#木の話
【ショートストーリー】32 樟と桜と春と
瓦版に人が群がっていた。
桜の品評会で齢八つの左衛門太郎の倅が推した十月桜が喝采をあびたそうだ。その息子が言うには「木と話せる」と言い張っては、社の軒先に植えた幼木を愛でているとのこと。
「はぁ、不思議なこともあるもんだいなぁ」
「うんだなぁ、でも目利きは確かだろうさ。ちいせえのに希なことよな」人々は口々に噂をした。
心地よい3月の風がビルを縫うように吹く。
千秋は、桜の蕾を眺めて、空の青さ
【ショートストーリー】14 名もない木
柔らかな風が渦をつくると、枝葉が踊った。優しい風だった。ゆりかごを揺らして、君は笑っていたっけ。僕はそんな君に風のリズムに合わせて子守唄を奏でた。母親はこの世で一番尊いものを抱きあげると僕の腕に優しく導き、君ははじめて自分とは違う世界の何者かに驚き気がつき、また母親の胸に顔をうずめた。僕は君を怖がらせないように、また子守唄の続きのリズムを考える。
君のファーストシューズは赤色だったね。みどり