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未来館[空想⇔実装展]に寄せて:触感メタマテリアルとは?

日本科学未来館「空想⇔実装:ロボットと描く私たちの未来」にて、JST COI 田中浩也研仲谷研(SFCTOUCHLAB) JSR(株)ラピセラ(株)の長年に渡る共同研究成果物を、体感できる触感メタマテリアルという形で展示を行っています。

本記事では、同展示会で一般市民の皆さまに体験していただいている触感メタマテリアルについて、技術解説します。

機械メタマテリアルについて

触感メタマテリアルを解説する前に、メタマテリアルそのものについて、解説します。

メタマテリアル (Metamaterials)とは、自然界で見つかる物質の一般的な性質とは異なる物理を有する物質のことを指します。メタは【超越した】という意味ですが、メタ認知 (meta-cognition)、メタ言語 (meta-language)のように、認知している内容や言語そのものではなく、認知をしていることの認知(メタ認知)や言語を記述するための言語(メタ言語)のような意味合いを表現する時に使われる言葉です。

メタマテリアルにも種類があって、機械メタマテリアル、音響メタマテリアル、電磁メタマテリアルなど、それぞれ、機械特性や音響特性、光を含む電磁波に対する特性が、一般的な材料では実現していないような性質を持たせることができます。もしくは、そのような特殊な物理法則を持つように、物質をデザインする技術が提案・開発されてきました。

機械メタマテリアルは、通常の物質とは異なる変形特性を持ちます。スポンジのような素材を押し込むと、変形してつぶれた形になり、横に広がります。しかし、機械メタマテリアルの中でもAuxetic Metamaterialsと呼ばれるものでは、縦方向につぶした際に、横方向にもつぶれて、たたみ込まれたような変形の様式を示す、もしくはその逆(横に引っ張ると縦にも大きくなる)を示します。

触感メタマテリアルについて

触感メタマテリアルは機械メタマテリアルの中でも、人間が体感する柔らかさー硬さや滑らかさー粗さの領域で機械特性(例:ヤング率や静摩擦/動摩擦)を設計し、人間が快適に過ごすための触感を提供するメタマテリアルのことを指します。触感メタマテリアルは硬さだけでなく、衝撃吸収性もデザインすることができるので、インソールやヘルメット、肘あてサポーターなど、人間の身体を守りながらも長時間にわたって心地よい状態を提供し、装着を促す装具の開発に利用することができます。

今回展示した触感メタマテリアルは、3Dプリンタ技術を活用して開発しています。3Dプリンタで製造する場合、
(1) コンピュータで立体構造物の形状をモデリングする
(2) モデリングした立体構造物を使用する3Dプリンタに合わせてスライシングする
(3) スライシングデータを3Dプリンタで造形する
のような工程で進めます。

この工程を、筆者の研究専門領域である触覚科学の観点から見ると興味深いです。これまで、触覚科学の研究で使用する物体は、自然界にある物体が多く使用されていました。3Dプリンタを利用すると、触れる物体の構造をパラメトリックに制御することができるので、人間にとっての「硬軟感」や「粗さ感」が、どのような機械パラメータによって制御しうるのかを、体系的に検討することができます。そのような研究は、3Dプリンタ技術が開発されから、少しずつ行われるようになってきました。見方を変えると、3Dプリンタは触覚ディスプレイ(触覚テレビ)とも解釈できるのです。

2022年8月6日〜8月7日の2日間にわたって、日本科学未来館で開催されている「空想⇔実装:ロボットと描く私たちの未来」の会期中に、Geo-Cosmosの下で特別ワークショップとして展示しました。SFC TOUCH LABに所属する学部学生が3つのチームに分かれて、14週間にわたって考案した、触感体験をどのようにわかりやすく直感的に伝えるのかを考えた成果物です。

触感メタマテリアル大規模展示の第1回目である今回は、左右で見た目は変わらない触感メタマテリアルが、踏み込んでみると硬さの印象が異なることを二者択一で選び、ボールを使って箱に投票します。その箱の中に入っているボールの数によって、過去の体験者がどちらがより硬く感じられたのかを視覚的に把握することが出来るしくみになっています。

触感メタマテリアル ワークショップ[このふみごこち なんだろな] photo by Shunei Nomura.
見た目がほぼ同じ触感メタマテリアルは内部構造によって部分的に硬さを変えることができます。
物理的な硬さが高くても、体験者によって硬さ感覚は変わりうることを
ボールでどちらが硬いと感じるかを投票するという形で視覚化しました。

触感のような体験しないと把握出来ない感覚を、遠隔感覚である視覚に変換して見せるという情報デザインを考案してくれました。

SFC TOUCH LABでは、2018年に慶應義塾大学・環境情報学部の今井むつみ研究会と共同で、日本科学未来館・オープンラボ「子どもの目線でふれる世界」を実施してきました。この時に得た、子どもが興味を持つ触感体験の研究知見も陰ながら活かしています。

今後、2022年8月20日〜21日、2022年8月27日〜28日の合計4日間、また別の形で触感メタマテリアルを体験できる特別ワークショップを実施します。
本記事を読んでご興味を持たれた方は、上記の期間にぜひお台場・日本科学未来館まで足を運んでみてください。同時開催中の「きみとロボット ニンゲンッテ、ナンダ?」展と合わせて観覧することで、これまでのロボット技術と、これからのロボット技術の界面を体感できると思います。

より詳しく知りたい方へ

本研究では、これまでに論文を複数報、上梓しています。
詳細な技術情報についてご興味ありましたら、下記をご参照ください。

森田淳, 小松敏, 光部貴士, 中村和洋,  川瀬領治, 仲谷正史, 田中浩也
Architected Materialを用いた感性ベースの構造デザイン手法
─カスタムインソールの3Dディジタル設計に向けて─
デジタルプラクティス Vol.11 No.2 (Apr. 2020)
https://www.ipsj.or.jp/dp/contents/publication/42/S1102-1919.html

Jun Morita, Yoshihiko Ando, Satoshi Komatsu, Kazuki Matsumura, Taisuke Okazaki, Yoshihiro Asano, Masashi Nakatani and Hiroya Tanaka
Mechanical Properties and Reliability of Parametrically Designed Architected Materials Using Urethane Elastomers
Polymers 2021, 13(5), 842. 
https://www.mdpi.com/2073-4360/13/5/842/htm

岡崎太祐,淺野義弘,櫻井智子,佐倉玲,島田旭緒,仲谷正史,田中浩也 
3Dプリントプロダクト価値創出設計のためのAshby Mapに基づくArchitected Materialデータベースの構築
The Journal of 4D and Functional Fabrication, No.2 pp. 13-22 (2021)
https://sig4dff.org/j4dff/2021/2021_02.html

植﨑梨乃, 岡崎太祐, 淺野義弘, 上田雄一, 小松敏, 安藤嘉彦, 森田淳, 仲谷正史, 田中浩也
3Dプリンタブルな靴用インソールの触感評価研究
第22回システムインテグレーション部門講演会(SI2021)
https://www.researchgate.net/publication/358689932_3D_purintaburunaxueyonginsorunochuganpingsiyanjiu

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