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いかなる花の咲くやらん 第4章第1話      箱王 箱根大権現にお行きなさい 

元歴元年(1184年) 秋 曽我

一万は十三歳の十月半ば頃 元服して、曽我十郎祐成となった。本来であれば河津を名乗るはずであったことを思うと、母の胸中は複雑であったが、無事元服したことはめでたいことであった。
兄弟は人前で仇討ちの話はしなかった。その日も誰にも聞かれぬように二人きりで仇討ちの話しをしていたのだが、元服して気が立っていたのか、夜半まで話し込んでしまった。静かな屋敷の中で、二人の話声は 母の寝所まで漏れ聞こえてしまった。
「なんと、恐ろしいことを。私のせいだわ。幼い子供たちがずっと仇を討つために、武芸を磨いていたなんて。時代は平家から源氏の時代に変わったのだもの。今の世では仇討ちなど許されない。ましてや祐経は鎌倉の頼朝様の側近、うちの子供たちは、頼朝様の仇の孫。目立たぬように、お怒りに触れぬように、静かに生きていかなくてはならないものを。貧乏に身をやつしても、子供たちを助けてくれた曽我様にも、申し訳ない。亡くなった祐泰殿も、子供たちの幸せを願っていることでしょう。なんとか、仇討ちを辞めさせなくては」
万劫御前は大変衝撃を受け、子供たちを改心させるために どうしたら良いかと、悩み苦しんだ。
そして万劫は箱王を、かねてより信仰のあった箱根権現預け、法師になるために勉強をさせることにした。兄弟を呼び寄せて
「お前たちは仇討ちをしようとしているのですか。
河津の父上が亡くなった折、私は仇を討って欲しいとお前たちに言いました。
今では、後悔しています。時代は変わり、平家の後ろ盾を失くしました。仇討ちを仕終えることが出来ても、その後領地を取り返せるようなこともありません。憎き工藤祐経は、源氏の重鎮となっています。お前たちが仇討ちをしようとしていると知られたら仇を討つどころか、祐経に会うまでもなく、何らかの罪を着せられ殺されてしまうかもしれません。曽我のお父様に助けていただいた その命 ゆめゆめ無駄にしてはなりません。
河津の父上はもう、極楽浄土で安穏に暮らしておいででしょう。お前たちもこちらの世で平穏に暮らしておくれ。もしもまだ成仏できていないというのなら、仇を討つより、心からの供養が必要だと思いますよ。
そこで箱王、お前は箱根大権現様へお行きなさい。

次回 第4章第2話 箱王 箱根大権現に努める に続く

参考文献 小学館「曽我物語」新編日本古典文学全集53

箱根神社  著者撮影 

箱根神社は、古来、関東総鎮守箱根大権現と尊崇されてきた名社で、開運厄除・心願成就・交通安全・縁結びに御神徳の高い、運開きの神様として信仰されています。

聖地巡り 箱根編はこちら

第1はこちらから。


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