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寡黙なバディじゃ迷宮入りに限りなく近いぜ!

朝だろうと夜だろうと、事件は起きる。
今朝も雑居ビルの2階で女性の遺体が見つかった。

朝だろうと夜だろうと、とにかく眠い。
最初は「え。わたし、眠り姫にでもなったの……」と思っていた未華子は、のちにストレス性の過眠症であると気づく。
それもそうだ。
一番行きたくもなかった治安サイテーで、ガサツなおっさんの多い捜査一課に配属されたからだ。
今日もがっつりトイレで吐いてから家を出る。大体お腹がすっぱい。

未華子は極度の人見知りで、捜査や聞き込みは毛虫よりも嫌いで。いやいや、それどころかアレルギー反応が出るほどだった。
そうこうするうちに、捜査一課内でも浮いてしまい、無口な人間になっていた。

大学時代まではここまでコミュ障という自覚はなかった。小学校からのエスカレーター式の金持ち大学出身だったせいか、気の知れた人間としか交流してこなかった。

じゃあなぜ刑事になったかって。それはもう推しが活躍する漫画の影響だ。彼のようなスラッとしたクールな刑事と出会えると本気で思っていたのだ――。警察学校の時点で半分心は折れていたけれど、一課に行けば……。
そんな人はいなかった。いるのはタバコくさいギャンブラーの刑事ばかりだ。令和なのに。


30歳になったばかりの稲熊達郎もまた、捜査一課で浮いていた。

頭はキレるが、大の緊張しいで冷や汗は滝のようにかくし、手足は電動歯ブラシぐらい震えるし、思い付いた言葉もなかなか出てこない。
向いていなかった。
何度となく、そう思ったが、次々と事件が起きるから辞めることができなかった。

思えば、高校の剣道部時代も試合前に頭が真っ白になり、毎日3000回の素振りが無駄になった。


雑居ビルで見つかった遺体には、手紙が大量に折り重なっていた。
俗にいうダイイングメッセージ。
捜査一課のベテランたちはわざとらしく忙しそうにし、このヤマを避けていた。

未華子と達郎だけが残った。
似た者同士は意外と噛み合わない。15分の沈黙が過ぎた後、未華子が話しかけた。
「……私たちがやれってことですかね」
「そ、そう……だな」
「……」
「……」
「…………」
課長がやってきた。
「行け」

寡黙なバディが何も語らず、事件現場に乗り出した。
凸凹ならまだいい。凹凹の二人は絶対に噛み合わない。
「…………」
無言で車は走り出す――。



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