_エリザベート_2020年公演製作発表2

【Report】 トート役は井上芳雄・古川雄大に山崎育三郎が加わりトリプルキャストで、2020年「エリザベート」製作発表会見(2019)

 2019年帝国劇場公演の興奮が冷めやらないミュージカル「エリザベート」の2020年全国ツアー公演の製作発表会見が11月12日、東京都内のホテルで開かれ、今年トート役を演じた井上芳雄と古川雄大に加えて、ツアーの最初の公演となる帝国劇場での東京公演では新たに山崎育三郎がトートとして出演(井上は2番目の大阪公演から出演)することが発表され、会見会場に招待された一般オーディエンス200人から大きな歓声が上がった。エリザベート役は、今年の公演からスタートした花總まり・愛希れいかコンビがWキャストで引き続き出演。人気、実力とも十分な5人による盤石な態勢でミュージカル「エリザベート」東宝版の20周年記念公演を迎えることとなった。山崎は「エリザベート」では2015、2016、2019年公演でルイジ・ルキーニ役として出演しているが、トートとして出演するのは初めて。
 なお、エリザベートの夫、フランツ・ヨーゼフ(オーストリア皇帝)は田代万里生と佐藤隆紀が、息子のルドルフ(オーストリア皇太子)は三浦涼介が、ルドヴィカ・マダム/ヴォルフの二役は未来優希が、フランツの母親、ゾフィー(皇太后)は剣幸と涼風真世と香寿たつきが、そして物語の語り手となるルイジ・ルキーニ(皇后暗殺者)は尾上松也と上山竜治と黒羽麻璃央が演じる。ただし、香寿たつきと尾上松也は東京・大阪公演のみの出演となる。
 ミュージカル「エリザベート」は、2020年4月9日~5月4日に東京・帝国劇場で、5月11日~6月2日に大阪市の梅田芸術劇場メインホールで、6月10~28日に名古屋市の御園座で、7月6日~8月3日に福岡市の博多座で上演される。

★ミュージカル「エリザベート」2020年全国ツアー公演の製作発表会見に集結した出演者ら。左から製作代表の池田篤郎東宝取締役演劇担当、出演の山崎育三郎、愛希れいか、演出の小池修一郎、出演の花總まり、井上芳雄、古川雄大(撮影・阪清和)

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★ミュージカル「エリザベート」2020年全国ツアー公演の製作発表会見に集結した出演者ら。左から出演の山崎育三郎、愛希れいか、演出の小池修一郎、出演の花總まり、井上芳雄、古川雄大(撮影・阪清和)

★ミュージカル「エリザベート」公式サイト

 ミュージカル「エリザベート」は、その後「モーツァルト!」や「レディ・ベス」などを生み出したウィーンミュージカルの旗手、ミヒャエル・クンツェとシルヴェスター・リーヴァイによる作品だ。ウィーン劇場協会の製作によって1992年に生み出された本作は、誰もが知るハプスブルク家の悲劇の皇后エリザベートの生涯を単になぞるだけではなく、政治と個人、嫁姑問題、世代間の路線対立、民族独立運動など普遍的なテーマをさまざまに内包させ、なおかつ、「死(トート)」との対峙という、ミュージカルには似つかわしくないテーマを中心に据えたことで、米英発信のミュージカルとは全く違う唯一無二のミュージカルとなった。
 それから4年後の1996年、日本初演は宝塚歌劇団雪組公演。男役優位の宝塚であるため、主人公は男性であるトート、エリザベートは娘役が演じることになった。トートは一路真輝、そしてエリザベートは今回の公演でエリザベートのWキャストの一人となる花總まりだ。他にもいくつかの改変があり、それが日本版スタンダードとなって、宝塚での上演が続いた。
 そして東宝が取り組んだのが2000年。ここではウィーン版と同様にエリザベートが主人公で、トートがエリザベートとの宿命を背負った影の主役である。初演は、山口祐一郎と内野聖陽のWキャストというその後の東宝ミュージカルを象徴するような布陣で、エリザベートは宝塚でトートを演じてきた一路真輝だった。
 他国に先んじて上演権を得たのが宝塚歌劇団で、初演では新たな曲が付け加えられる快挙も果たした。その後宝塚版、そして東宝版を通して常に改善や楽曲追加などが行われ、日本という国は「エリザベート」という作品を最も大切にし、たゆまない改善にも挑む稀有な国と言える。もちろんミヒャエル・クンツェとシルヴェスター・リーヴァイの全面的な協力があってのことだ。

 製作発表記者会見には、エリザベート役の花總まりと愛希れいかのほか、トートのトリプルキャストとなる井上芳雄、古川雄大、山崎育三郎の出演者5人と演出の小池修一郎、製作代表の池田篤郎東宝取締役演劇担当が出席した。
 池田取締役によって「エリザベート」の歴史と経緯が紹介された後、小池があいさつに立ち、「宝塚での日本初演の際は『これ、日本では絶対受けないよね』と言っていました。話題の公演ではあるけど、その後ずっと繰り返される作品になるとはその時思っていませんでした」と秘話を披露。結果としてその予想を裏切り、来年で日本初演から24年、東宝版20年となる超人気ミュージカルに成長したことを振り返って「長い時間愛され続ける作品だったんだとあらためて思います」と感慨深い表情で語った。
 クリエイターからもコメントが寄せられ、クンツェは「日本の演劇は舞台上で単に人生を再現するのではなく、ステージ上にある感情そのものを体感するように仕向けるんです」と日本の演劇がミュージカルに相応しい理由を説明。「日本で『エリザベート』をまた観ることを楽しみにしています」と話した。
 またリーヴァイは「長年ハイクオリティな公演を続けてくれました」と日本のカンパニーを称賛。「そして何よりも観客の皆さまのおかげ」と支持し続けてきた観客らに謝意を示した上で「それは終わりのないおとぎ話のようです」と日本での「エリザベートに対する熱狂ぶりに驚きを示した。

 花總は「20周年という節目の時にまたこうして演じられる機会をいただいたことに感謝の気持ちでいっぱいです」と話し、「『これが最後』というつもりで誠心誠意(エリザベート役を)務めてまいりたいと思います」と決意の表情を見せた。
 愛希は「今年6月から3カ月間演じさせていただいて本当に幸せだなあということを感じる一方で、まだまだだなあ、もっと追求したいなあと思う気持ちも残りました」と東宝版初挑戦を終えての複雑な感情を吐露。「20周年という時にエリザベートを演じさせていただけること、本当に光栄に思います」と来年の公演に全力投球することを誓った。

 井上は「大切な作品に今年も来年も関われて幸せです」と微笑み、「エリザベート」は「やればやるほど、先が見えなくなるすごい作品」と捉え、「皆さんにこの作品を見ていただけることをすごく嬉しく思います」と話した。
 2度目のトート役となる古川は「幸せだったと同時に悩んだ大変な時期でもありました」と初挑戦での苦労を語り、「前回以上にトートに近づけるように、そして自分の成長につながるような機会にしたいと思っています」と言葉に力を込めた。
 山崎はルキーニ役の経験によって「役者として新しい扉が開いた」と振り返り、トート役への初挑戦には「客席よりもだれよりも一番近くでトートを見てきた」とルキーニ役の経験が役に立つことを予想。「ルキーニを演じた自分だからこそできるトートがあると考えています。精一杯頑張ります」と、東宝版では初めてとなるルキーニからトートへの役替えに意気込んだ。
 山崎は「東宝版初の真ん中分けの(髪型の)トートになる」と口にしたが、小池は「と言うか、1970年代のロックのイメージ。そうなれば違う顔が出て来ます」と謎めいたやり取りで、会場は爆笑の渦に。

 観客もさまざまなことを感じるミュージカル「エリザベート」だが、出演者にとってはどんな魅力があるのかを私が質問したところ、花總は「音楽の素晴らしさは言うまでもないと思いますが、エリザベートと同じ時代を生きた人の人生が3時間の中でものすごく濃く描かれているところ。どの人物に注目して観ても、自分の人生に重ね合わせていろんなことを感じられる。そういう奥の深いところですね」と答えた。
 愛希は「女性は自分の意志を貫くことが難しかった時代が描かれていますが、女性の生き方に関して現代を生きる私たちにもメッセージがあります」ときっぱり。
 井上は「熱狂のミュージカル」と「エリザベート」を捉える。「この熱狂は自分の手柄じゃないと言い聞かせないと、勘違いして『俺に熱狂してる』って思いかねないんです」とその危うさを熱弁。宝塚版日本初演でトートを演じた一路真輝からも「この作品はほんとに特別だから、他の作品に行った時に同じだと思ったらだめよ」とアドバイスされたことを明かす。「その熱狂をいただきながらも、それに溺れないようにしないと」と気を引き締めていた。
 山崎は「歌いたい楽曲が多いんです」とその魅力を語り、「夜のボート」「最後のダンス」などの楽曲を挙げ、「役者が歌いたい楽曲が多い作品はヒットする」という関連性を指摘した。
 古川は「エリザぺートの強い生き方」をその魅力に挙げ、「僕は『僕はこうだ!』と主張するタイプの人間ではないので、彼女はあこがれ」と話す。「日本人の感覚ではもしかしたら共感できない部分があるかもしれないけど、人間として必要な要素だと思います」とうなづいた。エリザベートの強い生き方が「周りの人間を動かし、ハプスブルクという時代まで動かした。さらにそれが、死という超越したものまで動かしていくのが『エリザベート』の魅力なのかなと思います」と結んだ。

 「『エリザベート』という作品を漢字一文字で表す」という難しいお題を与えられた5人は、それぞれに「愛」(井上・古川)、「生」(花總)、「熱」(山崎)、「欲」(愛希)と答え、ものの見事に作品の多彩な魅力を象徴する文字をひねり出した。

 ミュージカル「エリザベート」の物語はオーストリア皇后エリザベート(花總まり・愛希れいか)が暗殺された1898年から100年後、つまり現代と思われる時代から始まる。
 暗殺犯だったイタリアの無政府主義者ルイジ・ルキーニは殺人の罪で投獄された監獄内で首をつって自殺したが、魂は救済されないまま。そればかりか、死の真相や暗殺に至る背後関係を究明しようと追及してくる声の主がおり、厳しい取り調べが続いていた。「エリザベートが死を望んだからだ」とうそぶくルキーニだが、なかなか信じてもらえず、墓からよみがえらせた死者を使って死までの経緯を弁明しようとする。
 そして始まったのがエリザベートの物語の本体である。

 ミュージカル「エリザベート」は、2020年4月9日~5月4日に東京・帝国劇場で、5月11日~6月2日に大阪市の梅田芸術劇場メインホールで、6月10~28日に名古屋市の御園座で、7月6日~8月3日に福岡市の博多座で上演される。

★チケット情報(東京公演・大阪公演)=最新の残席状況についてはご自身でお確かめください


 当ブログではミュージカル「エリザベート」2019年公演の劇評を2本掲載しています。あくまで2019年時点の「エリザベート」がどのようなものであったかを知る材料としてお楽しみください。

★阪清和のエンタメ批評&応援ブログ「SEVEN HEARTS」=ミュージカル「エリザベート2019(愛希れいか・古川雄大・田代万里生・京本大我・香寿たつき・山崎育三郎出演回)」

★阪清和のエンタメ批評&応援ブログ「SEVEN HEARTS」=ミュージカル「エリザベート2019(花總まり・井上芳雄・平方元基・三浦涼介・涼風真世・成河出演回)」


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