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アムステルダムと僕

アムステルダム
雲の切れ間で頷く魚が
進む僕らの背中眺めて笑っているよ

サカナクション「アムスフィッシュ」

サカナクションのアムスフィッシュという曲は僕の大好きな曲で、何度か繰り返される「アムステルダム」というワードが印象的。
いい曲なので是非聴きながら読んでください。

曲自体は別にアムステルダムの情景を歌っているわけではなく、歌い出しとしてこの単語がスっと出てきたんだ、みたいなことを山口一郎がインタビューか何かで言っていた気がする。

……というのは置いておいて、僕が旅に目覚めようとしていた高校生の時分、この「アムステルダム」という歌い出しはたいへん刺激的なものだった。

そういえば、と思ってアムステルダムを地図で見た時の衝撃は今でも覚えている。無数の水路……え、本当に"ダム"なの?
気づけば僕は「行きたい海外の都市」として香港に次ぐのはアムステルダムだと答えるようになっていた。

さて、思わぬところから「アムステルダム」という語彙が舞い降りたのは自分の中で"アムスフィッシュ"ブームが終わった頃だ。
受験を乗り越え、適当にSNSで知り合った仲間と大学の外国語オリエンテーションに向かった。今からちょうど2年前になる。

大学にて、2021年4月

自分の行く学部は第二外国語が必修なのだが、当初僕は高校世界史の授業に甚く影響を受けてスペイン語を履修しようと思っていた。
が、そもそもこの学部ではスペイン語の授業をやっていなかった(今でも信じられない)。
さてどうしたものか、まあそれならフランス語か……と思いながらオリエンテーションを聞いていると、ドイツ語の担当が2年次に行われる海外研修旅行の話題を出した。

なるほど楽しそうだなあとスライドを見ていると、その女生徒はそういえば、というふうに「休日はアムステルダムに行きました」と言うのだ。

……「「休日はアムステルダムに行きました」」?
休日に、アムステルダム。休日にアムステルダム?

ドイツ語を取れば、2年次の海外研修で、アムステルダムに行ける。




こうして僕は晴れてドイツ語を履修することになった。
言うなればアムステルダムに行くために僕はドイツ語を取ったのだ。ドイツに対してかなり失礼だが。

フランクフルト・アム・マイン空港長距離駅

時は流れ、2023年3月2日。
舞台は八王子からドイツはフランクフルトに移る。
結局金銭面からかなり渋っていた僕だが友達からの熱い説得を受け、免許合宿をキャンセルし、いよいよドイツに降り立った。

不純というか訳の分からない動機で取ったドイツ語だけれど先生や友達のお陰で結構楽しくて、そして来てしまった。ドイツに。

フランクフルト空港駅のコンコースから地下の線路を眺め、ああ、ICEだ、と思う。実感が湧いているのかどうかもわからないままだ。
乗車予定のハンブルク・アルトナ行きは遅れすぎて後続のドルトムント中央行きに先発された。なるほどドイツ鉄道が遅れるというのは本当だ。

ハンブルク……ドルトムント……と行先表示を目にする度いちいち心の中で復唱していた僕だが、ドイツに来て2週間も経つ頃にはさすがに見慣れるものだ。

デュッセルドルフ中央駅

アムステルダム行きのICEに限っては見掛ける度「あ、アムステルダム行きだ」とか言っていたが……ついに乗る時がやってくる。


2023年3月18日。

海外研修のラスト2日間は自由行動で、基本行動を共にしていた4人でオランダとベルギーに行くことにした。
僕は独りでも行こうと思っていたので嬉しい誤算だ。

僕らは5時半に起きてデュッセルドルフ中央駅に集まった。
ICE222、アムステルダム中央行き。

オランダ国鉄の車両

最早使い慣れたホームにほぼ定刻でICE222便が滑り込む。先頭の青いマークはオランダ国鉄のもので、国際便らしくオランダ側に所属する車両だ。

DBのアプリでは"Medium-demand"となっていたがかなりの混雑で、窓側は当然事前指定されている。
早起きだということもあり友人たちは早々に寝ていたが、僕は地図と車窓を交互に見て、張り巡らされた連絡線を駆使する複雑な運転ルートを追っていた。そして僕も結局寝た。

起きて地図を見るとすでにオランダに入国しており、アーレムという駅の手前だった。なるほどレンガ造りの建物が多い。

ユトレヒト条約やミッフィーで有名なユトレヒトを出て、田園風景にひとつの違和感。大きな並木道かと思われたそれは運河だ。
運河に沿って並木が並び、田園風景の中にたびたび大型船が垣間見えるのはこれまで眺めたどの景色にもない光景だった。窓際に座るカップルも物珍しそうに動画を撮影していた。
そしてボンヤリしているうちに地図はアムステルダム近郊を示す。やはりICEは速い、とりあえず僕はそわそわしてみる。

そして左側の車窓に銀色の電車が現れる。オランダ国鉄の黄色い車両ではない、アムステルダムのメトロだ。
アムステルダムの地下鉄電車と並走しているということはもうアムステルダムの都市圏に入ったということだ。

……つまりどういうことだ?僕がアムステルダムに居るとでもいうのだろうか。
宇宙船に乗っているような気分だった。とりあえず「アムスフィッシュ」を聴いた。

アムステルダム・アムステル駅

「アムスフィッシュ」には「アムステル……アムステルダム、」というふうに繰り返し歌う箇所があるのだが、この駅はアムステルダム・アムステルという。歌詞そのままだ……もちろん関係はないのだけれど、字面の一致というのはどうしてもインパクトが強い。すごすぎる。

この時点で車窓に運河はちらと映る程度でなんだこんなものか、と思っていたが、本当にあと少しで中央駅というところで左手の車窓に運河が広がった。

運河沿いをゆっくり進む

列車はまさに……アムステルダム的景観の真ん中を走っている。もうアナウンスも何が何だか覚えていないが、とにかく僕らは着いたようだった。
ICE222便はオランダ王国の首都、アムステルダムに到着した。

あのアムステルダムに到達したというにわかに信じ難い事実を胸に、僕は意味もなく落ち着き払ってみせて、列車から降りる。

アムステルダムでのファーストカット
ICE222便

駅名標を探すも、先にハイネケンの看板が見つかった。到着したホームにはなさそうなので諦めて外に出る。
さあアムステルダム、姿を僕に見せてくれ。

予報に反して晴れた

アムステルダムだ。

それ以外の言葉が出てこない。駅前に横たわる運河。それを横切る路面電車、煉瓦造りの荘厳な駅舎。それらすべてがこの都市の構成要素として僕の眼前に存在している。

僕らはさっそくよく分からないアラブ人に絡まれたが、適当にやり過ごして歩みを進めると運河クルーズの看板が目に止まる。その次はカジノだ。

この×××がアムステルダムの市旗でありシンボルだ

アムステルダムの街を歩いている、というのを自分に言い聞かせるだけでどうしようもなく気分は高揚する……が。
街中に向けて歩くにつれて僕らは違和感というべきか、この街のイメージとは異なる雰囲気を感じ取った。
土産物屋が俗っぽすぎる。

一足先にここに行っていた先輩から聞いていたのだ、アムステルダムには巨大な風俗街があると。
なるほどなあと思いつつ賑やかな中心街を進んだ。

王宮

王宮を横目に歩き、日陰になった市電通りで僕は変な草のような匂いを感じた。疑うまでもない、大麻の匂いだ。

ここに来るまで僕らはドイツで2週間と少し生活していたわけだが、治安が悪いと噂されるフランクフルト中央駅などには行っていないので大麻に接する機会は特になかった。
ドイツよりも明確に感じる「異文化」に僕はゾクゾクしていたのだが……友人たちの評価はすこぶる悪いようだった。まあ当然だ。

彼らは煙草のような感覚で、かなりカジュアルに街中で大麻を吸う。一応外で吸うのはダメらしいがそういう人はあまりにも多い……もしかしたら全員観光客かもしれない。
割としんどい臭いがするので結局1日居ても慣れなかった。

大麻入りクッキー
大麻のフレーバー表

普通に土産屋にこういうのが置いてある。定番土産のようなものだ。

街には自転車が多い、道路はボコボコだがこの国に高低差は少ない。

適当に歩けば運河に当たる。

運河の向こうはまた運河、橋の上からはまさしくアムステルダムというような美しい景観を見た。

昼はそこそこ有名らしい「ルクセンブルク」という名前のカフェでベルギーのビールを飲み、ベネルクス三国制覇だ!などと言っていた。

午後からは曇り空、地盤が緩んで傾いた建物を見つつ中心街らしきエリアを徘徊した。
現在は博物館となっているアンネ・フランクの家にも行ってみたがあまりにも混んでいたので中央駅へ引き返し、アムステルダムの一大観光地へ向かうべくメトロM52線に乗る。

M52線は運河のあるアムステルダム中心市街地を縦断するが駅数は10に満たない。
日本ではグラデーション状になりがちな、古くからの中心市街/その外縁部に広がる新興の市街地という構造を強く感じさせる。両端の駅名は「Noord(北)」駅に「Zuid(南)」駅とあまりに単純なのも面白い。

Vijselgrachtファイゼルグラハトという駅で降りる。IJをアイと読むのがオランダ語の面白いところだ。

少し歩き、アムステルダム国立美術館。

「真珠の耳飾りの少女」「夜警」などが所蔵されるここはアムステルダム観光で外すことのできない場所だが、垂れ幕からもわかるようにちょうどフェルメール展をやっていた。
しかしフェルメール展のチケットは取れなかったので「真珠の耳飾りの少女」は見れず、僕らは「夜警」のみを見た。

国立美術館という特性もあってか、著名な絵画の他にもかつて栄華を誇ったオランダ植民地に関する絵画・展示物が印象に残った。

博物館前の広場で休憩して、中央駅に戻る。

暮れ方の駅前広場はあまりにも美しい。

運河に潜るエスカレーターは駐輪場の入口だ

中央駅の通路からは向こう側の運河が見え、駅の中を歩きながらにして船の横切るのが見えたりする。

駅前をさも自動車かのように船が闊歩する尾道の駅を思い出した。

運河クルーズに参加しようという話になり、会社を見繕っているうちに日は暮れた。

どこから来たのだろう、別の旅行グループと集合写真を撮りあったりもした。どうやら指ハートは世界共通らしい。

運河クルーズに参加、ハイネケンを飲みつつチーズをサービスしてもらった。嬉しい。
当然案内は英語なので……人居ても半分くらいしか内容を理解出来なかったが、ライトアップされた狭い運河や古めかしい橋の数々をゆっくり眺めるのに言葉はいらないのだ。

こういう経験は一人旅じゃなかなかできないのでその点でも良かった、雰囲気抜群で僕ら以外はほぼカップルだったが。
宣伝しておこう、Flagship Amsterdam社の1hコース(確か)を利用しました、運河クルーズは彼らに頼めば間違いありません。

市内のホテルは当然高いので空港付近にホテルを取った、市電とバスで移動する。


日付は変わって2023年3月19日。友人たちとホテルのロビーにて、半分寝ながら駄弁っている間に僕は20歳になった。

友達のひとりが爆睡したため部屋飲みは却下され、僕も泥のように眠った。明日はベルギーに行くらしい。

空港近くのホーフトドルプという町の朝。

ホテルから駅まで霧の中をとぼとぼ歩いていると静まりかえった研究都市のような区画を通った。
不気味な石でできた生首たちといい素晴らしく不気味なムードにひとりで朝からテンションを上げている。

ホーフトドルプ始発、スキポール空港経由アムステルダム中央行きのインターシティ。
オランダ鉄道のこの車両はまさしく幼い頃図鑑で見た海外の車両そのもので、ちょっと感動した。

鉄道の当日券は高いので、僕らは郊外のターミナルからFlixBusでアムステルダムを発った。

アムステルダムという憧れの街で、友人とともに20歳を迎えられたことをとても嬉しく思う。
今回フィルムカメラは間違えてデュッセルドルフに置いてきてしまったし、幾度となく見つけた狭い街路にも入っていってみたい……再訪する理由がある。

さよなら、また会おう。


最後にブリュッセルの写真でも上げておく。




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