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SFラブストーリー【海色の未来】8章(前編・下)


過去にある

わたしの未来がはじまる──

穏やかに癒されるSFラブストーリー


☆テキストは動画シナリオの書き起こしです。

動画再生で、BGMつきでお読みいただくこともできます。

Youtubeの方が内容先行しておりますので、再生を続けてnote数話分を先読みすることも可能です。)


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「あれっ、ふたりでお茶してんの?」

「お、おかえりなさい、海翔くん……」

「ただいま。お、ウマそうなもんがある」


海翔くんはテーブルのところにやって来て、お茶受けのクッキーをひとつ口に放りこむ。


「こら、手は洗ったのか?」


マサミチさんがあきれたように言う。


「なんだよ、小学生じゃねえんだから」

「だったら、小学生に言うようなことを言わせるんじゃない」

「めんどくせーし。俺がいない間に、じいさん、ぜんぶ食うつもりじゃないの?」

「そんなわけないだろ」

──ホント、小学生みたい……。


ふたりの会話がおかしくて、笑いそうになるのをやっとこらえる。


「俺がもどってくるまで、ひとつも食うなよな?」


なんだかんだ言いながらも、海翔くんは素直に洗面所へ向かおうとする。


「じゃあ、海翔くんの紅茶も淹れるね」


わたしは立ちあがり、海翔くんとサンルームを出た。




「比呂、ちょっと待って」


キッチンへ行こうとしたとき、海翔くんに呼びとめられる。


「あ、はい? なに?」

「このあとなんだけど……」

「うん、作曲するんでしょ? お夕飯の支度までしか手伝えないけどいい?」

「いや、そうじゃなくてさ……。今日、神社に屋台が出るんだ」

「知ってる、お祭りがあるんだよね。美雨ちゃんが友だちと行くんだって。流風くんも一緒だよ」

「……そう」


海翔くんはなんとなくそわそわしていて、天井を見あげたり、首の後ろに手をやったりと落ち着きがない。


──どうしたんだろう……。

「海翔くん。わたし紅茶淹れてくるから、海翔くんも手を洗いに──」

「俺たちも……行かない?」

「え」

「神社のお祭り……一緒に」

「お祭り……一緒に……」


ポカンとおうむ返しに言う。


──つまり……今、わたし、誘われてるってこと……!?

「たまには……そんなのもありかなって」


不機嫌そうな顔でポケットに手を突っこんでいる海翔くんの横顔を、わたしはまじまじと見つめてしまっていた……。




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陽の落ちかけた頃……

美雨ちゃん、流風くん、そして海翔くんと、近所の神社へやって来た。


──美雨ちゃんと流風くんが友だちと会うまでは4人で行動するけど……

そのあとは海翔くんとふたりきりだ……。

──なんか緊張するな……。でも、なんで……?

「比呂ちゃん、見て! おもしろそうなお店がいっぱい!」


美雨ちゃんが嬉しそうにわたしの服を引っぱる。


「えっ……あ、ホントだね!」


金魚すくい、ヨーヨー釣り、かき氷にわたあめ……。

子どもが大喜びしそうな夜店がずらりと並び、たくさんの提灯があかあかと輝いている。


──神社のお祭りなんて、久しぶりだな。


美雨ちゃんと一緒に、わたしまできょろきょろ辺りを見まわしていると……


「待ち合わせは御神木の前だっけ。時間は……うん、まだ大丈夫」


いつもと変わらない様子の流風くんが、腕時計に目を落とす。


──れ、冷静な……。流風くん、この雰囲気でも別にテンションあがんないんだ……。

「……あ、そうだ」


流風くんがハタと気がついたように言い、右手を海翔くんに差し出した。


「夜店でなんか買いたいから、おこづかいちょうだい」

「は? なんで俺が。じいさんからもらっただろ?」


海翔くんがジロッと流風くんをにらむ。


「足りなくなるかもしれないし」

「なにワガママ言ってんだ、このガキ──」

「流風だけずるいー! わたしもちょうだーい!」


美雨ちゃんがぶら下がるようにして、海翔くんの腕を引く。


「おいっ、誰もやるとは言ってないだろっ」

「海翔ってさ、今日は給料日だったんでしょ?」

「なっ!?」

「え! お兄ちゃん、そうなの!?」

「ま、まあ……でも、なんで流風が知ってんだよ?」

「毎月のことだもん。同じ家に暮らしてたら、そのくらいわかって当たり前だよ」

「こいつ、油断も隙もない……」

「お兄ちゃん、ちょーだーい!」

「海翔、たまにはいいじゃん」

「あー、もうお前らうるせー!」


いつものドタバタがはじまり、このままじゃおさまりそうにない。


──ま、せっかくのお祭りなんだし。ここは年長者のわたしが……。

「わかった、わかった。今日のところは、わたしからおこづかいを……」


だけど、財布をバッグから出そうとしたとき、海翔くんが怒ったような声で言う。


「比呂はいい」

「え、どうして?」

「俺、給料日だからな」

「お兄ちゃん、くれるの? やったーっ!」

「海翔、カッコいいじゃん」


流風くんと美雨ちゃんが満面の笑みを浮かべる。


「お前ら、ムダづかいするなよ。ぜんぶ使い切らなくていいんだからな。わかったな?」


うんうんとうなずきながら、流風くんと美雨ちゃんが海翔くんからおこづかいを受け取る。


「わーい、一千万円!」


美雨ちゃんがバンザイをする。


「ありがとう、海翔」


流風くんは早々とお金をしまい、


「じゃあ、ボクたち行くね」


と、わたしと海翔くんを交互に見る。


「流風? まだ待ち合わせの時間じゃないよ」


キョトンとして美雨ちゃんが言う。


「そうだよ。時間まで一緒に、お店まわろうよ?」


わたしが言っても、流風くんは首を横に振る。


「遠慮しとくよ。ふたりのお邪魔したくないし」

──お、お邪魔……?

「ちょ、流風くん、な、なに言ってんの!?」

「ったく、ワケわかんねえし!」


わたしと海翔くんは、ほとんど同時に流風くんに詰めよった。


「お邪魔って? ……ああ、そっか」


美雨ちゃんが天使にも小悪魔にも見える、意味深な笑みを浮かべる。


「じゃあ、ここで解散だねっ! お兄ちゃん、比呂ちゃん、バイバーイ!」

「ふたりでお祭り楽しんでね!」

「おい、お前らっ!?」


あっという間に、美雨ちゃんと流風くんは走り去ってしまった。


──う……。こんなに早くふたりきりになるとは思ってなかった……。

「こ……子どもって元気だね」

「そうだな……」

「夜店でなに買うんだろうね」

「さあ……」


大した意味もないやり取りのあと、なんとも気まずい沈黙が降りてくる。


──なにかしゃべらないと……。

──変だな。いつもなら、考えなくても普通にいろいろしゃべれるのに……。


額に手を当て、悩んでいると……


「とりあえず……行くか」


海翔くんがわたしを見る。


「う、うん……」


にぎやかな参道を歩きはじめた海翔くんに、おずおずとついて行った。




BGM・効果音有り)動画版はこちらです。
https://youtu.be/iP3GhCDrBUw


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お読みくださり、ありがとうございます。

【海色の未来】マガジンもございます。目次代わりにお使いいただけると幸いです。
https://note.com/seraho/m/ma30da3f97846


4章までのあらすじはこちら
https://note.com/seraho/n/ndc3cf8d7970c

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(予告編:2分弱)
https://youtu.be/9T8k-ItbdRA

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