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(小説)安眠カフェの恋模様【第4章:初恋の予感】

春の陽気が次第に増し、カフェ「安眠」の庭には色とりどりの花が咲き乱れるようになった。風に乗って運ばれてくる花の香りが、カフェの心地よい空気に溶け込んでいる。

志田玲実は、今日もいつもの席に座り、シナモンティーとパンプキンパイを楽しんでいた。彼女の視線は窓の外に向けられ、遠くの景色をぼんやりと眺めている。その瞳には、何かを探すような寂しさと期待が混じっていた。

石山鷹尾は、カウンター越しに玲実の姿を見つめていた。彼女の静かな佇まいと優雅な仕草に、心を奪われるのを感じた。鷹尾はこれまで、恋愛に対してあまり積極的でなかったが、玲実に対しては違った。彼女の笑顔を見るたびに、胸が高鳴るのを抑えきれなかった。

カフェには沢田実と吉川正治も訪れていた。二人は鷹尾と玲実の様子を見守りながら、何かが起こりそうな予感を感じ取っていた。

「鷹尾さん、今日はいつもより緊張してない?」実が小声で問いかけると、鷹尾は少し顔を赤らめながら答えた。「ああ、なんだか今日は特別な日な気がしてね」

「玲実さんも、今日はなんだか落ち着いているように見えるな」と正治が続けた。

その日、玲実はいつもより早くカフェを訪れていた。彼女は静かにシナモンティーを飲みながら、心の中で自分の感情と向き合っていた。鷹尾に対する思いが、次第に深まっているのを感じていたが、それが恋愛なのかどうか確信が持てずにいた。

ふと、玲実は鷹尾の視線に気づき、目が合った。鷹尾は慌てて目をそらそうとしたが、玲実の優しい笑顔に心を揺さぶられた。彼女の微笑みに勇気をもらい、鷹尾は一歩前に踏み出す決意をした。

「玲実さん、今日はお話ししてもいいですか?」鷹尾は心臓が高鳴るのを感じながら、勇気を振り絞って声をかけた。

玲実は少し驚いたが、すぐににこやかにうなずいた。「もちろんです。私もお話ししたいと思っていました」

二人はカウンター越しに向かい合いながら、互いのことを話し始めた。鷹尾は玲実のことをもっと知りたいと思い、彼女が東京に来た理由や、カフェ「安眠」に通うようになった経緯を尋ねた。玲実は、自分の思い出や悩みを少しずつ打ち明け、鷹尾の誠実な対応に心を開いていった。

「このカフェは、本当に素敵な場所です。鷹尾さんの心が込められているのが伝わってきます」と玲実が言うと、鷹尾は照れくさそうに笑った。

「ありがとうございます。それを言われると、とても嬉しいです」と鷹尾は答えた。

その時、店のドアが開き、新しい客が入ってきた。鷹尾は仕事に戻るため、玲実に「また後でお話ししましょう」と言い残し、カウンターに向かった。玲実は彼の背中を見つめながら、心が温かくなるのを感じた。

実と正治は、二人のやり取りを見守りながら、「鷹尾さん、本当に頑張ってるな」と感心したように言った。

「うん、あの二人がどうなるか楽しみだな」と実も同意した。

春の柔らかな日差しの中で、鷹尾と玲実の心は少しずつ近づいていった。それは、初恋の予感と呼べるものだった。互いの存在が、日々の生活に新たな色を添え、心に温かな光をもたらしていた。

カフェ「安眠」の窓から見える庭の花々も、まるで二人の心の変化を祝福するかのように、鮮やかに咲き誇っていた。この春の日、鷹尾と玲実の間には確かに新しい感情が芽生え始めていた。それは、二人にとってかけがえのないものとなるだろう。


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