見出し画像

モノと紡ぐ時間 輪島塗のある暮らし・その1

「モノより思い出。」
20年ほど前、ふと耳にした日産セレナのテレビCMのキャッチコピーに、
わたしは心の深いところを動かされた。
それはどんな内容だったかというと、

CM曲の「LIKE A ROLLING STONE (ライク・ア・ローリングストーン)」を
バックに、高原を突っ切って車が走る。

父と遠出をした帰り道、遊び疲れた男児が身体をななめに傾けて眠っている(※なぜか子どもって、車の中で身体をよじらせたまま熟睡しませんか?)↓

寝ている我が子にそっと毛布をかけなおすような穏やかな声音で、男性ナレーターが、「モノより思い出。」と視聴者に語りかける。

家族のお出かけシーンを切りとったシンプルな構成には、かけがえのない
豊かな時間のエッセンスが凝縮されていた。
わたしはこのコピーと出逢って以来「これを体験したい!」と感じる経験にお金を費やす行為を、よりためらわずに実行できるようになったのです。
言葉の持つ力って偉大だ。

♦♦
ところで現在我が家には、輪島塗の器が集合しています。

昨年仕事で知った輪島塗。
縁あってライティングを任されたものの、スケジュールの関係で器に触れる時間はわずかしか取れませんでした。
残念に思っていたところ田谷漆器店さんが輪島塗のレンタルサービスをされていると聞き、申し込んでみたのです。

本物にたっぷりと触れる体験を自分にさせてあげたい。
今のわたしなら、お手入れの手間(といっても手洗いと柔らかい布で拭き上げるだけ)を億劫がらずに、じっくりと器と向き合えるから。
そういうわけで期間限定ではありますが、美しいモノとの暮らしが始まりました。

手元に届いたのは、汁椀に小皿など総数10点。
薄紙や布の袋に包まれて鎮座(ちんざ)する器たちを眺めていると、「モノより思い出。」の新ヴァージョンというか、新しい解釈が降りてきます。

「モノより思い出。」は、本当にそう。この考え方には全面的に賛成。
ただし、モノが記憶とつながり、思い出を重ねるツールになることもある。「モノとの思い出。」というキャッチコピーがあってもいい。

♦♦
コロナ禍を経た現在、世界中のひとびとが大量消費と使い捨て文化に倦んでいる。ストレス解消のためのショッピングや、ワンシーズンと割り切って買うモノとの刹那的な関係だけでは、もうわたしたちは満足できない。
本当の豊かさを、ひとは無意識に求めているのではないでしょうか。

モノとのお付き合いは、その気にさえなれば一生続けられる。
モノを丁寧に扱い、自分自身の傍らに置く行為は、本当の豊かさにつながるレッスンともいえるでしょう。
すべてのモノに命を見出して慈しむ、日本人のDNAを、輪島塗は呼び覚ましてくれる予感がします。

●本日の輪島塗
ランチョンマット(リバーシブル黒漆面を使用)
豆皿(たぶん溜塗)

#暮らし #輪島塗 #日常 #器 #伝統工芸

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?