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David Bowie / Changes (2021Mix)を聴きながら思ったこと。

 昨日(2021年12月17日)は、イギリスのアーティスト、デヴィッド・ボウイ(1947-2016)の4枚目のアルバム、『ハンキー・ドリー』が発売されてからちょうど50年だった。

 それに伴って、このアルバムのリード曲である、『チェンジズ(Changes)』の2021年バージョンの新ミックスが公開された。

 この新ミックスは、ドラムスの音がよりクリアになっていたり、ベースの音がかなり強調されていた(ていうか、この曲のベース、突拍子もないことやっててすごい面白いな)。あと、終わりの部分のサックスソロが違ったりと、いろいろな変化があってよくできたバージョンだったと思う。

 この曲は、ボウイの約69年の全キャリアの中でも、特に人気の曲だった。NMEが発表した、デヴィッド・ボウイ究極の名曲1位~40位でも、堂々の2位を獲得するという人気っぷりだ。(ちなみに1位は、"Heroes"だった。うん、知ってた。)


 タイトルにもある、"Changes"という言葉、日本語にすると「変化する」という意味だ。デヴィッド・ボウイは誰よりも変化を求める人物だった

 彼はもともと「ディヴィー・ジョーンズ」という名義で活動をはじめ、途中から「デヴィッド・ボウイ」に改名。その数年後には、「ジギー・スターダスト」という仮のペルソナを作り上げた。数枚のアルバムを発売した後は、それを永遠に葬り去り、次に「シン・ホワイト・デューク」というペルソナに。このように複数の人格を併せ持つ存在だった。彼は真の意味でパフォーマーだったのだ。

 別に彼の変化は姿かたちだけではない。音楽性そのものも、臆することなく変えてしまうような人物だった。煌びやかで派手な、グラム・ロックの基礎を作り上げた後は、黒人音楽に触発されソウルに傾倒(『ヤング・アメリカンズ』)。その後、ドイツに移住した際には、電子音楽にハマり、あの有名な「ベルリン三部作」(『ロウ』、『ヒーローズ』、『ロジャー』)を作り上げた。死の直前に発表された『ザ・ネクスト・デイ』や『ブラック・スター』はダークな世界観を醸し出しており、まるで自身の死をファンに知らせるようであった。

 いろいろな意味で、デヴィッド・ボウイは「変化」の人間だった。しかし、"Changes"が発表された年代が、1971年という点に注目すると、その「変化」はなにも彼自身のことだけではないことがわかる。

 1971年は変化の年だった。いい意味でも悪い意味でも(いや、おおよそは悪い意味だったか?)、世界は変わっていった。ベトナム戦争が激化し、ラオスへの侵攻がはじまったのもこの頃だ。パキスタン軍の虐殺や、バングラデシュ・カタールの独立、アメリカのニクソン・ショック、アフリカでの武力衝突、インドパキスタン戦争の勃発と収束、そしてヒトラーに肩を並べる歴史上稀にみるクソゴミ野郎、ポルポト率いるクメール・ルージュによる市民の虐殺などがあった。

 これ以外によい変化もたくさんあっただろうが、これだけのことが起きている以上、やはり眼を向けざるを得ないだろう。

 世界が、チェンジズしている中、デヴィッド・ボウイはそのことについて歌ったのだった。


 時代と同時に人も変わった。特に若者たちだ。戦争をやめないバカな政治家たちに「NO」を突き詰めるために何人もの若者が戦い、そして散っていった。それすらもこの曲は内包している。

 この曲、1番は「個人」が変わっていく物語だ。

Still don't know what I was waiting for
And my time was running wild, a million dead-end streets and
Every time I thought I'd got it made
It seemed the taste was not so sweet

僕は何を待っていたのか。未だにわからないんだ
僕の時間は無常にも、どんどんと過ぎていく
いつだって「今回こそはうまくいった」と思っても、
現実はそう甘くないみたいだ

 しかし、2番になると、若者についてボウイは歌っている。

And these children that you spit on
As they try to change their worlds
Are immune to your consultations
They're quite aware of what they're going through

今、お前が唾を吐きかけたそこの若者たちは
世界を変えようとしているんだ
お前の言うことを聴かないそいつらは、
これから自分たちに何が待ち受けているか知っているのさ

 終わらない戦争、いつだって先が見えない未来に、少しでも光を、少しでも希望を、そうボウイは願っていたようにも思える。


 若者の不満というモチーフが描写されているのはここだけじゃない。

 サビの"Ch-ch-ch-ch-changes"という風に、吃音のように発生する部分は、もちろんThe Who"My Generation"を意識しているだろう。


 初期パンクを感じるこの曲は、60年代の若者の不満をそのまま言語化したような曲だった。この曲は、若者目線で大人に喧嘩を売るような歌詞が特徴的だが、"Changes"の方は、大人でも子供でもない、別の視点で若者たちについて歌っている。そういう部分が新しい。その新しい視点であれば、若者たちを、そしてこの世界を変えることができると考えたのだろうか。



 "Changes"は、1971年という激動の時代に生まれた、「変化」についての曲でありつつ、複数のペルソナを有していたボウイ自身の歌でもあった。変わっていくことは怖くない。そんなことを彼は言いたかったんだろう。

 最後にこの曲の一番有名な歌詞を引用する。

 あなたはこの部分を、どうやって解釈しますか?

Time may change me
But I can't trace time

時間は僕を変えてしまうだろう
でも僕は時間を追うことはできない。


小金持ちの皆さん!恵んで恵んで!