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【雄手舟瑞物語#21-インド編】再出発、皆既日食が見られる場所へ(1999/8/7-8)

<前回のあらすじ>
一緒に逃げる約束をしていたトラ、チカブン、カトミ。翌朝7時、彼らは待ち合わせのデリー市内のマクドナルドに向かおうとホテルを出たところで、待ち伏せていたツーリスト・オフィスのインド人に捕まってしまう。同時刻、僕もホテルで出発の準備をしているところで、部屋をノックする音が鳴る。ラジャが彼らが逃げようとしたところを捕まえたと言いに行きたのだった。ツーリスト・オフィスに向かうと、オフィスの中で拘束されている彼らを見つけた。四人でどうしようかと話し合い始めると、間もなく救世主が現れる。奈良県で料理の修行をしていたインド人。当時の日本人に対する恩を返すため、ぼったくりにあっている日本人を助けていると言う。すんでのところで、僕らは彼に助けられ、ついにツーリスト・オフィスから解放されることになった。

<今回の話はここから>
救世主と僕たち四人はツーリスト・オフィスを後にした。そして、彼に感謝を伝えた。彼は「これからどうするの?」と聞いてきた。チカブンが「皆既日食を見に、ブージという町に行く。」と伝えた。

救世主は「ブージ!グジャラート州の?」と驚いて聞き返してきた。

そう。デリーからブジまでは1200kmを超える。東京ー福岡くらいである。インドとパキスタンの一番南の国境付近の町だ。ついて行くだけの僕は全然知らなかった。今のインドは知らないが、1999年当時は鉄道も走っている線路の脇に転がっている列車が放置されているような有様。道路も整備されておらず、単純に高速を走って1200kmとはワケが違う。車でも鉄道でも丸々2日はかかる距離になる。

トラ達はとりあえず鉄道で行こうと考えてたみたいだが、そこで救世主は「お前たち、またデリーでボッタクられたりしそうだな。」と笑いながら言う。確かに。このままずっとデリーから抜け出せないかもしれない。救世主は僕たちの顔を合わせる様子を見て、

「だったらさすがにブージまでは無理だけど、デリーを抜け出して途中までドライバーの友達に車で送らせようか?そこから鉄道で行けばいい。」と言ってくれた。僕たちは皆、(またこれもボッタクリじゃないのか)と思ったはずである。でも救世主は日本語が分かるから口には出せない。

救世主は僕たちが不安になっているのを察していたようで、「まずそのドライバーと話してみて、嫌だったら鉄道で行けばいい。」と提案した。僕たちはそれに従うことにして、一旦、救世主と一緒にそのドライバーに会いに行くことにした。

ドライバーの家に着くと、朴訥な感じのする30代くらいの男性が出てきた。

「ナマステ」と互いに挨拶すると彼の家の中に通された。

救世主が彼に事情を話すと、「そうですね。4日後にデリーで仕事が入っているので、○○までだったらいいですよ。一泊することになりますが、それは構わないですか?」と彼は答えた。

「いくらで行ってくれるの?」とカトミが聞くと、「2000ルピー(当時で約5000円)と私のホテル代を一緒に払って頂ければ大丈夫です。」と言ってくれた。

2000ルピー。鉄道4人分の半額くらいだっし、人柄も良かったので、僕たちは「ぜひ!」とお願いした。時間は朝9時頃。彼は「遠いので急いで出発しないとですね。」と言い、パパっと荷物を取りまとめ、車に向かった。

我々は何度も救世主に感謝をし、彼の車に乗り込んだ。救世主は笑顔で僕たちを見送ってくれた。


ここからブージまでの記憶は断片的にしか残っていない。ハッピーな時は光陰矢の如しなのだ。

ドライバーの名前も覚えていない。ただとても律儀で親しみやすく信頼できる人柄だったことはよく覚えている。彼は道中での食事時も僕たちが一緒に食べようと誘っても、「折角だから四人で楽しんでください。」と少し離れたところで一人食事をとり、僕たちがお礼に食事代を支払おうとしても全然受け取ってもらえず、最後の食事のときに何とか「分かりました。ありがとうございます。」と受けてくれた程だ。ホテルに着いたときも僕たちから少し離れ、一人で過ごしていた。「こんな優しい人もいるんだね」と僕たちは話していた。

結局、どこまで彼に送ってもらったかも覚えていない。デリーを出発した翌日にどこかの町で彼と僕たちは別れ、彼は仕事のためにデリーに戻り、僕たちは列車に乗った。僕たちが乗っていた2等列車は足の踏み場もないほど人で溢れていた。乗客たちが物珍しそうに笑いながら僕たちに視線を向ける。駅に止まると売り子が車内まで入ってきて、乗客をかき分けながらバナナやコーヒーを売っている。

コーヒーの売り子は薬缶に入ったコーヒーを赤色の素焼きの陶器に注いでくれる。客は飲み終わると陶器を叩き壊している。僕たちもコーヒーやバナナを買ってみた。バナナもおいしかったが、コーヒーは今まで飲んだことのない味で印象に残っている。コーヒーとチョコレートを混ぜて薄めたような味。それに焼き物の味?がする。不味そうに聞こえるが、これが美味しいのだ。ただこの味も最近では忘れて来てしまっているのが寂しい。

そんなこんなで、僕たちはどこかの町でブージの手前まで行く列車に乗り換えるために一旦下車した。次の電車まで3時間くらいあったので、町を散策したのを覚えている。田舎のとても小さそうな町だった。僕たちが歩くと20人くらいの人々が後についてきた。物売りとかでもなさそうで、ただただ着いてきた。マーケットに入って、サリーなどを見ていると、彼らはマーケットの前で僕たちの様子を眺めている。「有名人になったみたいだね」と僕らは話して、列車の時間までカフェ的なお店で過ごすことにした。その時も店の外で皆が僕たちの一挙手一投足を興味津々に眺めていた。(※ヘッダーの画像はその町の写真)

そして僕たちはその町を後にし、ブージを目指した。乗った列車はブージの手前の町までしか行かなかったので、そこからはリキシャーで向かった。1時間は掛からずとも、結構長い時間乗っていたと思う。ついにブージに着いたときには、もう大分遅い時間で辺りは暗くなっていた。


(つづく、次回は8/6火曜日)※2日に1回くらい更新してます。

(前後の話と第一話)

※この物語は僕の過去の記憶に基づくものの、都市伝説的な話を織り交ぜたフィクションです。

合わせて、僕のいまを綴る「偶然日記」もよかったら。「雄手舟瑞物語」と交互に掲載しています。


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