なんでここにいる 0002
_あなた
あそこにいるのは、玉葱の皮を剥きながら涙するひと。
玉葱のひと皮ひと皮から物語を読み取るように。
あそこにいるのは、大きな皿を拭きながら涙するひと。
皿の一枚一枚から悲しみの雫を拭きとるように。
あそこにいるのは、葡萄の種をはきだして涙するひと。
ひと粒ひと粒から芽生える生命を憐れむように。
あそこにいるのは、電卓に数字を打ちつつ涙するひと。
数字の一喜一憂から明日に吹く風を知るように。
涙の雫はひとの数より圧倒的であることは知っているけれども涙の最後は心の最後と考えたことはないとあなたは呟く。言葉のない世界に在る図書館で明日来ることのないあなたは立ち止まることさえできない。涙の最後をあなたは知っていたのでしょう。嘘はあなたのなかを蝕んだしあなたはあなたが朝霞の先であなたの今日の先とつながっていると頑なに信じているけれども。
あそこにいるのは、泣きながら笑いながら涙が微塵もにじみ出ないあなた。
2019年1月7日 セサミスペース M (Twitter)
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