早期離職について

今の日本の労働市場(転職市場)において、早期離職の経験はどうしてもネガティブに捉えられがちだといえます。採用人事を担当している先輩や友人等の話を聞いてみても、勤続1年未満での離職経験はほとんどの企業で懸念事項とされ、一般的な中小の内資企業だと勤続3年、大企業では勤続5年未満での離職経験があるとマイナスポイントと見られやすい、という声が多くありました。私自身も、勤続年数は一度離職したら後からどれだけ努力しても変えられない要素であることを重く見て、勤続3年未満での離職は一度もしないようにしてきており、よほどのことがない以上この方針は変えません。
しかし、私はこの「早期離職の経験がある→おしなべてネガティブに見られやすい」という風潮には少し疑問を感じています。

環境に責任がある場合の早期離職者に対する配慮の必要性

早期離職の経験がネガティブな要素と判断されやすい理由としては、「堪え性がない可能性がある」「他に興味のあることができたらまたすぐに辞めそう」「教育のために投下した資本が無駄になるかもしれない」「企業のノウハウが流出するおそれがある」等が挙げられるでしょう。確かに、「他にやりたいことができたから」「なんか合わない」といった理由ですぐに辞めるような人については、早期離職という経験を作った労働者本人に責任がある以上、そういった理由で企業が採用に慎重になるのは当然だといえます。
問題は、早期離職の原因が労働者本人ではなく職場環境にある場合、すなわち企業側が脱税やデータ改竄のような違法行為を命じてきたりしてきて、そこから逃れるために早期離職をした人に対する処遇です。この場合、早期離職をした人は、犯罪行為・違法行為のある環境に身を置かないようにするために早期離職という選択をしたのであり、本人に責任はありません。そのため、先程の「堪え性がない」や「すぐに辞めそう」という企業側の思惑は関係ありません。もちろん、企業側に責任がある以上、「投下資本が無駄になる」「ノウハウが流出する」といった懸念を検討する必要もありません。むしろ、本人は社会のルールをしっかり守るために早期離職をしたのであって、そのような早期離職はネガティブどころかむしろポジティブに評価されるべきだと思うのです。ネガティブに思われやすい早期離職という過去を作ってでも社会規範を守ろうとする遵法精神は、名誉あるものではあっても後ろ指をさされるようなものでは絶対にありません。勤続年数を気にして違法行為に手を染めるより素早く手を引くほうが明らかに社会人としては賢明でしょう。断言することはできませんが、違法行為を命じてくるような企業に対し「それは違法です」と主張したところで「そうか、じゃあやめよう」という企業はあまりないでしょうから(そういう企業ならそもそも最初から違法行為を命じたりしないはずです、例外はもちろんあり得ますが)、「違法にならないようにどうにかできなかったの?」という反論は当たらないといえます。また、企業に入る前にそんなことをされると予測することは事実上きわめて困難である以上、「入る前にしっかり企業研究しとけばよかっただろ」といった反論も的を射るものではありません。
ところが、こういった人が転職活動で早期離職の経緯を正直に話すと企業側に「転職理由がネガティブだ」「前の企業のことを悪く言うなんて」「前の企業の内情をベラベラ話すのでは口が軽いのではないんじゃないか」といった印象を持たれがちな風潮があることは否定できません。転職対策のテキスト等にも、「転職の理由でネガティブなことを挙げるのは厳禁」という記載が多く見受けられます。
しかし、繰返しにはなりますが、社会のルールを守るためという離職理由のどこがネガティブなんですか。「違法行為に手を染めることはできないので辞めてきました」と言われたら、「おお、それは素晴らしい」となるのが正しい受答えなのではないでしょうか。また、そのような企業の内情を話すことは、自分が軽々しく辞めたわけではない・早期離職は自分に責任があるものではないということの正当な主張であって、「口が軽い」という印象に結び付けられるべきものではないとも思います。いうなれば、裁判で自分に法的責任がないことを主張・立証するのと同じです。「そんな酷い会社だったのか」とは思っても、「こいつ口軽いな〜」と思われる筋合いはありません。
今の転職市場から「早期離職はそれすなわち悪」といった風潮が一刻も早く消え去り、「違法行為から逃れるための早期離職ならむしろプラス評価」という風潮が根付くことを切に望みます。

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