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気鬱が降ってくる12

机の前の壁に小学校に入学したばかりの父が、二歳の弟と一緒に写っている写真を貼っている。写真館で撮影したものだがすっかりセピア色だ。昭和十六年頃だと思われ、私はこの写真が好きだ。
お兄ちゃんと幼い弟、二歳の弟はよくわかっていないだろうが、お兄ちゃんは弟がそばにいて嬉しそうだ。だがその弟は、この写真を撮って一年もしないうちに結核で亡くなった。私の叔父である。

会ったこともない二歳の叔父の写真を見ながら、生きていたら何を話せただろうかと想像する。父やほかの叔父たちを混ぜ合わせ上手い具合にバランスしたなら、頼り甲斐のある人物が出来上がる。これは私の願望がかなり入っている。

そぼ降る雨音を聞きながら二歳で亡くなった叔父の写真を見ていると人の命は、蝋燭を吹き消すが如く儚いものよと溜息をつく。
今夜は雨と一緒に気鬱も降ってくる。
気鬱は、無理をして気にしないようにすると後で疲れるので、
適当にあしらう。

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