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日本科学未来館[空想⇔実装展]:触感メタマテリアルから想起されるオノマトペの表現とは?

イントロダクション

私たちのグループは、全体で3番目となる8月27日(土)と8月28日(日)の回で展示を行い、900名以上の参加者に体験をしていただきました。本番では、子どもたちが好きなように触感メタマテリアルの配列を組み替え、飛び石を飛び跳ねるように遊ぶことのできる展示と、触感メタマテリアルの踏み心地と向き合うことのできる展示の2つを用意しました。前者では、触覚メタマテリアルに触れて発想力を使って自由に遊んでもらいたいという主旨が強かったので、後者を実験の対象としました。

選んだ触感メタマテリアル・素材&構造について

触感メタマテリアルの詳細に関しては、未来館[空想⇔実装展]に寄せて:触感メタマテリアルとは?|SFC TOUCH LAB|noteをご参照ください。

今回の展示では、硬さの異なる3つの触感メタマテリアルを製作しました。3つの触感メタマテリアルは全て同じ素材からできており、図1のように構造を変えることによって接地面で感じることのできる硬さを調整しました。

図1:触感メタマテリアルの構造の比較

まず、どのようなワークショップを構想するかグループで話し合った結果、子どもたちの好奇心を掻き立てる、トランポリンに目を向けました。そこから「触れてみたい!」と思わせることのできる見た目が良いと判断し、ジャンプして乗ってみたくなるよう半球の形に決定しました。また、子どもたちの足の大きさを15cm〜20cmほどと仮定し、出力できる最大値であった25cm×25cmの寸法で触感メタマテリアルを製作しました。

半球であることから、触感メタマテリアルの上から力を加えることで沈んだり跳ね返ったりするよう、構造の設計を施しました。理想の弾力性を求めるべく、16種類ほどあった5cm×5cmのプロトタイプの中から6種類を選定し、実際の大きさである25cm×25cmの触感メタマテリアルを製作しました。プロトタイプの大きさの5倍へと実物を拡大したことから、想像より素材が硬くなってしまったため、実験で使用する触感メタマテリアルは1番弾力性を感じることのできる順から3種類を選定しました。

最後に、実験の評価方法としてどのようなオノマトペを提示するべきか議論を重ねました。メンバーがそれぞれの触覚メタマテリアルの踏み心地をオノマトペで言い表し、候補に上がったオノマトペを組み合わせたのち、それぞれの触覚メタマテリアルを表す対のオノマトペを選定し、合計6つのオノマトペに絞りました。

展示のレイアウト・METAの配置について

図2:日本科学未来館での展示の様子

1区画目には1番柔らかく感じた構造の触感メタマテリアルを、3区画目には硬く感じた構造の触感メタマテリアルを、2区画目にはそれらの中間くらいの弾力性を持った触感メタマテリアルを配置しました。そしてそれぞれ1区画目には「ぷにぷに・むにむに」2区画目には「むちむち・もちもち」3区画目には「ぐにぐに・ぶにぶに」というオノマトペを提示し、参加者には、対のどちらを感じた触覚と相応かを投票してもらいました。

どうやって展示に対する理解を測ったか、その手法

展示では子供たちにメタマテリアルに親しみを持って接して欲しいという意図から、この半球体の触感メタマテリアルを「Metaちゃん」と称しました。

図3:体験の流れ
図4:体験の概要


展示の手順

  1. 3区画毎に展示されている触感メタマテリアルを踏む

  2. 目の前に提示された2種類のオノマトペから、自分の感覚にもっとも近いと感じる方のオノマトペと対応したカラーボールを投票箱に投入

  3. 投票箱は素材が透明で中身が外部に可視化されているため、他の来場者はどちらのオノマトペを選んだのかを視覚的に把握

  4. 体験を終えた参加者には「オノマトペシール」を配布

参加者の理解のために

  1. 実際に踏んでいるモノは同じでも、人によってそのモノから得られる感覚として選ぶオノマトペが異なるということを説明

  2. ボールで色分けして投票することで結果を可視化

  3. 触覚メタマテリアルの汎用性を説明(ex. 靴のインソールに応用できる、衝撃吸収材に使用できる等)

集計結果と考察

図5:集計結果まとめ

8/27(土)と8/28(日)の2日間での来場者は917人でした。結果は図5の通りです。

展示中に行なった投票では、柔・中・硬の3区画それぞれにおける、投票数を記録しました。

柔らかい構造のMETAでは、投票結果に大きな差はありませんでした。その背景には「むにむに」と「ぷにぷに」のオノマトペから想起される触感に、大きな差がないからだと考えられます。参加者からは、「踏みしめるとむにむに、飛んでみるとぷにぷに感じた」という意見もあり、実際に参加者によって触感メタマテリアルとの関わり方が異なったため、投票結果が半分に割れたのかなと推測できます。

反対に、かたい構造のMETAで使用したオノマトペ「ぐにぐに」と「ぶにぶに」は投票結果に大きく差が開きました。特に大人の参加者は、これは「ぐにぐにでしょ」と即決している方が多くみられ、参加者の今までの経験によって想起される触感に当てはまるものとして「ぐにぐに」と「ぶにぶに」の二択は選びやすかったのだと思われます。しかし、子供の参加者だと体重が軽いので、そもそもかたい構造のMETAだと大人ほど弾力を感じられない現象が発生し、「ぐにぐにでもないし、ぶにぶにでもない」という声が多く得られました。そのため、子供に関しては「ぶにぶに」と「ぐにぐに」の二択から触感を想起するのは難しく、子供票は半分に割れていたのではないかと推測できます。

中くらいの構造のMETAにおいては、柔らかい構造のMETAと、かたい構造のMETAの投票結果における差の、ちょうど中間くらいの差ができていたことから、「むちむち」と「もちもち」の二択は、柔らかい構造の二択よりは想起しやすく、かたい構造の二択よりは想起しにくかったと推測できます。参加者の多くは、「むちむち」「もちもち」を身体の一部と関連づけて想起しており、他のオノマトペに比べて身近に比較対象があったためオノマトペと足で感じる触感を連動させやすかったのではないかと考えました。

2日間の投票を通して、我々が選んだオノマトペの二択の組み合わせは、構造が硬くなるにつれて想起しやすい触感の組み合わせであると推測できます。このことから、人間は硬い構造に触れた時の方が、自分の経験から想起される触感として考えやすいと言えるのではないでしょうか。

ブーバ/キキ効果と展示の関連性

[1] :https://www.ingentaconnect.com/content/imp/jcs/2001/00000008/00000012/1244
図6:ブーバ/キキ効果

ある図形と関連する言語音をつける際、私たちは直感的に図形の視覚的印象と言語音の音の印象を捉え、連動させます。この裏付けとして、ブーバ/キキ効果(図7)と呼ばれる、左のように丸みのある図形と右のように尖った角のある図形とを並べた際に「ブーバ」と「キキ」の2つの言語音をどちらに当てはめるかという実験があります。このとき、ほとんどの人が左の丸みのある図形の方を「ブーバ」、右の尖った角のある図形の方を「キキ」と判断する傾向にあります。この傾向は、人間が連想する図形の視覚的イメージと言語音のイメージが一致していることの表れだと言えるでしょう。しかし、仮に選択肢が「ブーバ」と「ブーボ」であれば、答えは分かれたと研究者は言います。

私たちの実験では上記を検証するべく、柔らかい触感を一択のオノマトペに限定せず、あえて2つの選択肢を用意しました。これは、人間が連想する触感的イメージ(METAの踏み心地)と言語音のイメージ(オノマトペ)を結びつける時、個人が感じる感覚には、主観や経験値の影響があることを証明します。それぞれが異なる日常を過ごす中で、親近感のある触感と未知の触感が存在するため、同じ部類の触感を表すオノマトペを選択する時、私たちは無意識に過去の経験と感性を結び付けていると言えるでしょう。

展示を通しての工夫

今回の展示を通じて、大きく2つの工夫を施しました。

  1. 当初は投票として使用するカラーボールにオノマトペ記載のシールを貼る予定でしたが、なるべくシンプルにしようと、シールは参加賞として配布することに変更しました。展示の最終地点でシールを配布したことから、動線がスムーズになり、またシールを集める目的で参加してくれる子供も多く見られました。

  2. 一部の子供がカラーボールの触感に注目している場面がありました。大人の来場者含め、ボールの色・触感でオノマトペを表現しているのかと思った方が多数いました。このような混乱を避けるため、ボールを投入する箱に「投票箱」の印を貼りました。

結論(気づき・学び)

今回選出したオノマトペに関しては、来場者のコメントからいくつか興味深い見解を受けました。柔らかい構造の触感メタマテリアル上で飛ぶと、「もちもち」の感覚が増し、ゆっくりと踏みつけると、「むちむち」の感覚が増すという声や、「ぶにぶに」と「ぐにぐに」のオノマトペとはどのような触り心地なのかという質問をいくつか頂いたため、日常に馴染みのない希少なオノマトペであると感じることができました。

また、大人と子供の来場者が異なる視点からメタマテリアルに触れている場面が印象的でした。大人の来場者は重心を乗せながら踏むことで体験を楽しんでいた傾向が見られ、触感メタマテリアルの構造や素材について興味深く質問いただきました。

また、他の班では「どっちが硬いか」を考えるため、意識の対象がモノに向かいますが、私たちの班では「どっちの方が自分の感覚にふさわしいか」と、意識の対象が自分の感覚に向くため、モノに対しての先入観がない状態での判断を行うことを可能としました。

展示を続ける中で改善点やその都度工夫を施す必要があることに気づいたため、準備の段階では60点を目安にし、段々と100点に近づけて完成させていくことが大切だと学びました。

図7:メンバーの様子


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