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【短編小説】俺の大好きな人


俺の名前は夏生。
今日の目覚めは気持ちいいほどだ。
朝8時なのにリビングの窓から差し込む日差しは強い。
お天道さんはすでに仕事を始めている。
毎日みんなのためにせっせと働き、えらいと感心してしまうほどだ。
季節の中でこの感じを味わえる夏が1番好きだ。


朝起きたらまずやること、それは楓を起こすことだ。
寝室に向かい楓を見るとお腹を出して寝ている。なんて可愛いやつだ。
朝から大好きな人の可愛いさを独り占めできるなんて幸せものだ。

「楓、8時だぞ。起きろよ」
「んん〜。もうちょっと寝かせてよ」
「いつもそればっかり。仕事に間に合わないぞ」
「んんぅ、、、わかったよ」
「先にリビングいくからな」
「待って、今行くから〜」
楓は眠たい目をこすりながら後ろをついてきた。数歩歩いていると身体にひとの温もりを感じた。後ろから抱きしめられたのだ。

「ナツ、おはよ。いつもありがとう」
「当たり前だろ。俺は楓が大好きだからな」
「ちょっとナツ臭くない?ご飯食べたらお風呂一緒に入ろう」
「風呂は嫌いだっていってるだろ。それより早く飯にするぞ」
「じゃ今日は会社休んじゃおっかな。風邪気味だって会社に電話しなきゃ」
楓はスキップしながらリビングに向かっては電話をかけている。ずる休みはよくないぞ。あんなにピンピンしてるじゃないか。でもいいか、楓と一日一緒にいられるならこれ以上ない幸せだ。嫌いな風呂も我慢してやらんこともない。


「ナツ〜、ご飯できたよ〜」
待ちくたびれたぜ。いい匂いがすると思ったら大好物のジャーキーがあるじゃないか。楓も男の扱いが上手くなったもんだ。今日のところは掌の上で転がされてやるか。

「朝からうまい飯が食えて最高だな、楓」
「ご飯中にうるさい!静かに食べなさい」
「箸で刺すほうがマナー悪いじゃないか」
「なんか言った?」
あっかんべーと心で言いながらジャーキーにかぶりついた。
楓を怒らせたらそっとしておけ。
これは5年間一緒にいて得た教訓である。
何度痛い目を見てきたか。ただ俺もお子ちゃまじゃないからな、学習とやらをしたんだ。大好物のジャーキーはたまにしか出ないので味わって食べたため、楓と同時に食べ終わった。

「ごちそうさまでした」
「うまかった。楓も女子力上がったな。ただ他の男に同じように振る舞うなよ?」
「なに?ごちそうさまでしたは?」
「ごめんなさい。美味しかったです!」
「よくできました〜!じゃ片付けたらお風呂入るよ!」
楓が食器を片付けている間に、どこかに隠れなければ。俺は風呂なんて大っ嫌いだからな。

「ナツ〜?今度隠れたら夜ご飯抜きだからね。いい子にして待ってるんだよ、うふふ」

目が光ってやがる。それに不気味なあの笑い方はなんだ。
くそっ。あいつは鬼か?鬼なのか?
夜飯抜きだなんて育ち盛りの俺には拷問だろ。嫌いだけど、どうしても嫌いだけど、楓は会社休んでくれたからな。仕方ない、今日だけは大人しくしてやるか。
ソファーの上でじっとしているも、心の中はそわそわしていた。

「おーわりっ!せっかくだし先にお散歩行こうか!」
「この時間に散歩か、可愛いあの子に会えるではないか」
「ナツ、あの子にちょっかい出しちゃだめだからね」
「おいおい、向こうから寄ってくるんだ。仕方ないだろ。でも俺が好きなのは楓だけだからな」
「じゃいくよ!」


朝の散歩は気持ちがいい。
日差しが強いが何より生きていると実感する。こんな俺でもるんるんになってしまうほどだ。気付けば楓より先にぐいぐい行ってしまう。

「ナツ、速い。そんなにあの子に会いたいのか、このバカ!」
おっといけない、俺としたことが浮かれてしまった。
ジェントルマンとやらはいつもクールでいる。とテレビで言っていたな。
それにしても楓はなにを勘違いしているんだか。俺が好きなのは楓だけだっていつも言ってるじゃないか。

「今日はあの子いないね。残念でした〜!」
「楓もしかして嫉妬しているのか?」
「なによ、言いすぎたわよ。ごめんってば。それより今日は久しぶりにあそこに寄ろうよ!」
「それはいいな。じゃこっちだな!」


この街では有名な大きな木がある。
そこでゆっくりするのが俺たちはとても落ち着く。でも家から遠くなってしまうためいつもは立ち寄らない。

「やっと着いたね。休憩しようか!」
楓は腰を下ろして木に寄り掛かった。
俺も地面に座り、楓の太ももに首を預けた。
木の匂いもいいけど、楓の匂いのほうが断然好きだ。1番落ち着く。

「ナツ、もう5年も経つね。君をここで見つけてから」
「長いようで短かったな」
「あの日は雨がすごい降っていたね。君のか弱い叫びがたまたま聞こえたんだよ。震えながら段ボールに入っててさ」
「あの時は絶望を感じたよ、でも楓が見つけてくれた。家族にしてくれた」
「私もひとりぼっちだったからさ、ナツには感謝してるんだよ」
「俺もさ。ありがとう」
「これからもずっと一緒にいてね」
「当たり前だろ」
「ナツ?」
「なんだよ、早く好きって言ってくれてもいいんだぜ?」
「やっぱり臭い。早く帰ってお風呂入ろう」

俺は楓の太ももから離れて家の方向に走っていった。
「楓の馬鹿野郎が〜!」

「おっ、そんなにお風呂に入りたいのか。じゃ私も帰りは走っちゃおうかな。待て〜ナツ〜!」