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君だけに贈るホームランであれ

ひどく南風が強い日だった。きっとスタジアムはうねりを上げているだろう。そんな日でも俺の鋭い打球に影響はない。
今日、ホームランを打てば、ようやく日本タイ記録に迫る。
俺にしては時間がかかった。スランプ。プレッシャー。そんな言葉とは無縁だと思っていたのに。

急いで球場へ向かう途中、ドスンと音がした。
慌てて車を止めると、自転車がひしゃげて壊れて、バラバラになって転がっている。
その、ずっと、ずっと、ずっと向こうに影が見えた。人なんだろう、と思った。初めての経験だったけれど、核心に近いものがあった。
そこには真っ赤に染まった学ランを着た学生が中央分離帯の草むらにいた。
草むらが、赤色をどんどんと染みこんでいく。
幸いにも息をしているし、人のカラダの形を留めている。
俺は全身を震わせながら、学生に近づく。南風が頬に突き刺さる。
「……嘘だろ……」

僕は、その日もいじめられていた。
クラスメイトに殴られたり蹴られたりすることが「それ」に当たるなら、
いじめなのだろう。
僕は区民ホールの図書館に向かっていた。何をするわけでもない。
小6でゲーム機を持っていないことをバカにされてハブられてから、僕の居場所はそこなのだ。
ドスン。
中学生にしては重い体が宙を舞ったところまでは覚えていた。
南風が逆風になって突き刺さる。

目が覚めると、テレビで見たことのあるプロ野球選手が僕の存在するほうの手を握っていた。
「……なんで……」

僕と、俺の苦悩はこの日から始まった――。

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