見出し画像

ほんのちょっとの世界。

僕は世界を少し愛している。

こんなことを言うと、お前は幸せ者だとかなにもわかっていないとか周りからは言われるが、自分の中でこの「少し」というところが大事なのである。
少し、ほんの少し、この世界を愛している。

あれは僕がまだ小学生だった頃。
たまたま体調が悪くて体育を途中で抜け出し保健室に行ったタイミングで、クラスメートの大事にしていた限定のペンが無くなった。
みんなは校庭で授業を受けていたが、僕にだけアリバイがなかった。
そんなわけで1番に疑われたのは僕だった。
その日からクラスメートからのいじめが始まった。
自分のペンがなくなったり上履きがゴミ箱から出てきたり。
しかし、なぜかクラスメートのAくんだけが庇ってくれた。
そのせいでAくんも少しいじめられてしまった。
しかし、2週間後、あるクラスメートの筆箱から限定のペンが見つかりこの事件は一件落着した。
僕はAくんにありがとうと言ったが、Aくんは僕とは目を合わせなかった。

そして僕が21歳の時。
就活がうまくいかず、それでも淡々と毎日を過ごしていた。
エントリーシートがどうもしっくりこず、それでもどうにか書き上げていた。
誰かに頼ることもできず、そもそも頼り方もわからなかった。
ひとりでできないことはしない。それが僕のモットーだった。
もともと誰かと助け合ってやるとか、誰かの力を借りることが苦手なのである。
今更この性格を変えるわけにもいかず、のうのうととりあえずここまできた。
そんな時にAくんと再会した。
Aくんは就職ではなく起業し、IT系のビジネスをやっているらしい。
僕には起業するなんて発想はなく、どこかに就職することにやっきになっていた。
そんな僕を見て彼は「大丈夫、君ならできるよ」と言った。
その言葉で小学生の時に彼に助けてもらったことを思い出した。
彼の言葉が僕の背中を押す。
なぜか自分が「できる」人間になったような感覚になり、そこからは今までよりも意欲的に就活に専念した。
そして、就職先が決まりAくんに報告をしようとしたが、そもそもAくんとはあの時偶然出会い、連絡先も交換していないことにここで気づいた。

僕は人に興味がない。
誰かを頼ろうと思うこともなかったし、誰かのために何かしようと思うこともなかった。
自分がリアルの中心で自分以外の人はなんだかわからないものだった。
それなのに自分がAくんの言葉で動かされていることに気づいた。
世界が少し広がった。
人との繋がりはこういうものなんだと。
Aくんはなんとも思っていないだろう。
忘れてしまっているだろう。
でも、そんなことはどうでもよくて、ここに僕を変えてくれた言葉が人から与えられたものだという事実だけあれは、僕は報われるのである。

その後、Aくんと会うことはなかった。
たまたま一緒のクラスで、たまたましんどい時に僕の前に現れた。
僕を救ってくれたAくんは地上に派遣された神様だったのかもしれない。
そう思うとあの時代やあの時々が素敵に思える。
嘘をついているわけではない。
ただ、そう思う方法もあるということだ。

僕は世界を少し愛している。
Aくんのおかけで少しだけ、ほんの少しだけ愛することができた。
ありがとう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?