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フラれたことない子には分からない

あんなにカンカン照りだったのに、予報通り豪雨になった。
肩を出してネットニュースに出ることしか考えていない女子大生お天気お姉さん、ごめんなさい…………。
君を信じていればよかった。

荒川土手の花火大会は雨天中止のアナウンスが流れている。世間知らずな若者たちが川へダイブして騒ぎ始める。
アナウンスの声がかき消されるような雄叫びが河川敷を占拠する。
君らは花火を黙って観る気があったのか?

この世の終わりのような光景を見ながら、僕は彼女の折りたたみ傘に潜った。
「いやぁフラれちゃったね…………」
「ありがと」
両肩はほぼ濡れていたけれど、そんなことは一切口に出さず、駅へ向かう。白かったシャツはすっかり雨に染まっている。

本当は今日、彼女に告白するつもりだった。

お互い30歳。デートを重ねて3回目。ベタだけど今日しかなかった。
でも、こんな大雨に降られてしまったら雰囲気もへったくれもない。
彼女は「わたし、晴れ女なのにな」とかかわいくないと許されないどうでもない会話で、俺とのつまらない帰り道を繋いでくれている。

「いいね!」の数、2500超え。自分以外の男と会っていないはずがない。
だから、最低なシチュエーションでも今日という日は逃せない。

ずぶ濡れのまま、無理やり誘ったちょっとだけ高い居酒屋に立ち寄って、ビールと翠ジンソーダをあおった後、それとなくそんな会話をしてみた。

「私さ、フラれたことないんだよね。まぁ告ったこともほぼないけど」
いちいち鼻につくけど、かわいいから許す。

結局「今好きな人がいる」と言われてフラれた。これでもう何回目の失恋だろう。もう失恋ソングは聞き飽きたし、自分に当てはまる境遇の失恋を歌った曲はない。
バンドマンなんて所詮、俺の気持ちを代弁してくれない。

身近な恋を歌い終えたら、大体世界平和を歌い出すじゃん、あいつら。

彼女と別れて最寄り駅についたら雨は上がっていた。

キレイな虹が見えたから、デリヘルを呼ぶことにした。
雨でいつもの子は出勤してないって。

来週もアプリの子とデートだ。
きっとまた、フラれるんだろう。

やまない雨はないけれど、叶わない恋は永遠に叶わない。

デリヘルのホームページを見た。
出勤していないはずの子の名前がある。

あぁ。お天気お姉さんと付き合えないかなぁ。


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