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【ショートショート】踊り出す大人のオモチャ・チャチャオ

今日もまた、ご主人様が仕事に向かっていった。
六畳ユニットバスのこの部屋には誰もいない。
自由だ。
そんなときは俺たちオモチャの遊ぶ時間だ――。

しっかし、ご主人様。
急いでいるからって、俺のことベトベトのまま出かけるのはよしてほしいよなぁ。汚くてしょうがないぜ。

そう、俺は「大人のオモチャ」。
名前はチャチャオ・ナ・ホウル。
ご主人様は俺のことを買ってくれた日から、ほぼ毎日俺と遊んでくれる。

毎日、毎日。
でも遊び方が違うから飽きない。
そのせいでだいぶボロくなってきている。
今日にいたっては遊び終わったまま、慌てて出て行った。
こんな体ではしゃぐのは他のオモチャたちがかわいそうだ。

ダッチワイフのダッチー1号には「チャチャオ君。なんか臭い、臭い」って言われて、嫌われちゃったし……。もうふざけんなって感じ。
俺、1号のこと好きだったんだぜ。
2号は自分のグラマラスなボディを自慢していて傲慢で、3号は小柄で童顔だからあまりタイプじゃない。
1号は悪く言えば普通。よく言えば飾り気のないところが好きだったのに。

あ。
そんなこんなでいつのまにか夜ではないか……。
でも、今日のご主人様はいつになっても帰ってこない。

すると、深夜になってご主人様は顔を真っ赤にして現れた。
フラフラになりながら、押し入れに俺たちを詰め込もうとする。
しかし、押し入れは会社の資料や冬服や段ボールでパンパンだ。
(ご主人様! どうしたの? 何をそんなに躍起に……)

でも、俺たちはただのオモチャ。ただの大人のオモチャ。
心の声は届かない。

ご主人様は今にも眠りに落ちそうな目がうつろな女性を部屋に招き入れる。
テーブルにコンビニ袋をぶちまけ、お酒やら何かの箱やらが置かれる。
でも、それに手を付けず、ご主人様は女性を押し倒して、2号と遊ぶときのようにギュッと抱きしめて激しくキスをし始めた。
ダッチーたちのようにはいかず、女性は体を揺さぶるようにしてベッドから立ち上がろうとしている。
それをまた押し戻すご主人様。
3号のような見た目だけど、女性はなかなか横にならない。
まぁオモチャと人間は違う。
それぐらいは知っている。

「やめて」と女性が叫ぶ。
俺たちはドキリとした。
ベッドから崩れ落ちた女性は押し入れにぶつかった――。

その圧力でゆっくりと開く押し入れのドア。
俺たちは押し入れから顔を出した。

「くそっ!」
ご主人様がらしくない声を出して、缶ビールをあおる。

女性は泣きながら帰っていった。

ご主人様はいじけている。きっとつらいことがあったんだろう。
俺はご主人様の役に立ちたい。
「俺……行ってくる」と皆に伝え、ウトウトとするご主人様の横に転がっていった。

ご主人様はいつも以上に激しく俺と遊んでくれた。
俺もうれしかった。



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