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【ショートストーリー】27 星空を君はみたか
誰にもありそうな話だけれど、僕らの話も凡庸でありふれて、振り返れば赤面するような大学生の同棲生活だった。
君と出会ったのは共通のゼミだったね。
もう何を学んだかなんて全く覚えていないけれど、君がいつもギリギリに研究室にやって来る姿を思い出す。考えてみると、話す前から僕は君のことがすでに好きになっていたっけ。
今は花見なんて簡単には行けない世の中だけれど、当時はゼミ仲間で花見をしたね。
二十歳そこそこの君がビールを美味しいと言っていたとき、僕は正直今みたいに美味しさは分からなかったんだ。
帰り道が一緒で、酔っ払った僕は君とデートの約束をしたのを覚えている。
もし断られても断片的な記憶の海に置いていけばいいと思っていた。君はあっさりオッケーを出した。嬉しくて勢いで手を繋いだね。
あの時の手の感触、君を送った後に微かに残るハンドクリームの香り。
はじめてのデートは、ドライブと水族館。
保険がどうなんて気にせず、友達から借りたデミオの助手席に君が乗った時、自分が大人になった気がしたよ。きっと全くの勘違いだったけど。
付き合い出して3ヶ月。君の家でお酒を飲みながら笑っていたらニュースでイラク戦争がはじまったと伝えられた。
そんな世紀末のような映像をバックに、いつものように抱き合って眠ったのを覚えている。
へたくそなセックスは笑っておくれ。
恋人らしいことは全部した。
SNSなんてなかったから今と比べればずいぶん小さな液晶に写る君との思い出の写真を、いつも振り返っていた気がする。
間違いなく、僕は君のことが大好きだった。
「夜景をみたい」そういった君をつれて、車で出掛けた。その頃には友達から譲ってもらった燃費のわるいインプレッサがあったね。
独特の振動。
間違えた車内の芳香剤。
髪をきったばかりの君。
あの峠を目指したんだ。
夜景は綺麗だったね。
でも、僕は星空を見ていた。
眼鏡の角度を少しだけ変えると、星空は瞬きを変えた。何十年、何百年、何千年。ずっとずっと過去から来た光に思いをはせる。
僕は孤独を感じた。
胸がつまる悲しさを感じた。
友人や恋人や、家族がいても?
君は狼狽するだろう。
それは払拭されない思い。
違うんだ。
見た目の孤独さに無関係に見られれば見られるほど、その孤独は際立った。
温かな人間関係に触れれば触れるほど。
その数日後、君とお別れした。
「星空を君はみたかい」
‥‥‥‥僕はみえたよ。
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