SFラブストーリー【海色の未来】6章(後編・上)
過去にある
わたしの未来がはじまる──
穏やかに癒されるSFラブストーリー
☆テキストは動画シナリオの書き起こしです。
動画再生で、BGMつきでお読みいただくこともできます。
(Youtubeの方が内容先行しておりますので、再生を続けてnote数話分を先読みすることも可能です。)
流風くんと一緒に、海翔くんの部屋の前までやって来た。
ドアをノックしたけれど、中から返事はない。
「どうしようか……」
「海翔、入るよー」
「えっ、勝手に?」
「いいのいいの」
流風くんがためらいなくノブをまわす。
ドアが開くと、書きかけの楽譜が散らかる部屋で、キーボードに向かう海翔くんの背中が見えた。
ヘッドホンをしている海翔くんは、わたしたちが部屋に入っても気づかない。
──海翔くんが未来のハーヴ……。
──今思えば、ルミ子さんがここを有名な洋館って言ってたのは、ハーヴの家だったからだ。
──ファンの子たちの間では、きっとここが聖地になっていて……だから、門のところで写真を撮ってる子たちがいたりしたんだ。
そのとき、ふいに海翔くんが振り向いた。
「わっ、なんだ? いつの間に?」
「海翔がご飯の時間になっても下りてこないから、比呂ちゃんが持ってきてくれたんだよ」
流風くんが言うと、海翔くんはハッとして部屋の時計を見る。
「マジ? もうこんな時間か……。そういえば、腹減ったな」
「海翔くん……食事、どこに置こう?」
「あ、いいよ。自分で運ぶ」
海翔くんがやって来て、わたしからトレイを受け取る。
──ハーヴって顔出ししてなかったけど、こんな顔だったんだな……。
海翔くんのはっきりとした目鼻立ちに、つい見入ってしまう。
「なんだよ。人のことジロジロ見て」
「えっ! あ、ご、ごめん。そうだ、ご飯だ。ご飯、冷めないうちに食べて」
「ああ……」
訝しげな表情をしながら、海翔くんは部屋のローテーブルにトレイを運ぶとソファに腰を下ろす。
「んじゃ、いただきます」
さっそく食べはじめた海翔くんの向かい側に、流風くんがピョコンと座る。
「海翔、もう曲できた?」
「あのなあ。そんなすぐにできるわけねーだろ」
「早く聴きたいなあ。どんな感じの曲?」
「とりあえず……悪くはない」
海翔くんは自信たっぷりに、わたしのほうを見る。
「ま、期待しててよ」
それは明らかに、わたしに向けた言葉だった。
──期待と言われても……。
「え……っと……海翔くん、本気でわたしと歌を……?」
「俺はそのつもり」
「それって、絶対にムリだと思うんだけど」
「は? なんで?」
スプーンをくわえたまま、海翔くんがキョトンとしている。
「だって、考えてもみてよ。わたしは──」
「比呂ちゃんと海翔が? え? なにそれ?」
流風くんが興味津々の顔で聞いてくる。
──しまった……流風くんがいたんだ。
「な、なんでもないよ。えーっと、じゃあ、わたしたちはこれで……。流風くん、行こう!」
「え、もう? なんで? さっきの話、教えてよ」
しぶる流風くんを立たせて、あたふたと海翔くんの部屋を出る。
「ちょっと待って」
廊下を歩きだしたとたん、後ろから海翔くんに呼びとめられる。
振り向くと、海翔くんが部屋のドアのところに立っていた。
「あのさ……」
眉間にシワを寄せながら、海翔くんがわたしを見る。
「比呂のおかげで、忙しくなった。落ちこんでるヒマもねえってカンジ」
「えっ、そ、そんな文句を言われても……」
「……ありがとう」
海翔くんはつぶやくように言うと、さっと部屋に引っこんだ。
──今のって……?
あっという間の出来事にポカンとしてしまう。
「海翔、メッチャ照れてたよね」
「そ……そうなの?」
──また怖い顔だったけど、照れてただけなんだ。
──それにしても、あの海翔くんからこんなふうにお礼を言われるなんて……。
「比呂ちゃん、ニヤニヤしてる」
「ウソ! し、してないよっ!」
「してるしてる」
冷やかすように流風くんが言う。
「ね、海翔となにかあったの?」
「もう……。なーんにもありません。それより流風くん、リビングに行ってトランプでもしよ?」
わたしは流風くんの背中を軽く押すようにして、廊下を歩いた──。
その日の夜──
わたしはバスタブに身体を沈めて、窓から見える星空をぼんやり眺めていた。
──海翔くん……今も部屋で曲作りしてるのかな。
曲がいつできあがるのかはわからない。
だけど、海翔くんは本気だ。
彼はきっと曲を完成させる。
ふたりで歌っていくために……。
──海翔くんがやる気になってくれたのは嬉しい。
──でも、わたしと海翔くんが一緒に活動するなんて……絶対にありえない……。
音楽にはたくさんの人がかかわってくる。世間の注目も浴びる。
わたしと組むこと。それは必ず海翔くんのデビューの足かせになる。
そのくらい海翔くんだってわかるはずだ。
──わかっているけれど、19歳の海翔くんには、それが大した問題とは思えないのかもしれないな……。
海翔くんは、できあがった曲を聴いてから、組むかどうかを決めてほしいと言った。
でも、中途半端な期待は持たせたくない。
一緒に歌をやっていくつもりはないと、きっぱり伝えるほうがいい。
少しでも早く。曲が完成してしまう前に……。
──よし……明日、海翔くんに言おう……!
海翔くんの不満げな顔が目に浮かんだけれど、わたしは心を決めた。
そして、バスタブから立ちあがったとき──
「わっ……?」
なにかの拍子にバレッタが外れたらしく、留めていた髪がばらけてしまう。
あわててバスタブの中を探るけれど、バレッタは見あたらない。
浴室の床にも、どこにも……。
「ウソ……なくなっちゃった」
バレッタは麻美と行った旅行先で、一目惚れして買ったものだった。
──お気に入りだったのに……。
もう時間も遅い。
今日はあきらめて、明日また探すことにした。
そのときのわたしは
バレッタがなくなった意味なんて
なにもわかってはいなかった──。
(BGM・効果音有り)動画版はこちらになります。
https://youtu.be/F4tm_xcENWg
Next story
お読みくださり、ありがとうございます。
【海色の未来】マガジンもございます。目次代わりにお使いいただけると幸いです。
4章までのあらすじはこちら
https://note.com/seraho/n/ndc3cf8d7970c
note公開時、Twitterで裏話やネタばらしをときどきつぶやきます。
よろしければのぞいてみてください^ ^
——————————
お読みいただきありがとうございました。
他に短編動画もございます。
(予告編:2分弱)
https://youtu.be/9T8k-ItbdRA
(再生リスト)
https://www.youtube.com/playlist?list=PL45VII_SxtswQ242r8TtmdGq9r_EYd9Lg
チャンネル登録していただけますと嬉しいです♪
■ストーリー動画用Youtubeチャンネル
━━━━━━━━━━
お読みいただきありがとうございます。 あなたのハッピーにつながるnoteをお届けしたい。 そんな気持ちが伝わったら嬉しいです♪