この先行き止まり

旅と写真、たまに文章

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降り積もる青

2021年12月の末、留萌の寂しいビジネスホテルで、僕は焦っていた。 受験を挟んでほぼ2年ぶりの一人旅は10泊11日の長期戦で、疲れないためにかなり行程に余裕を持たせた(始発を減らしたり何もしない日を作ったり)のはかなり賢明な策だと思った…のだが。 どうも感動が薄い。求めていた雪景色は確かにここにあるし、留萌市の夜の市街はまさに遠方の地方都市という光景だった。なにが原因なのか、ほとんど分からないまま予定ではこの旅唯一の始発列車に乗るために眠る。 そして結果的に、旅には始発

    • 佐世保

      4月1日から地方都市のバスを使おうとしてはいけない。 高速船で着いた佐世保の街ではバスのダイヤ改正にスマホの情報が追いついておらず、時刻表が全く違う。 行先表示に「矢 峰」とだけ書かれたバスが2台連続で目の前を通り過ぎて行った。もう何も分からない、もうダメだ。 適当な便に乗って適当な場所まで行き、しばし徘徊して佐世保駅に帰ろうと住宅街のバス停に辿りつく。 当然全くわからない、というか本数が少なすぎる。右往左往していると突如、天啓を得た。 「佐世保駅ならもうすぐ"下"のバ

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        • 別になんでもない

          8月のある日だった。 僕は…… 瀬戸内の田舎町を走るバスにひとりで揺られている。最後部の高い座席から、真横に穏やかな入江がみえる。 海沿いの道をゆっくり進むバスは、アナウンスも何もないままいくつかのバス停を通過していく。穏やかな旅路だ。 ずいぶん狭いところを走るなあ。 バス停をまたひとつ通過する。 「浦崎中学校前」。 一拍置いて、糸で頭が後ろへ引き寄せられるのを感じた。 抗いがたい睡魔に打ち負かされるように、僕は身体の支配権を失った。 低い窓から入江を眺めるために屈め

          九龍叙景

          僕はこの文章が書けることをとても嬉しく思う。 ずっと前から名前だけ知っていた尖沙咀という地名をついに目の前にし、古いMTRに残る埃っぽさや湿気もすべて愛おしい。 深夜特急、アザレアの心臓、恋する惑星、いくつものアプローチからこの街への想いを募らせた僕は今ようやく MTRの駅を出て、九龍半島でもっとも有名な道を探す。香港の街歩きを始めるにあたって僕はどうしてもそこから出発したかったのだ。 僕は目の前の通りの名前をとりあえず知るべく黒縁に白地の看板を見やる。名を知ると僕はなんだ

          セシルローズ

          その頃の僕は、もうどこに居ても何をしていても真っ暗な思考の渦から抜け出すことができなくなっていた。考えることは渦の音に遮られ、見るものはその暗闇に閉ざされた。僕が毎日最寄り駅から京王線に飛び込むのを思いとどまっていたのは、単に親に先立つのは悪いからという理由だけだった。 読んでいた小説の主人公がイヤホンをしても耳を塞いでも四六時中耳鳴りがして、大音量で音楽を流しながらでないと寝れないという耳の病気に罹った。この大きな渦がそのような耳鳴りであったとしたら僕は彼に深く感情移入でき

          【2023年11月】重慶大厦に泊まる

          幽瀬、かそせと申します。 なにか質問等あればTwitterまでお気軽にどうぞ。 その前に 既に数多の宿泊記が存在する重慶大厦。 さらに多めに宿泊レポートが存在するところの滞在記だが、情報は新しければ新しいほどいいと思うのでここに書いておく。 2023年11月中旬、土曜→日曜の宿泊記である。 その前にだが、自分が思うに現在香港でわざわざ重慶大厦を選んで宿泊するメリットはあまりない。 宿泊料金は後述するが、たくさんのホテルが重慶大厦内にある中であくまで自分のような海外旅行初

          【2023年11月】重慶大厦に泊まる

          アムステルダムと僕

          サカナクションのアムスフィッシュという曲は僕の大好きな曲で、何度か繰り返される「アムステルダム」というワードが印象的。 いい曲なので是非聴きながら読んでください。 曲自体は別にアムステルダムの情景を歌っているわけではなく、歌い出しとしてこの単語がスっと出てきたんだ、みたいなことを山口一郎がインタビューか何かで言っていた気がする。 ……というのは置いておいて、僕が旅に目覚めようとしていた高校生の時分、この「アムステルダム」という歌い出しはたいへん刺激的なものだった。 そう

          アムステルダムと僕

          ここが異世界だとしても

          あ、駅弁がない。 山形県は新庄駅。また僕はきちんとした夜飯にありつけないのか…… 一人旅をしていると飯に困ることがよくある。誰であってもどんな旅であっても旅行先でコンビニ飯は避けたいもので、しかし一人で未成年となると夜に入れるお店は限られてくる。あと勇気もない。 そんな時、買い弁にしても「駅弁」ならばわざわざ店に入らなくてもホテルで食べられるしまさに旅先の食べ物だから最適…なのだが、当然駅弁というのは夜には売り切れてしまう。 僕が酒田駅から陸羽西線のディーゼルカーに揺ら

          ここが異世界だとしても

          円環

          僕は一人で旅をするのが好きだ。ほんとうに好きだ。 僕は「旅」と「旅行」についてわりと明確に異なる定義を当てはめていて、それが世間一般とか辞書とかでは正しくなくても自分のなかでは"そういうこと"になっている。自分の趣味と謳うからにはそれについてきちんと考えて、自身の考える正解を出しておかなければならない。 旅。家を出てから目的地に向かって帰るまでのすべての行為が目的。値段と時間が許せば普通列車や船などでゆっくり行くとよい。テーマパークに行かない。ネガティブな動機。そしてひと

          アザレア行き夜行船

          愛媛県松山から数十分。降り立った高浜という駅は郊外電車の終点で、なかなか風情のある佇まいだった。 しかし慌ただしく小さいバスに乗り換え、フェリーターミナルへ向かう。 手続きを済ませ、空港のような通路を歩くと見えてくる「松山 - 小倉」のプレートを掲げた船。 ある冬の日、その古ぼけたフェリーこそが、僕の宿だった。 2019年、大晦日の夜に夜行列車で東京を発ち、香川で初日の出を迎えた僕は人生初の四国は高松に降り立つ。正月をことでんに揺られてうどんを啜りながら過ごし、特急しお

          アザレア行き夜行船