子にかけたのは正解だった。でも、家に居るよりは安全だって聞こえたと言われたのだけが気になった。

43へ

【10】

 ドアの目の前まで来て急にチャイムが鳴り止んだ。まるで私の行動が見えているかのように……。

「はーい」と返事をしてドアを開ける 7へ

 まずは「どなた様でしょうか?」と問いかける 4へ

【11】 

 1日くらい入らなくても大丈夫。リズムに乗りながらだと勉強が捗るから音楽を聴くことにする。机の右端のCDラジカセにつながったヘッドホンを取り、耳にかぶせる。再生ボタンを押すと、軽快でアップテンポな音楽が流れる。最近お気に入りのロックバンド「レイシー」の曲だ。

 快調に5ページほど進んだとき、背後から誰かに覗き込まれているような異様な気配を感じた! ヘッドホンをしているから聞こえないけれど、何か耳元でささやかれているような息遣いも感じる気がする……!

後ろを振り向く 14へ

 気のせいだと思い、勉強を続ける 22へ

【12】

 まずは奥の方からと、お風呂場と洗面所の窓を確認する。

 リビングのガラス戸を確認してカーテンを閉めて、ソファーの左端に目を向ける。ここに今私が抱いているユカリちゃんが座っていたはずなのだ。

 両親の寝室の窓を確認してカーテンを閉める。2人はお通夜に出かけていていないのだけれど、こういう日こそいてほしいと思った。

 最後にキッチンの窓、そして勝手口を確認していると、どこからか、おそらくテーブルの方からか、かすかにケチャップの匂いが漂ってきた気がした。

 そのとき、オムライスのラップを外した拍子に付いていたケチャップがテーブルの上に飛び散り、それがまるで血のように見えて不吉に感じたのを思い出してしまい、思わずユカリちゃんを強く抱きしめる。今思うと、あれが恐怖の始まりを告げるものだったのかもしれない。その後、間もなくあのチャイムが鳴った。もし1人のときに思い出していたら、キッチンから慌てて逃げ出していただろう。

 どこも開いているところはなかったし、誰もいなかった。人が訪ねてきたときのために玄関以外の戸締まりをしてから出かけたのかもしれない。その玄関はさっきロックをかけたからこれで安心だ。あとは私の部屋の窓だけ。

 部屋に戻る前に、抱っこしているユカリちゃんをどうするか、いくつか候補を考える。

ソファーに戻す 33へ

部屋に持っていく 23へ

 両親を驚かせるのに使う 31へ

【13】

 階段を上がり、階段の電気を消して部屋に戻り、ドアを閉める。

「……?」

 何だか部屋の様子が違う。勉強机の棚にしまっていたはずの歴史の教科書が机の上に落ちていて、表紙の人物の見つめてくるような目と目が合う! 薄気味悪さを感じて、慌てて教科書を棚に戻すと、勉強の続きを始める。今日も半分以上は終わらせたい。

「バサッ」

 2ページほど進んだとき、背後で何かが落ちた音がした! 家に1人で居るときの突然の物音ほど怖いものはない。ゆっくりと後ろを振り向くと、床に何かが落ちている。

 それは一冊の本だった。「あなたの日常に潜む恐怖!」という私が唯一持っている怖い話の本だった。確か初めて読んだ日の夜にお風呂に入れなくなって、目につかない本棚の一番上の端っこの、さらに奥の方に「封印」していたはずなのに。1冊しか持っていない怖い本が落ちてきたことに何だか不安を覚えつつ拾い上げ、本棚に戻そうとした手が止まる。

 本棚の一番上には本一冊分の隙間もない。確かにあのとき右側の端っこに押し込んで、それ以来読んでいないから、父さんか母さんが読んで、どこか落ちやすい場所にでもしまっていたのだろう。

 いつもは勉強の後、夜遅くに入るお風呂に今入っておいたほうがいいような気がしてくる。

お風呂に入る 26へ

 今日は入らない 11へ

【14】

 恐る恐る後ろを振り向く。……やっぱり誰もいない。

「あれ?」

 閉めたはずのドアが開いている。人が1人通れるくらいに。少し開いていることはよくあったけれど、今日は誰かが開けたのではと思ってしまう。さっきの気配や息遣いは、隙間から入り込んできた風をそんなふうに感じたのかもしれない。

 そして思わず目を見開き、開いたドアの向こうを凝視する。消したはずの階段の電気がついていたのだ! 誰か家の中にいて、つけた? とはいえ、消し忘れただけかもしれない。たまに消したかどうかを忘れて確認することもあるし。

 今日は何だか家の中が怖い気がするから、階段や廊下の明かりはついたままにしておこう。暗いとそれだけで恐怖感が増してしまう。

 椅子から立ち上がってドアを閉め、「パタン」と閉まる音まで確認する。それから机に戻って勉強を再開する。

15へ

【15】

 黙々と勉強を続け、8ページくらい進む。両腕を上げて伸びをして、腰をひねってストレッチついでにベッドの枕元にある目覚まし時計を見ると、10時半が過ぎている。

 冷たい牛乳を飲んだせいで急にトイレに行きたくなってきた。椅子から立ち上がり、ドアを開けて部屋から出ると、階段を下りる。

16へ

【16】

 洗面所の右横のトイレの電気をつけて、ドアを開けて入る。ドアを閉めて便座に座り、用をすませて蓋を閉める。使ったことがわからないようにするためにいつもそうしている。こういうのを乙女心というのだろう。

 出ようとふと顔を上げたとき、換気のために少し開けている窓から真っ暗な外の景色が覗いているのに気がつく。その真っ暗な闇に引き寄せられるようにしばらく見つめていた私は、次第にその闇に吸い込まれるような感覚に襲われ、とっさに窓を閉めようと手を伸ばす。

 閉めてからロックをかけ、トイレから出ようとドアを開けたその瞬間、ノブを握る手に重みのある何かを引きずったような感触が伝わる!

「ズズ……」

 その有り得ない出来事に思わず熱いものを触ったときのようにノブから手を離す。ドアの前に何もないのは入る前に確認していたからだ。頭の中にいろいろな考えが駆け巡る。

 ドアがその何かを引きずるのを感じながらも少しずつ開き、恐る恐る顔だけ出して反対側を覗き込む。……廊下に大きなコアラのぬいぐるみが転がっていた! 

 私がまだ小さい頃によく遊んでいて、仲良しだった(当時そう思っていた)ユカリちゃん。もちろんコアラが食べるあれをもじって私がつけた。もう何年も遊んでいなくて、常にリビングのソファーに座って、テレビの方を向いているだけだった。

 誰かが移動させた? それは信じたくない。ぬいぐるみが歩いてここまで来た? それは信じられなかった。けれども、誰かが移動させたと思うよりはと、真っ暗なリビングで1人で寂しくなったユカリちゃんがここまで歩いて私に会いに来てくれたことにして、抱き上げて頭を撫でてあげる。そうしていると、初めて古びてきているのに気がついた。10年くらい前の誕生日に、その頃動物のコアラが人気で買ってもらったやつだから。

 家の中に人が居るはずはないし、入ってくるとも思えないけれど、部屋に戻る前に戸締まりを確認しようか。1人だと誰かいたら怖いけれど、大きな体のユカリちゃんと一緒なら怖くない。

確認する 12へ

 その必要はなさそう 25へ

【17】

 黙々と勉強を続け、8ページくらい進む。曲も全部聴き終わったしとヘッドホンを外す。両腕を上げて伸びをして、腰をひねってストレッチついでにベッドの枕元にある目覚まし時計を見ると、10時半が過ぎている。

 冷たい牛乳を飲んだせいで急にトイレに行きたくなってきた。椅子から立ち上がり、ドアを開けて部屋から出たとたん、思わず足が止まる。消したはずの階段の電気がついていたからだ! 誰か家の中にいて、つけた? とはいえ、消し忘れただけかもしれない。たまに消したかどうか忘れて確認することもあるし。

 今日は何だか家の中が怖い気がするから、階段や廊下の明かりはついたままにしておこうと階段を下りる。暗いとそれだけで恐怖感が増してしまう。

16へ

【18】

 勉強を中断して、ドアを開けて部屋から出たとたん、思わず足が止まる。階段の電気が消えていたからだ! 誰か家の中にいて、消した? とはいえ、電球が切れたのかもしれないしと壁のスイッチを押してみるとつく。いつもの癖で消したのかもしれない。たまに消したかどうか忘れて確認することもあるし。

 階段を下りると1階は真っ暗だった。階段の明かりを頼りに廊下の電気をつける。今日は何だか家の中が怖い気がするから、階段や廊下の明かりはつけっぱなしにしておこう。暗いとそれだけで恐怖感が増してしまう。

 洗面所のドアを開けて、電気をつけてドアを閉める。服と下着を脱いで洗濯物かごに入れ、腕時計を外して脱いだ服の上に置き、お風呂場の電気をつけて入る。今日はシャワーで頭を洗うだけにしよう。すぐにすませて部屋に戻りたい気分だった。

 シャワーをお湯にして体に浴びる。シャンプーを1回分左手の手のひらにのせ、泡立ててから頭皮をマッサージするように両手で洗う。髪も洗いたいけれど、私のは背中の真ん中辺りまであって時間がかかるから、今日はお湯で洗い流すだけ。

「コンッ」

 目をつぶって両手で頭を洗っていると、窓を軽く指で叩いたような物音がした気がして、シャカシャカ動かしていた両手がピタリと止まる! 片目で窓の方を凝視しても、誰かが立っているような気配はない。明かりに寄せられた虫が当たったのかもしれない。このとき初めて、お坊さんのような坊主頭だったら良かったのにと思った。お坊さんが頭を洗い流すだけですます光景を想像してクスッとなる。その直後だった。

「きゃっ!」

 お尻を撫でられたような感触があった! 目にシャンプーが入るのも構わず、両目を見開いて背後のお尻の辺りを見回す。……やっぱり誰もいない。

 髪の毛先から泡がお尻に垂れて、撫でられたように感じたのだろう。以前も同じようなことがあったし、髪を洗うときは体の前に垂らしてだから、頭だけの今日はそうなりやすい。そう思うと、誰かに撫でられた気がしなくなる。

 それでも両目を開けたまま頭を洗い、頭と髪、それに体についた泡をシャワーで綺麗に流し、お風呂場を出る。

 ドアを閉め、お風呂場の電気を消しつつバスタオルで頭と髪、それに体を拭く。腕時計をはめ、下着だけつけて、洗濯物かごに入れた服を引っつかみつつ洗面所の電気を消し、ドアを閉める。

29へ

【19】

 窓を少し開けると、10月なのに肌寒い風が吹き込んでくる。

 つられて外を見ると、今日はどの家の明かりも、ここから見える街灯の明かりさえも消えていて、不気味なほどに真っ暗だ。

 その真っ暗な闇をしばらく見つめていた私は、次第にトイレに入ったときと同じようなその闇に吸い込まれるような感覚に襲われ、とっさに手を伸ばして窓を閉める。もし半分以上開けていたら閉められなかったような気がして、閉めた方の手が小刻みに震える。

ユカリちゃんを部屋に持ってきた 37へ

 持ってきていない 51へ

【20】

 電話の受話器を取り、父さんの電話番号を押してしばらく待つ。

『何だ?』と父さんらしき声!

「運転中?」

『いや、脇に停まってる』

「そう。さっき家に戻って来なかった!?」

『何言ってるんだ? ずっと運転してたぞ』

 やや呆れた様子でそう答えられ、困惑する。じゃあ、さっきの父さんは何だったの?

『明日の朝帰ってきてからまた話そう』

 父さんはそう言って電話を切る。私は明日本当のことを言うか迷いつつ、受話器を置く。

 さっきの父さんは幻覚か何かだったのだろうか。毎日の長時間の勉強で疲れているから、いつもは見ないものを見たりするのかもしれない。電気を消してキッチンを出る。

13へ

【21】

 特に仲が良いのはゆう子とれい子の2人。毎日のようにどちらかに電話するか、どちらかから来る。ゆう子はよく笑わせてくれて、れい子は霊感があるらしい。

ゆう子にする 35へ

 れい子にする 9へ

【22】

 気のせいだと自分に言い聞かせて勉強に集中する。

 しばらくすると、気配や息遣いのようなものを嘘のように感じなくなっていた。もし兄弟がいたらこんないたずらをしたりするんだろうか。それでもいいからいたら良かったのにと、両親には言えないようなことをつい思ってしまう。

68へ

【23】

 これからは私の部屋に置くことにして、階段を上がり、部屋に入ってドアを閉める。

 ユカリちゃんをベッドの左側の壁に背をもたれさせて座らせるけれど、大きくて私が寝るときに膝枕のようになってしまうことに気づいて、ひとまず壁に立たせておく。不安定な気がするから、後でどうするか考えよう。

 勉強を再開する前に気分転換しよう。

友達に電話する 21へ

窓を開けて空気を入れ換える 36へ

 携帯電話でお笑いの動画を観る 41へ

【24】

 1日くらい入らなくても大丈夫。リズムに乗りながらだと勉強が捗るから音楽を聴くことにする。机の右端のCDラジカセにつながったヘッドホンを取り、耳にかぶせる。再生ボタンを押すと、軽快でアップテンポな音楽が流れる。最近お気に入りのロックバンド「レイシー」の曲だ。

 快調に5ページほど進んだとき、背後から誰かに覗き込まれているような異様な気配を感じた! ヘッドホンをしているから聞こえないけれど、何か耳元でささやかれているような息遣いも感じる気がする……!

後ろを振り向く 30へ

 気のせいだと思い、勉強を続ける 69へ

【25】

 きっと戸締まりをしてから出かけたはず。女子高生の私が夜に1人で留守番するのだから。

 部屋に戻る前に、抱っこしているユカリちゃんをどうするか、いくつか候補を考える。

ソファーに戻す 33へ

部屋に持っていく 23へ

 両親を驚かせるのに使う 31へ

【26】

 勉強を中断して、ドアを開けて部屋から出たとたん、思わず足が止まる。消したはずの階段の電気がついていたからだ! 誰か家の中にいて、つけた? とはいえ、消し忘れただけかもしれない。たまに消したかどうかを忘れて確認することもあるし。

 階段を下りると1階は真っ暗だった。階段の明かりを頼りに廊下の電気をつける。今日は何だか家の中が怖い気がするから、階段や廊下の明かりはついたままにしておこう。暗いとそれだけで恐怖感が増してしまう。

 洗面所のドアを開けて、電気をつけてドアを閉める。服と下着を脱いで洗濯物かごに入れ、腕時計を外して脱いだ服の上に置き、お風呂場の電気をつけて入る。今日はシャワーで頭を洗うだけにしよう。すぐにすませて部屋に戻りたい気分だった。

 シャワーをお湯にして体に浴びる。シャンプーを1回分左手の手のひらにのせ、泡立ててから頭皮をマッサージするように両手で洗う。髪も洗いたいけれど、私のは背中の真ん中辺りまであって時間がかかるから、今日はお湯で洗い流すだけ。

「コンッ」

 目をつぶって両手で頭を洗っていると、窓を軽く指で叩いたような物音がした気がして、シャカシャカ動かしていた両手がピタリと止まる! 片目で窓の方を凝視しても、誰かが立っているような気配はない。明かりに寄せられた虫が当たったのかもしれない。このとき初めて、お坊さんのような坊主頭だったら良かったのにと思った。お坊さんが頭を洗い流すだけですます光景を想像してクスッとなる。その直後だった。

「きゃっ!」

 お尻を撫でられたような感触があった! 目にシャンプーが入るのも構わず、両目を見開いて背後のお尻の辺りを見回す。……やっぱり誰もいない。

 髪の毛先から泡がお尻に垂れて、撫でられたように感じたのだろう。以前も同じようなことがあったし、髪を洗うときは体の前に垂らしてだから、頭だけの今日はそうなりやすい。そう思うと、誰かに撫でられた気がしなくなる。

 それでも両目を開けたまま頭を洗い、頭と髪、それに体についた泡をシャワーで綺麗に流し、お風呂場を出る。

 ドアを閉め、お風呂場の電気を消しつつバスタオルで頭と髪、それに体を拭く。腕時計をはめ、下着だけつけて、洗濯物かごに入れた服を引っつかみつつ洗面所の電気を消し、ドアを閉める。

29へ

【27】

 虫が入ってくるといけないから半分ほど開ける。10月なのに肌寒い風が「ひゅーー」と吹き込んでくる。

 つられて外を見ると、今日はどの家の明かりも、ここから見える街灯の明かりさえも消えていて、不気味なほどに真っ暗だ。

 その真っ暗な闇をしばらく見つめていた私は、次第にトイレに入ったときと同じようなその闇に吸い込まれるような感覚に襲われ、とっさに窓を閉めようと手を伸ばす。途中まで閉めかけたところでピタリと手が止まる。

ユカリちゃんを部屋に持ってきた 38へ

 持ってきていない 32へ

【28】

 電話の受話器を取り、母さんの電話番号を押してしばらく待つ。

『あら、どうしたの?』と母さんの声。

「父さんは大丈夫!?」

『何の話? 今運転してるわよ』

 落ち着いた様子でそう答えられ、困惑する。じゃあ、さっきの父さんは何だったの?

「お通夜に向かってるのよね?」

『そう言ったじゃない。もうそろそろ着くところよ』

「それならいいんだけど」

『もしかして、1人でお留守番が怖くなったんじゃないの?』

「全然平気よ! もう慣れてるもん」

 子供扱いされ、やや強めに受話器を置く。

 さっきの父さんは幻覚か何かだったのだろうか。毎日の長時間の勉強で疲れているから、いつもは見ないものを見たりするのかもしれない。電気を消してキッチンを出る。

13へ

【29】

 階段を上がり、部屋に入ってドアを閉める。服を着て、これで勉強に集中できると机の椅子に座ろうとする。

「……?」

 また部屋の様子が違う。床に見覚えのない黒っぽい写真が1枚落ちている。

 拾い上げて見てみると、真っ暗な中で目を見開いて微笑んでいる小学3年生くらいの私が写っている。まるで夜にキャンプ場で撮ってもらったような感じのする。こんな写真撮ってもらった記憶がない。暗い場所でフラッシュが眩しかったことを覚えているはずなのに。しかも、この写真の私は全然眩しそうにしていない……。

 子供の頃のことを覚えていないのは不思議ではないし、母さんが私の写真だからとこっそりどこかに置いていたものが部屋を出た拍子にでも床に落ちたのだろう。

 気にしないことにして椅子に座り、机の引き出しに写真をしまう。

15へ

【30】

 恐る恐る後ろを振り向く。……やっぱり誰もいない。

「あれ?」

 閉めたはずのドアが開いている。人が1人通れるくらいに。少し開いていることはよくあったけれど、今日は誰かが開けたのではと思ってしまう。さっきの気配や息遣いは、隙間から入り込んできた風をそんなふうに感じたのかもしれない。

 そして思わず目を見開き、開いたドアの向こうを凝視する。つけたままにしていたはずの階段の電気が消えていたのだ! 誰か家の中にいて、消した? とはいえ、消したのを忘れただけかもしれない。たまに消したかどうかを忘れて確認することもあるし。

 部屋を出て、階段の電気をつける。今日は何だか家の中が怖い気がするから、階段や廊下の明かりはつけっぱなしにしておこう。暗いとそれだけで恐怖感が増してしまう。

 ドアを閉め、「パタン」と閉まる音まで確認する。それから机に戻って勉強を再開する。

15へ

【31】

 キッチンにいた私はあることを思いつき、入り口に背を向けた状態で椅子に座らせる。それから食事をしているようにテーブルの上に両手を置く。出る前に電気を消し、暗闇で見たらさぞ驚くことだろうと笑みを浮かべる。あ、母さんたちは明日の朝帰ってくるんだった。まあ、いいか。明るくてもきっと驚くはず。

 階段を上がって部屋に戻り、ドアを閉める。勉強を再開する前に気分転換しよう。

友達に電話する 21へ

窓を開けて空気を入れ換える 36へ

 携帯電話でお笑いの動画を観る 41へ

【32】

 止まった手が動き出す。けれど、それは開けるほうにだった!

 私は何者かに操られるように窓を全開にすると、闇に吸い込まれる感覚のままに大股開きで敷居をまたぎ、1階の屋根に上がる。正面のどこまでも続くかのような真っ暗な闇をうつろな目で見据えたまま数歩歩き、屋根の外に足が出ても踏み外すことなく、見えない地面があるかのように前へと歩き続ける。

 そんな私の耳にどこからか聞き覚えのある男の人の声がかすかに、けれどはっきりと聞こえてくる。

〈一緒に行こう〉

 それは父方の叔父の声だった。忘れるはずのない。

 どこからか、闇の中を歩き続ける私に並行するように誰かが近づいてくる。

「兄ちゃん」

 私は笑顔でそう言ったが、自分の意志でかそうでないかはわからない。私の意識はすでに、手が動き出した瞬間からなくなっていたのだから。

 兄ちゃんが手をつないできて、笑顔のままの私をどこかへ連れて行こうとする……

1へ戻るなら

【33】

 リビングに戻り、ソファーの左端のいつもの場所に座らせる。ぬいぐるみでも座りっぱなしはいけないだろうと仰向けに寝かせ直す。明日は勉強を早めに切り上げて、テレビを観ながら少し遊んであげよう。何か着せられるような服はあったかなと思いながら電気を消す。

 階段を上がって部屋に戻り、ドアを閉める。勉強を再開する前に気分転換しよう。

友達に電話する 21へ

窓を開けて空気を入れ換える 36へ

 携帯電話でお笑いの動画を観る 41へ

【34】

 ドアのロックはどれもかけられる。洗面所はお風呂場に入ったら2重にロックできて、トイレは狭く、リビングは広い。自分の部屋と両親の寝室はベッドがあるから毛布にくるまって隠れることもできて、今居るキッチンなら移動せずにすむ。

洗面所 58へ

トイレ 40へ

リビング 54へ

自分の部屋 52へ

両親の寝室 44へ

 キッチンに立てこもる 48へ

【35】

 勉強中は触らないようにと机の隅に置いている携帯電話を取り、今の私の気持ちを吹き飛ばしてくれそうなゆう子に電話をかける。

『どうしたの?』

 ゆう子の明るい声を聞き、いくらか安心する。

「両親がお通夜で出かけちゃってさ、1人で留守番してるんだけどね、何だか怖いのよ」

『もう慣れたって言ってたじゃん』

「だって、夕食を食べてるときに玄関のチャイムがしつこく鳴ったり、本棚の奥に入れてたはずの1冊しか持ってない怖い本が落ちてきたり、トイレを出たらリビングのソファーに座らせてたはずのコアラのぬいぐるみがドアの反対側に転がってたりしたのよ」

『確かにどれも怖いわね。ぬいぐるみがドアの反対側に転がってたのとか特に。でもさ、1人でトイレに行くのが怖くて、リビングから持ってきたのをうっかり忘れてただけかもよ?』

「そんな子供みたいなことしないわよ!」

『あはは』

 その後ひとしきりお喋りして、今までの出来事のほとんどがあまり気にならなくなっていた。やっぱり笑わせ上手のゆう子にかけたのは正解だった。

43へ

【36】

全開にする 45へ

半分ほど開ける 27へ

 少し開ける 19へ

【37】

 不意にユカリちゃんが前のめりに倒れる! 自分で動いたように感じて、倒れたユカリちゃんを身じろぎもせず見つめる。

 けれど、それからはピクリとも動かず、窓をやや強めに閉めた気がするから、きっとその振動で倒れたのだろう。

「ごめんね。不安定だったね」

 ユカリちゃんと添い寝できるように横に寝かせると、窓越しに外を見つめ、カーテンを閉める。しばらくこの窓は開けられそうにない。それにしても、なぜあんな感覚に襲われたのだろう?

47へ

【38】

 そのとき、不安定だったせいか、壁にもたれさせて立たせていたユカリちゃんが前のめりに倒れ、その風圧で風の流れが変わった。そのとたんに吸い込まれるような感覚が消え失せ、我に返ったように窓を閉め、ロックをかけることまでできた。

 気づくと、私はユカリちゃんの大きな胸の中で泣いていた。安堵からでもあったけれど、ユカリちゃんが私を守ってくれたように思えて、その感謝の気持ちからのほうが強かった。私はこの日、ユカリちゃんを一生大切にすることを決めた。

 涙を拭い、ユカリちゃんと添い寝できるように横に寝かせると、窓越しに外を見つめ、カーテンを閉める。しばらくこの窓は開けられそうにない。それにしても、なぜあんな感覚に襲われたのだろう?

47へ

【39】

 ドアを開け、部屋を出て階段を下りる。

 洗面所のドアを開け、コップに入れた歯ブラシを取って、歯磨き粉をつける。歯を磨きながら何気なく洗面台の鏡に映る自分の顔を見たとたん、やつれた顔の見知らぬ女の人が眉間にシワを寄せ、こちらを恨めしそうに見ている目と目が合う!

 歯磨き粉を口から滴らせるほど驚いたけれど、よくよく見たら、無意識にそんな顔をしていただけだった。きっと、今日の不可解な出来事の数々にまいってきていたからだろう。

 ふとドアを半分ほど開けたままなのを思い出し、閉めて廊下側の様子がわからないのと、電気で照らされた廊下が見えているのとどっちが怖くないだろうかと考えて、とりあえず閉める。私以外に誰もいないのはわかっているけれど、歯磨き中に不意に廊下側から覗かれたら怖いと思ったから。

 5分ほどして、いつもと同じくらいの時間磨いているのにハッと気づき、今日は早めに終わらせようと思っていたのに!と急いで歯ブラシを洗面台の水で洗い流し、そのままコップに水を入れてうがいをする。歯ブラシを入れたコップをいつもの場所に置いた瞬間だった。

「ふふっ」

 コップを置いた音が小さな子供の笑う声のように聞こえて、久しぶりにドキリとする!

 以前、子供が私一人しかいないこの家でどこからか子供の話し声がしたような気がして、ドキリとしたことがあった。そのときのはそう聞こえたように感じただけだったけれど、そこに居るはずのない人の声や、あるはずのない物の音がするととても驚くだろう。想像していたのとかけ離れた音などしたときも。

 急いで壁のスイッチを押して電気を消し、ドアを閉める。振り返ることなく廊下を駆け足で進む。階段を上がって、部屋に入るとドアを閉める。

42へ

【40】

 トイレに駆け込み、ドアのロックをかける。これで入っては来れないはず。便座の蓋を開けて座ったとき、まるで用を足すために入ったみたいだと一瞬思う。

「ミシ……ミシ」

 しばらくすると、廊下のきしむ音がトイレの方へと近づいてくる! この家の廊下がきしむ音を初めて聞いた気がする……。

 恐怖で前かがみになって体を縮め、おでこの前で両手を合わせる。

 母さん助けて!

 何度もそうお祈りしていると、きしむ音がドアの前でピタリとやんだ! 両手を合わせたまま目を閉じて息を潜め、ドアの向こうの気配が消えるのを待つ。

 不意に電気が消えて真っ暗になり、悲鳴を上げそうになる口を手で塞ぐ! 停電かと思ったが、廊下側の壁に電気のスイッチがあるのを思い出す。「何か」が押したのかもしれない。

 窓越しにご近所さんの家の様子を覗いてみる。面格子で見えにくいけれど、どこも電気がついていないようで真っ暗だ。停電かもしれない。

「カチャッ」

 目の前でノブを回すあの音がして、体がビクッとひときわ震える! 恐る恐る顔を上げると、「キィ」とドアを開けたような音がする! ロックはかけたはずなのに「何か」が入ってきた!? 暗くて何も見えない。

 やっぱり母さんが言ったように、すぐに家から出るべきだった!
 でも、もう遅かった。窓から外に逃げ出そうにも面格子があるから無理だった。恐怖で体をガタガタと震わせ、おでこの前で両手を合わせることしかできないでいると、頭上で息遣いのようなものが聞こえてくる!

 あまりの恐怖で気を失いそうになった瞬間、何かが体の中に入ってくるのを感じて、ぷつりと意識が途切れた。

 私は何者かに操られるように真っ暗な中でロックを外し、ドアを開け放つ。廊下に出ると、うつろな目で前を見据えたまま、まっすぐに玄関の前まで歩く。

65へ

【41】

 以前観て面白かったピン芸人の「0笑」(れいしょう)で動画を検索する。笑いがないみたいな芸名だけれど、むしろ笑えるし、逆にどんな芸人か気になったりするのではと思う。

 新ネタのだったこともあり、私は笑いっぱなしで、その間は今日の出来事のことを忘れられた。

 口を大きく開けて笑っていたとき、ふとある異変に気がついた。画面の隅に映る自分の顔が眉間にシワを寄せ、こちらを恨めしそうに睨んでいるように見えたのだ! 思わず携帯電話を床に放り投げる。

 動画の音声がしなくなった頃、床に転がる携帯電話を拾い上げる。恐る恐る、けれども目を見開いて画面を見ると、私が目を見開いてこちらを覗き込む顔が映っていて、また恐怖する。

 手鏡のように画面に映る自分の顔を見つめていたけれど、いつもの顔だった。きっと目の錯覚か、光の反射であんなふうに見えたのだろう。それか、私ではない誰かの顔が映り込んでいたのかもしれない。

47へ

【42】

 今日は部屋の電気をつけたまま寝よう。腕時計を外して机の上に置き、ベッドに寝て、薄い毛布をかける。

 目を閉じてしばらくすると、両親が出かけてからの出来事が走馬灯のように脳裏に蘇ってくる。でも、朝になったらきっとそのときの気持ちも忘れてしまっていることだろう。それまでの辛抱だ。毎日の勉強疲れからか、すぐに眠りに落ちていった……。

 ふと、部屋の異常な寒さで目が覚める。寒い冬に窓を全開にしていたとしてもここまでにはならないというほどの。枕元の目覚まし時計を見ると、2時が少し過ぎている。嫌な時間に起きてしまったと思った。草木も眠る丑三つ時。最も陰が強いとされる時間。

 毛布にくるまって震えながら、両親の寝室の押入れから厚めの毛布を何枚か持ってこようかと考えていると、ドアのノブが「カチャ」と音を立てた。その音に反応して体がビクッと震える! 「キィ」とドアを開けたような音とともに「何か」が部屋に入ってきた気配を感じた!

 逃げ場のない私は覚悟を決めて、その正体を確かめようと震える手で掴んだ毛布の隙間から、恐る恐る開いたドアの方を覗き見る。

「……」

 ドアは閉まったままだった! 閉めたのなら、「パタン」といったような音が聞こえるはずだし、閉めた気配もしなかった。しかも、部屋中を見回しても、入ってきたと思われるその「何か」の姿はどこにも見当たらない。けれど、霊感のない私でも、「この部屋の中に何かが居る!」と直感した!

 いよいよ身の危険を感じて、部屋から出ようとドアに向かって駆け出しかけたそのときだった。

「ヴーーッ!」

 机の上の携帯電話が激しく振動して着信を知らせる! まるで部屋から出ようとする私を引き留めるかのように。藁をもすがる思いで携帯電話をひっつかみ、ガタガタと震える手で辛うじて通話ボタンを押す。

『早く家から出なさい!』

 母さんからだった! 声がひどく慌てている。

「え? 書き置きで家から一歩も出てはいけませんって書いてたじゃない!」

『書き置き? そんなもの書いてないわよ』

 ……予想外のことを言う母さんに戸惑う!

「嘘でしょ? 確かに母さんの字で、綺麗な字で書いてあったもん。……あ、キッチンのテーブルの上に置いたままだから、見てくる」

『わかったわ』

 ドアを開け、携帯電話を持ったまま部屋を出る。階段を駆け下り、キッチンの電気をつけてテーブルの上を見る。

「ない!」

 そこに書き置きはなかった。そんなはずはない、床に落ちたのかもと隅々まで捜すけれど、どこにも見当たらない。何かの拍子に飛んでいったのだろうか。あの書き置きは父さんが母さんの代わりに書いたもの? でも、父さんの字ではないようだった。

『あなたにただならぬ何者かが近づいてきているのを感じたの! だから、このまま家の中にいたら危険よ!』

 耳に当てていなくてもはっきりとそう聞こえた! 母さんの声が益々慌ててきているのが手に取るようにわかる。母さんは霊感が強いから、離れていても霊視のようなことができても不思議じゃない。

 何か言おうとふと携帯電話の画面を見ると、いつの間にか充電が切れてしまっていた。充電器は自分の部屋にある。ひとまず携帯電話をズボンのポケットに入れる。

「ミシ……ミシ……」

 階段をゆっくり下りてくるような音がしていることにこのとき初めて気がついた! 私一人しかいないはずのこの家で! 部屋に入ってきたように感じた「何か」が私を追ってくる!?

「ミシ……」

 音が次第に近づいてきている!

今すぐ勝手口から裸足で外に出る 50へ

靴を履くために玄関から出る 46へ

 どこかへ逃げ込む 34へ

【43】

 その後も勉強を続ける。疲労を感じて両腕を上げて伸びをして、腕時計を見たときには11時50分になろうとしていた。勉強をやめて、そろそろ寝る時間だ。いつも12時までには寝るようにしている。友達との長話で毎日の目標の半分を終わらせることはできなかったけれど、また明日頑張ればいい。

 私は寝る前には必ず歯を磨く。でも、今日はこの時間に鏡のある洗面所に行くのは怖い気がするし、また何か起きるような予感もする。

歯を磨く 39へ

 今日は磨かない 49へ

【44】

 両親の寝室に駆け込み、ドアのロックをかける。ダブルベッドに目を向けたとき、ホラー映画を観た日の夜、部屋で1人で寝れなくなって、ここで両親に挟まれて寝かせてもらった小さな頃のことをふと思い出す。今も状況的には同じようなもので、出かけていなかったら寝かせてもらおうとしたかもしれない。

「ミシ……ミシ」

 しばらくすると、廊下のきしむ音が両親の寝室の方へと近づいてくる! この家の廊下がきしむ音を初めて聞いた気がする……。

 ダブルベッドの上で薄い毛布にくるまるけれど、寒くはないのに体がガタガタと震える。

 母さん助けて!

 何度もそうお祈りしていると、きしむ音がドアの前でピタリとやんだ! 毛布にくるまったまま息を潜め、ドアの向こうの気配が消えるのを待つ。

 不意に電気が消えて真っ暗になり、悲鳴を上げそうになる口を手で塞ぐ! 停電だろうか?

 窓のカーテンを開けてご近所さんの家の様子を覗いてみると、どこも電気がついていないようで真っ暗だ。停電かもしれない。

 ドア近くの壁のスイッチに手を伸ばしかけたとき、ドアの前に何かが居る気配を感じ、伸ばした手が止まる! ロックはかけたはずなのに「何か」が入ってきた!? 暗くて何も見えない。

 やっぱり母さんが言ったように、すぐに家から出るべきだった!

 でも、もう遅かった。後退りしようとしても、金縛りにかかったように体がピクリとも動かせられない!

「ミシ……」

 はっきりと床がきしむような音がして、気配が徐々に近づいてくる! 頭上で息遣いのようなものが聞こえて、あまりの恐怖で気を失いそうになった瞬間、何かが体の中に入ってくるのを感じて、ぷつりと意識が途切れた。

 私は何者かに操られるように真っ暗な中でロックを外し、ドアを開け放つ。廊下に出ると、うつろな目で前を見据えたまま、まっすぐに玄関の前まで歩く。

65へ

【45】

 部屋の空気をまるごと入れ替えるつもりで、窓を全開にする。そのとたん、10月なのに肌寒い風が「ひゅーー」と吹き込んできて、背筋がゾクッとする。

 外を見ると、今日はどの家の明かりも、ここから見える街灯の明かりさえも消えていて、不気味なほどに真っ暗だ。

 その真っ暗な闇をしばらく見つめていた私は、次第にトイレに入ったときと同じようなその闇に吸い込まれるような感覚に襲われ、とっさに窓を閉めようと手を伸ばす。けれど、少し閉めたところですぐにピタリと手が止まる。

 私は何者かに操られるように窓を再び全開にすると、闇に吸い込まれる感覚のままに大股開きで敷居をまたぎ、1階の屋根に上がる。正面のどこまでも続くかのような真っ暗な闇をうつろな目で見据えたまま数歩歩き、屋根の外に足が出ても踏み外すことなく、見えない地面があるかのように前へと歩き続ける。

 そんな私の耳にどこからか聞き覚えのある男の人の声がかすかに、けれどはっきりと聞こえてくる。

〈一緒に行こう。お前もそうしたかったのだろう?〉

 それは父方の叔父の声だった。忘れるはずのない。

 どこからか、闇の中を歩き続ける私に並行するように誰かが近づいてくる。

「兄ちゃん」

 私は笑顔でそう言ったが、自分の意志でかそうでないかはわからない。私の意識はすでに、手が止まった直後からなくなっていたのだから。

 兄ちゃんが手をつないできて、笑顔のままの私をどこかへ連れて行こうとする……

1へ戻るなら

【46】

 靴を履かずに外に出るのは嫌で、電気をつけたままキッチンを出ると、玄関に向かって一直線に駆け出す。階段に近づいても下りてくる音は聞こえなくなっていて、間に合う!と思った。

 その思いはもろくも打ち砕かれた。不意に玄関の前に現れた人の形をした大きな黒い影のようなものに立ち塞がられる! 立ちすくみ、後退りしようとしても体が動かない!

 顔を背けることもできずに影の顔の辺りを凝視させられていると、口元に丸い穴が空き始め、それは顔の半分ほどになって、口を大きく開けて笑っているように見えた。動けない私に大きな黒い影がその口をモゴモゴと動かし、私に何かを訴えかけるように少しずつ近づいてくる!

 次の瞬間、何かが体の中に入ってくるのを感じて、ぷつりと意識が途切れた……。

65へ

【47】

 その後も勉強を続ける。疲労を感じて両腕を上げて伸びをして、腕時計を見たときには11時50分になろうとしていた。勉強をやめて、そろそろ寝る時間だ。いつも12時までには寝るようにしている。今日も毎日の目標の半分以上を終わらせることができた。もし友達に電話していたら、長電話してきっと終わらせられなかっただろう。

 私は寝る前には必ず歯を磨く。でも、今日はこの時間に鏡のある洗面所に行くのは怖い気がするし、また何か起きるような予感もする。

歯を磨く 39へ

 今日は磨かない 49へ

【48】

 ドアを閉めてロックをかける。これで入っては来れないはず。

ユカリちゃんを両親を驚かせるために置いている 55へ

 置いていない  64へ

【49】

 1日くらい磨かなくても大丈夫。朝起きたら真っ先に磨こう。

42へ

【50】

 勝手口のドアに駆け寄り、ロックを外す。これで今までの不可解な出来事から開放される!とドアを開けたとたん、10月なのに肌寒い風が「ひゅーー」と吹き込んできて、背筋がゾクッとする。

 外を見ると、今日は他の家の明かりも、街灯の明かりさえも消えていて、不気味なほどに真っ暗だ。その真っ暗な闇をしばらく見つめていた私は、次第にトイレに入ったときと同じようなその闇に吸い込まれるような感覚に襲われる。

 私は何者かに操られるようにドアを開け放ち、闇に吸い込まれる感覚のままに裸足で外に出る。正面のどこまでも続くかのような真っ暗な闇をうつろな目で見据えたまま前へと歩き続ける。

 そんな私の耳にどこからか聞き覚えのある男の人の声がかすかに、けれどはっきりと聞こえてくる。

〈一緒に行こう。お前もそうしたかったのだろう?〉

 それは父方の叔父の声だった。忘れるはずのない。

 どこからか、闇の中を歩き続ける私に並行するように誰かが近づいてくる。

「兄ちゃん」

 私は笑顔でそう言ったが、自分の意志でかそうでないかはわからない。私の意識はすでにドアを開け放つ直前からなくなっていたのだから。

 兄ちゃんが手をつないできて、笑顔のままの私をどこかへ連れて行こうとする……

1へ戻るなら

【51】

 窓越しに外を見つめ、カーテンを閉める。しばらくこの窓は開けられそうにない。それにしても、なぜあんな感覚に襲われたのだろう?

47へ

【52】

 廊下を駆け足で進み、階段の下で横から顔だけ出して上を覗き見た瞬間、私は目を見開く! 大きな黒い影のようなものがゆらゆらと揺れながら、さらに階段を下りてこようとしていたからだ! 

 部屋に戻るのは諦めよう。どこかへ逃げ込むか、目の前は玄関だから外に逃げ出すか。

洗面所 58へ

トイレ 40へ

リビング 54へ

両親の寝室 44へ

キッチン 60へ

 外に逃げ出す 56へ

【53】

 勝手口のドアに駆け寄り、ロックを外す。これで今までの不可解な出来事から開放される!とドアを開けたとたん、10月なのに肌寒い風が「ひゅーー」と吹き込んできて、背筋がゾクッとする。

 外を見ると、今日は他の家の明かりも、街灯の明かりさえも消えていて、不気味なほどに真っ暗だ。その真っ暗な闇をしばらく見つめていた私は、次第にトイレに入ったときと同じようなその闇に吸い込まれるような感覚に襲われる。

 私は何者かに操られるようにドアを開け放ち、ユカリちゃんを抱いたまま裸足で外に出る。正面のどこまでも続くかのような真っ暗な闇をうつろな目で見据えたまま前へと歩き続ける。

 そんな私の耳にどこからか聞き覚えのある男の人の声がかすかに、けれどはっきりと聞こえてくる。

〈一緒に行こう。ユカリちゃんも〉

 それは父方の叔父の声だった。忘れるはずのない。

 どこからか、闇の中を歩き続ける私に並行するように誰かが近づいてくる。

「兄ちゃん」

 私は笑顔でそう言ったが、自分の意志でかそうでないかはわからない。私の意識はすでにドアを開け放つ直前からなくなっていたのだから。

 兄ちゃんが手をつないできて、笑顔のままの私をどこかへ連れて行こうとする……

1へ戻るなら

【54】

 ドアを閉めてロックをかける。これで入っては来れないはず。

ユカリちゃんをソファーに戻した  63へ

 戻していない  57へ

【55】

 椅子に座らせたユカリちゃんを抱き上げ、テーブルの下に一緒に隠れる。大きな体が頼もしく見えて、何かが近づいてくることへの恐怖が少し和らぐ。

「ミシ……ミシ」

 しばらくすると、廊下のきしむ音がキッチンの方へと近づいてくる! この家の廊下がきしむ音を初めて聞いた気がする……。

 ユカリちゃん助けて!

 強く抱きしめながら何度もそうお祈りしていると、きしむ音がドアの前でピタリとやんだ! ユカリちゃんと息を潜め、ドアの向こうの気配が消えるのを待つ。

 不意に電気が消えて真っ暗になり、悲鳴を上げそうになる口を手で塞ぐ! 停電だろうか?

 テーブルの下から出て、ユカリちゃんを抱いたまま窓や勝手口のドアのガラス越しにご近所さんの家の様子を覗いてみると、どこも電気がついていないようで真っ暗だ。停電かもしれない。

「カチャッ」

 背後でノブを回すあの音がして、体がビクッとひときわ震える! 恐る恐るドアの方を振り向くと、「キィ」と開けたような音がする! ロックはかけたはずなのに……! 

「ミシ……」

 はっきりと床がきしむような音がする! 「何か」が入ってきた!? 暗くて何も見えない。

勝手口から外に逃げ出す 53へ

 ドアから遠い食器棚の横に身を隠す 61へ

【56】

 階段の方を振り向くと、大きな黒い影の姿が見当たらなくなっていた。部屋に戻ったのかもしれない。

 靴を履き、ドアのロックを外して、これで今までの不可解な出来事から開放される!と開けたとたん、10月なのに肌寒い風が「ひゅーー」と吹き込んできて、背筋がゾクッとする。

 外を見ると、今日は他の家の明かりも、街灯の明かりさえも消えていて、不気味なほどに真っ暗だ。その真っ暗な闇をしばらく見つめていた私は、次第にトイレに入ったときと同じようなその闇に吸い込まれるような感覚に襲われる。

 何者かに操られるように私は外に出る。正面のどこまでも続くかのような真っ暗な闇をうつろな目で見据えたまま前へと歩き続ける。

 そんな私の耳にどこからか聞き覚えのある男の人の声がかすかに、けれどはっきりと聞こえてくる。

〈一緒に行こう。お前もそうしたかったのだろう?〉

 それは父方の叔父の声だった。忘れるはずのない。

 どこからか、闇の中を歩き続ける私に並行するように誰かが近づいてくる。

「兄ちゃん」

 私は笑顔でそう言ったが、自分の意志でかそうでないかはわからない。私の意識はすでに外に出た瞬間からなくなっていたのだから。

 兄ちゃんが手をつないできて、笑顔のままの私をどこかへ連れて行こうとする……

1へ戻るなら

【57】

 ソファーの左端に座る。ユカリちゃんがいつも座っていた場所だ。ここに戻していたら、抱きしめて気を紛らわすことができたのに。

「ミシ……ミシ」

 しばらくすると、廊下のきしむ音がリビングの方へと近づいてくる! この家の廊下がきしむ音を初めて聞いた気がする……。

 前かがみになって、おでこの前で両手を合わせる。

 母さん助けて!

 何度もそうお祈りしていると、きしむ音がドアの前でピタリとやんだ! おでこの前で両手を合わせて息を潜め、ドアの向こうの気配が消えるのを待つ。

 不意に電気が消えて真っ暗になり、悲鳴を上げそうになる口を手で塞ぐ! 停電だろうか?

 ガラス戸のカーテンを開けてご近所さんの家の様子を覗いてみると、どこも電気がついていないようで真っ暗だ。停電かもしれない。

 ドア近くの壁のスイッチに手を伸ばしかけたとき、ドアの前に何かが居る気配を感じ、伸ばした手が止まる! ロックはかけたはずなのに「何か」が入ってきた!? 暗くて何も見えない。

 やっぱり母さんが言ったように、すぐに家から出るべきだった!

 でも、もう遅かった。後退りしようとしても金縛りにかかったように体がピクリとも動かせられない!

「ミシ……」

 はっきりと床がきしむような音がする! その気配が徐々に近づいてきて、頭上で息遣いのようなものが聞こえてくる!

 あまりの恐怖で気を失いそうになった瞬間、何かが体の中に入ってくるのを感じて、ぷつりと意識が途切れた。

 私は何者かに操られるように真っ暗な中でロックを外し、ドアを開け放つ。廊下に出ると、うつろな目で前を見据えたまま、まっすぐに玄関の前まで歩く。

65へ

【58】

歯を磨いた 62へ

 磨いていない 66へ

【59】

 ユカリちゃんをいつものソファーの左端に座らせ、その後ろにしゃがみ込んで大きな体の後ろに身を隠す。

「ユカリちゃん助けて!」

 祈りが思わず大きな声になる。

「……」

 ふと、「何か」の気配が嘘のように消えていることに気づく。ユカリちゃんを抱き上げ、震える手で壁のスイッチを押す。すると電気がついた。リビングを見回しても何かが居る様子はなく、ドアも閉まったままだった。

71へ

【60】

 キッチンに戻って、ドアにロックをかける。これで入っては来れないはず。

ユカリちゃんを両親を驚かせるために置いている 55へ

 置いていない  64へ

【61】

 食器棚の横にしゃがみ込み、ユカリちゃんの大きな体の後ろに身を隠す。

「ユカリちゃん助けて!」

 祈りが思わず大きな声になる。

「……」

 ふと、「何か」の気配が嘘のように消えていることに気づく。ユカリちゃんを抱きしめたまま震える手で壁のスイッチを押す。すると電気がついた。キッチンを見回しても何かが居る様子はなく、ドアも閉まったままだった。

71へ

【62】

 ふと洗面所でのことを思い出し、他へ逃げ込むことにする。

トイレ 40へ

リビング 54へ

自分の部屋 52へ

両親の寝室 44へ

 キッチン 48へ

【63】

 ソファーのいつもの場所に戻したユカリちゃんの右隣に座ると、大きな体が頼もしく見えて、何かが近づいてくることへの恐怖が少し和らぐ。

「ミシ……ミシ」

 しばらくすると、廊下のきしむ音がリビングの方へと近づいてくる! この家の廊下がきしむ音を初めて聞いた気がする……。

 ユカリちゃんを膝の上にのせて顔を隠しつつも、恐怖で体がガタガタと震える。

 ユカリちゃん助けて!

 何度もそうお祈りしていると、きしむ音がドアの前でピタリとやんだ! ユカリちゃんの体の後ろに隠れたまま息を潜め、ドアの向こうの気配が消えるのを待つ。

 不意に電気が消えて真っ暗になり、悲鳴を上げそうになる口を手で塞ぐ! 停電だろうか?

 ユカリちゃんを抱いたまま、ガラス戸のカーテンを開けてご近所さんの家の様子を覗いてみると、どこも電気がついていないようで真っ暗だ。停電かもしれない。

「カチャッ」

 背後でノブを回すあの音がして、体がビクッとひときわ震える! 恐る恐る振り向くと、「キィ」とドアを開けたような音がする! ロックはかけたはずなのに……! 

「ミシ……」

 はっきりと床がきしむような音がする! 「何か」が入ってきた!? 暗くて何も見えない。

ガラス戸を開けて外に逃げ出す 67へ

 ドアから遠いソファーの後ろに身を隠す 59へ

【64】

 テーブルの下に隠れる。

「ミシ……ミシ」

 しばらくすると、廊下のきしむ音がキッチンの方へと近づいてくる! この家の廊下がきしむ音を初めて聞いた気がする……。

 母さん助けて!

 おでこの前で両手を合わせて何度もそうお祈りしていると、きしむ音がドアの前でピタリとやんだ! テーブルの下で息を潜め、ドアの向こうの気配が消えるのを待つ。

 不意に電気が消えて真っ暗になり、悲鳴を上げそうになる口を手で塞ぐ! 停電だろうか?

 テーブルの下から出て、窓や勝手口のドアのガラス越しにご近所さんの家の様子を覗いてみると、どこも電気がついていないようで真っ暗だ。停電かもしれない。

 ドア近くの壁のスイッチに手を伸ばしかけたとき、ドアの前に何かが居る気配を感じ、伸ばした手が止まる! ロックはかけたはずなのに「何か」が入ってきた!? 暗くて何も見えない。

 やっぱり母さんが言ったように、すぐに家から出るべきだった!

 でも、もう遅かった。後退りしようとしても金縛りにかかったように体がピクリとも動かせられない!

「ミシ……」

 はっきりと床がきしむような音がする! その気配が徐々に近づいてきて、頭上で息遣いのようなものが聞こえてくる! あまりの恐怖で気を失いそうになった瞬間、何かが体の中に入ってくるのを感じて、ぷつりと意識が途切れた。

 私は何者かに操られるように真っ暗な中でロックを外し、ドアを開け放つ。廊下に出ると、うつろな目で前を見据えたまま、まっすぐに玄関の前まで歩く。

65へ

【65】

 裸足で玄関のドアのロックを外し、ドアを押し開く。10月なのに肌寒い風が「ひゅーー」と吹き込んでくる。外はどこの家の明かりも、街灯の明かりさえも消えていて、不気味なほどに真っ暗だ。

 ドアを開け放ち、私は外に出る。正面のどこまでも続くかのような真っ暗な闇の中をうつろな目で前を見据えたまま歩き続ける。

 そんな私の耳にどこからか聞き覚えのある男の人の声がかすかに、けれどはっきりと聞こえてくる。その声を聞く直前、体から何かが抜けて軽くなるのを感じた気がする。

〈一緒に行こう〉

 それは父方の叔父の声だった。忘れるはずのない。

 どこからか、闇の中を歩き続ける私に並行するように誰かが近づいてくる。

「兄ちゃん」

 私は笑顔でそう言ったが、自分の意志でかそうでないかはわからない。私の意識はすでに、何かが体の中に入ってくるのを感じた瞬間からなくなっていたのだから。

 兄ちゃんが手をつないできて、笑顔のままの私をどこかへ連れて行こうとする……

1へ戻るなら

【66】

 洗面所に駆け込み、ドアのロックをかける。これで入っては来れないはず。

 歯を磨いていなかったから磨いてしまおう。コップに入れた歯ブラシを取って、歯磨き粉をつけている最中、どこからか見られている気がした。顔を上げて、洗面台の鏡を見る。そこには、やつれた顔で眉間にシワを寄せ、こちらを恨めしそうに見ている見知らぬ女の人が映っていた!

「カンッ」

 驚いた拍子に握っていた歯ブラシを洗面器の中に落としてしまった。洗面台の鏡を見直すと、無意識にそんな顔をしていただけだったとわかる。きっと、今日の不可解な出来事の数々にまいってきていたからだろう。そして今も。

「ミシ……ミシ」

 その直後、廊下のきしむ音が洗面所の方へと近づいてくる! さっきの音を聞かれたのかもしれない。この家の廊下がきしむ音を初めて聞いた気がする……。

 歯を磨こうとしたことを後悔し、コップに歯磨き粉とそのままの状態の歯ブラシを入れ、いつもの場所にいつもより静かに置く。

 それから洗濯機の前にしゃがみ込んで、恐怖で体をガタガタと震わせていると、きしむ音がドアの前でピタリとやんだ! お風呂場に隠れるつもりだったけれど、今ドアを開けたらその音でここに居ることが完全にばれてしまう。洗濯機に背をもたれさせて息を潜め、ドアの向こうの気配が消えるのを待つ。

 不意に電気が消えて真っ暗になり、悲鳴を上げそうになる口を手で塞ぐ! 停電だろうか? ドア近くの壁のスイッチに手を伸ばしかけたとき、ドアの前に何かが居る気配を感じ、伸ばした手が止まる! ロックをかけたから入ってくるのは無理なはずなのに……!

 やっぱり母さんが言ったように、すぐに家から出るべきだった!

 でも、もう遅かった。洗面所とお風呂場の窓は面格子があって、外に逃げ出すことはできない。入ってきたらしき気配と洗濯機に挟まれ、立ち上がることさえできないでいると、頭上で息遣いのようなものが聞こえてくる! あまりの恐怖で気を失いそうになった瞬間、何かが体の中に入ってくるのを感じて、ぷつりと意識が途切れた。

 私は何者かに操られるように真っ暗な中でロックを外し、ドアを開け放つ。廊下に出ると、うつろな目で前を見据えたまま、まっすぐに玄関の前まで歩く。

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【67】

 ガラス戸のロックを外し、これで今までの不可解な出来事から開放される!と開けたとたん、10月なのに肌寒い風が外から「ひゅーー」と吹き込んできて、背筋がゾクッとする。

 外を見ると、今日は他の家の明かりも、街灯の明かりさえも消えていて、不気味なほどに真っ暗だ。なぜだかその真っ暗な闇をしばらく見つめていた私は、次第にトイレに入ったときと同じようなその闇に吸い込まれるような感覚に襲われる。

 私は何者かに操られるようにガラス戸を全開にして、ユカリちゃんを抱いたまま裸足で外に出る。正面のどこまでも続くかのような真っ暗闇をうつろな目で見据えたまま前へと歩き続ける。

 そんな私の耳にどこからか聞き覚えのある男の人の声がかすかに、けれどはっきりと聞こえてくる。

〈一緒に行こう。ユカリちゃんも〉

 それは父方の叔父の声だった。忘れるはずのない。

 どこからか、闇の中を歩き続ける私に並行するように誰かが近づいてくる。

「兄ちゃん」

 私は笑顔でそう言ったが、自分の意志でかそうでないかはわからない。私の意識はすでにガラス戸を全開にする直前からなくなっていたのだから。

 兄ちゃんが手をつないできて、笑顔のままの私をどこかへ連れて行こうとする……

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【68】

 黙々と勉強を続け、8ページくらい進む。曲も全部聴き終わったしとヘッドホンを外す。両腕を上げて伸びをして、腰をひねってストレッチついでにベッドの枕元にある目覚まし時計を見ると、10時半が過ぎている。

 冷たい牛乳を飲んだせいで急にトイレに行きたくなってきた。椅子から立ち上がり、ドアを開けて部屋から出たとたん、思わず足が止まる。消したはずの階段の電気がついていたからだ! 誰か家の中にいて、つけた? とはいえ、消し忘れただけかもしれない。たまに消したかどうかを忘れて確認することもあるし。

 今日は何だか家の中が怖い気がするから、階段や廊下の明かりはついたままにしておこうと階段を下りる。暗いとそれだけで恐怖感が増してしまう。

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【69】

 気のせいだと自分に言い聞かせて勉強に集中する。

 しばらくすると、気配や息遣いのようなものを嘘のように感じなくなっていた。もし兄弟がいたらこんないたずらをしたりするんだろうか。それでもいいからいたら良かったのにと、両親には言えないようなことをつい思ってしまう。

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【70】

 黙々と勉強を続け、8ページくらい進む。曲も全部聴き終わったしとヘッドホンを外す。両腕を上げて伸びをして、腰をひねってストレッチついでにベッドの枕元にある目覚まし時計を見ると、10時半が過ぎている。

 冷たい牛乳を飲んだせいで急にトイレに行きたくなってきた。椅子から立ち上がり、ドアを開けて部屋から出たとたん、思わず足が止まる。つけたままにしていたはずの階段の電気が消えていたからだ! 誰か家の中にいて、消した? とはいえ、消したのを忘れただけかもしれない。たまに消したかどうかを忘れて確認することもあるし。

 今日は何だか家の中が怖い気がするから、階段や廊下の明かりはつけっぱなしにしておこう。暗いとそれだけで恐怖感が増してしまう。電気をつけて、階段を下りる。

16へ

【71】

 深い安堵感に包まれて、急に強い眠気に襲われた私は、唯一安心して寝られそうな両親の寝室へとユカリちゃんと一緒に移動する。まずはダブルベッドに「何か」から私を助けてくれた(そうに違いない)ユカリちゃんを寝かせ、その横に倒れ込むようにして眠る……。

 父さんと母さんの私を呼ぶ声がする。まるで家の外から呼んでいるような。お通夜に出かけていて、いないはずなのに。まだ朝は来ないの? 私はもう耐えられそうにない。

「どうしてここで寝ているの? あら、ユカリちゃんも」

「何かあったのか?」 

 肩を揺すぶられ、しばらくして目が覚める。父さんと母さんがダブルベッドで寝ている私を心配そうな表情で見下ろしている。

「母さん!」

 母さんの顔を見て、小さい頃のように抱きつく。優しい両腕に包まれていると深い安心感にも包まれ、涙が溢れてくる。

 ようやく落ち着いたところでダブルベッドに座り、留守番していた間の出来事を話す。

「やっぱりね」

「え? どういうこと?」

「薄々感じていたのよ、叔父さんはあなたを思う気持ちが強すぎるって。入院中に寝言であなたの名前を言うこともあった。病が進んでくると心も落ち込んできて、あなたの顔を見るたびにあなたへの想いが強くなって、きっと連れて行きたがる。だから、叔父さんが入院するようになってからは顔を合わせないように、病院にもお通夜にも行かせないようにしたの」

 そう言うと、母さんは私の隣に座り、優しく頭を撫でてくれる。

「でも、無駄だったようね。あなたが1人で居るときを狙ったかのように叔父さんの霊があなたの顔見たさで家に訪ねて来た。それで、そういったものがたくさん集まってきて、様々な怪現象を引き起こしたようね。叔父さんのあなたを連れて行きたいという気持ちはとても純粋だけれど、とても危険な行為でもあるから」

 叔父は長男の父さんと年が離れていて、私と一回りほどしか変わらなかった。そんな私を小さい頃から本当の妹のように可愛がってくれて、とても優しい人だった。私は叔父を兄ちゃんと呼び、兄弟のいない私は叔父を本当の兄のように慕っていた。だから私も入院中の病院やお通夜に行きたかったけれど、なぜか母さんは最後まで許してくれなかった。「あなたはいいのよ。お通夜が終わった後にその理由を話すから」と何度も言われて。

 ようやく落ち着いていた私の目から、また滝のように涙が流れ出す。

「確かに凄く可愛がっているとは思っていたが、それほどまでとは気づかなかった」

 父さんが腕組みしながら私の泣き顔を見つめ、呟くようにポツリと言う。

「母さん、電話したよね。2時が過ぎた頃に」

「してないわよ」

 そう言って、首を何度も横に振る。

「その時間は寝ていたもの」

「え!? 早く家から出なさい! 家の中にいたら危険よ!って」

 私が半分泣きながら言うと、父さんと母さんがほぼ同時に目を見開く。

「……それは、叔父さんに同調した浮遊霊の類が、あなたが一番信頼を寄せる人物の、つまり私の声を真似て、あなたを家の外に出させようとしたんでしょうね」

「じゃあ、書き置きは?」

「書いたわ」

 それを聞いた私は、キッチンに戻って、あちこち捜し始める。

「あった!」

 私がオムライスを食べたときに座った椅子の座る部分に落ちていた! こんなところに落ちているとは思いもしなくて、ないと思ったんだ。ただ、紙は閉じて置いていたのに開いていた。

チャイムが鳴った後に玄関のドアを開けた 72へ

 開けていない 73へ

【72】

「オムライスを食べてるときにチャイムが鳴ってね、出てみたら父さんが立っていたんだけど」

「本当なのか? どんな服を着てた?」

 黒いスーツ姿の父さんが興味津々な様子で尋ねる。

「……思い出せない」

 不思議だけれど、なぜだか思い出せなかった。

「それはきっと、訪ねてきた叔父さんね。入院中に体重が減って、父さんと体格が似てきていたから」

 あのときは怖いとしか思わなかったけれど、兄ちゃんが会いに来てくれたんだと思うと嬉しくなった。

73へ

【73】

 両親の寝室に戻り、ユカリちゃんを抱き上げる。私を助けてくれたユカリちゃんをこれからずっと自分の部屋に置こうと決めた、一生大切にするために。

 部屋に戻ろうと階段を上がると、ドアは開いていて、入る前に恐る恐る中を見回す。電気もついたままで、部屋の様子は携帯電話を持って出たときのままのようだった。

 電気を消して、ユカリちゃんをベッドの真ん中に仰向けに寝かせ、薄い毛布をかけてあげる。今日寝るまでの間だけれど。
「お昼ごはんよー」

 1階から母さんの呼ぶ声がする。やっぱり家の中で母さんの声が聞こえると安心する。

「はーい」

 しばらくは夜に1人で留守番はしたくない。母さんが言うには、兄ちゃんはもうこの世にはいなくて、私をあの世に連れて行くのは諦めたらしいから、この家で怖い体験をすることはもうないのかもしれないけれど。

 大の字になってベッドで寝ているユカリちゃんに小さく手を振り、それから階段を駆け下りていく。夕方に兄ちゃんのお葬式に行くから、今日はユカリちゃんに留守番してもらおう。誰もいない家で、ぬいぐるみのユカリちゃんが1人で。

END

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