インタビューで目指すのは「カツカレー」!? VIEW OF INTERVIEWERS Vol.2 イベントレポート【sentenceLIVE#11】
こんにちは、sentenceコミュニティライターのかにです。
他者にインタビューする機会は貴重なもの。私の数えるほどの取材経験のなかで、とある出来事がありました。取材先にインタビューのお願いと「当日はこんな質問をする予定です」という想定質問を送ったところ、快諾の返事とともに「質問への回答」というタイトルの文書ファイルが送られてきたのです。
A4用紙三枚にわたる詳細な回答をありがたく読みながら、私は頭を抱えました。「この文書があれば、インタビューしなくても取材記事は書けるのではないか?」と、思ってしまったのです。悩んだ末にインタビューは予定通り行いましたが……その判断は本当に正しかったのでしょうか。相手の貴重な時間をもらってまでインタビューした意味は、果たしてあったのでしょうか……。
私がそんなモヤモヤを抱えていた4月某日、ライティングコミュニティsentenceで「VIEW OF INTERVIEWERS」 vol.2が開催されました。
「VIEW OF INTERVIEWERS」は三名のライター・編集者が同じ目的で同一人物に取材する様子を、オンラインで参加者に公開。三回のインタビュー終了後にインタビュアーたちが集い、お互いのインタビューを見た感想やインタビューに対する想いを語り合い、そこから学びを得よう、という流れで開催されるイベントです。
Vol.1では対面で行うインタビューを、参加者がオンラインで覗き見る形で開催しました。Vol.2となる今回は、インタビュアーが取材先をZoomインタビューする様子を、参加者も同じZoomで視聴者として観覧しました。
まとめのトークセッションもオンラインで開催。参加インタビュアーの友光だんごさん、小池真幸さん、土門蘭さんに、sentence運営メンバーの西山武志さんがモデレーターとして加わり、各々のインタビューを見ての感想やお互いへの質問を切り口に、2時間たっぷりと語り合うイベントになりました。
本noteは「VIEW OF INTERVIEWERS」 vol.2トークセッションの内容をまとめたイベントレポートです。興味があったけど参加できなかった、開催後に知って悔しかった、vol.3の開催が待ちきれない……そんなあなたに贈ります。
インタビューを通して、同一人物の異なる側面が引き出される
「VIEW OF INTERVIEWERS」vol.2ではインタビュアー三名が、ライターでsentence運営メンバーの中川明日香さんに「書くとともに生きる」をテーマに取材を行いました。インタビューの様子は、このnoteでチラ見できます。
トークセッションのはじめに、インタビュアー三名が「VIEW OF INTERVIEWERS」に参加しての感想を共有しました。
だんご インタビューはいつもやっていますが、誰かがインタビューしている様子を観察するのって面白いんだと発見しました。こんなに分析することや発見があるんですね。
小池 インタビュイーは同じでもインタビュアーによって重点を置く場所が全然違い、それによってインタビューで出てくる話も変わっていましたよね。インタビュアーは媒体なんだと、あらためて実感しました。
土門 インタビューは、初対面の相手に、その人の大事な話を根掘り葉掘り聞くという特殊なコミュニケーションですよね。そこには、各々が現場で身につけてきた身体知が反映されている。自分自身もまだ言語化できていない部分もあるので、今日この場でそれを振り返り、言葉にする機会にしたいです。
三名の感想を受けて、モデレーターの西山さんが「ただ質問の回答を求めるだけならメールでもいい。インタビュアー各々の身体性や積み上げてきたものが違うから、インタビューを通して出てくるものも異なってくる。だから面白いし、意味があるんですよね」とコメントします。
土門さんが「私のインタビューと小池さんのインタビューで、中川さんの至った結論が正反対だったのは面白かったですね」と言うと、オーディエンスとして参加していた中川さんが「私、正反対のこと言ってたんですね!?」と驚きの声をチャットで投稿。土門さんは、にこやかにほほ笑みながら補足します。
土門 中川さんは、素直に思っていることを仰っていたから矛盾してないんです。「誰かのために書くこと」と「自分のために書くこと」。中川さんにとっては、どちらも大事なことだった。ただ、話の流れでどちらに重心が傾くか……私と小池さんで光の当て方が異なったので、照らされた側面が違っただけなんです。
インタビュアーが異なれば、出てくるエピソードや表現が違ったものになる……いったいなぜ、そんなことが起きるのでしょうか。
旅人のインタビュー、鉱夫のインタビュー
(登壇者の土門蘭さん)
文芸作品も手がける土門さん、比喩を用いて、三者三様のインタビューの印象を語ります。
土門 だんごさんのインタビューは気体っぽい、暖かくじわじわと包まれるようで、インタビュイーの中川さんも心地よさそうなお顔をされていました。小池さんはロジカルでカチッとして、頭の中がきれいになっていくようで、中川さんのお顔も理知的な印象に見えました。私は……スコップかな? 短時間で一点集中、狙いを定めて掘りに行く感じです。
「土門さんはスコップ」というたとえを受けて、西山さんが『質的調査のための「インター・ビュー」』という書籍に、アカデミックな調査におけるインタビュアーのメタファーが2種類あって……と、紹介します。
西山 その本の中では、インタビュアーのタイプは「鉱夫」と「旅人」に分類されていました。鉱夫は、明確に目的を定めて、そこをめがけて「掘る」イメージ。旅人は、話し相手と一緒にぶらりと旅に出て、その道中で何かを得て帰ってくるようなイメージです。スコップのお話を聞くと、土門さんは鉱夫のイメージがぴったり。だんごさんのインタビュースタイルは、まさに旅人でしたね。
その話を受けて、小池さんが新たな視点を提示します。
小池 普段している仕事の違いもあると思います。だんごさんは現地に行くまで誰に取材するかもわからない、取材先の地域で地元の人と仲良くなって気がついたらインタビューが始まっている……そんな仕事もあると聞きました。他方で僕は、起業家や研究者、クリエイターの方を相手に、きっちり時間を決めて取材する仕事がメインです。インタビューを見ていると、その違いが伝わってきました。
小池さんから投げかけられた「その人が手掛けている仕事が、インタビュースタイルに反映されている」という視点。この話を聞いた土門さんやだんごさんが、さらに解釈を深めていきます。
土門 だんごさんと小池さんは編集業もされている。その影響もあるかもしれませんね。
だんご そうですね。ライターさんが取材してる横で、編集者として「どれくらい話を聞けてるか、記事にするために何か足りない話はないか」と考えつつ聞くことを多くやっているので、その影響はあると思います。
「小池さんもだんごさんも、背後にインタビュアーと編集者という二人の人格がいるのが、見ていてわかりました」とうなずく西山さんの発言を受けて、だんごさんがまた新たな視点を出します。
だんご リアル取材だと相手しか目に見えないけど、Zoomだと相手の顔も自分の顔も見ながら話せる。自分がインタビューの当事者でありつつ、それを横から見てる編集者観客でもある……という状態を維持しやすいのは、オンラインならではの特長ですね。
オンライン取材ならではのメリットがある。それなら、オンライン取材はリアル取材よりも優れているのでしょうか。
どうやら、そうとも言えないようです。
オンラインでいかにして「発酵」を起こすか
(登壇者の友光だんごさん)
西山さんが「ほかにオンライン取材ならではのメリット、デメリットなどって、何か感じられていますか?」と問いを投げかると、インタビュアー三名はオンライン取材について感じていることを各々語りました。
だんご Macbook の上に外付けディスプレイを設置しているので、視線を上げるだけで取材メモなどを見ることができる。リアル取材では僕は資料を手元に置かないことが多いですが、オンラインだと自然に資料を見ながら話ができるのは利点ですね。
ほかにもオンライン取材のメリットはいくつか挙がりましたが、土門さんが「やっぱり、オフラインとオンラインの取材は別ものですよね」と語ると、登壇者はみな深くうなずきました。
土門 オンラインだと発言がかぶったときに、画面をはさんでお互い見合わせる感じになるので、すごくやりにくくて。取材開始前に上着を脱いだり名刺を渡したり「そこに座ってください」と促したりするようなコミュニケーションが省略されてしまう点にも、打ち解けにくさを感じています。あの時間は、お互いの人柄を感じ合える機会だったりするから。
私はオンライン取材だと表情や身体の動きがオフラインより大きくなりますが、リアルで会えば容易に伝わるはずの情報の不足を補うために、そうしているのかもしれません。
小池 現時点の感触では、オンラインはオフラインの完全な代わりにはなりませんよね。オンライン取材のときはやっぱりこぼれ落ちてしまう情報が多くて、それを意識的に埋めにいく必要がある気がする。そのため、色々試行錯誤しています。
例えばアイスブレイク。オンライン取材だと最初の雑談みたいものがしにくくて、現場で本題以外の話題が広がりにくかったりする。なので事前にネットで検索しまくって、本題と関係ないその人についての情報をいっぱい収集して、さまざまな話題をこちらから意図的に触れるようにしています。
「僕だけかもしれませんが」と前置きしつつ、小池さんは言葉を続けます。
小池 オンラインの方が無駄な時間は少ないはずなのに、たくさんの情報量を得られている気がしません。感触的なものですが、どこかあっさり終わる感じがあります。
この指摘に、他の三名も同意します。そして土門さんが「ある取材で、経営者二名の対談をファシリテートしたんですが……」と、話を切り出しました。
土門 そのときに伺った「料理と発酵」という例えが、今でも心に残っています。その経営者曰く、料理は手順。カレーライスを作るときには「じゃがいもと人参を準備して……」といった手順があり、手順の質や工夫がカレーの味を決める。ビジネスでも料理のように、手順が大切な面はあります。「でも自分がやりたいことは発酵なんだ」と、その経営者が仰っていたんです。
発酵とは、微生物の働きによって食材が変化し、より美味しい状態になること。たとえばぬか漬け。ぬか床を用意して、適切に手入れして良い状態にぬか床を保ち、そこに素材を入れることで、発酵が起こります。
土門 「それで何ができるかは分からないけど、発酵させてみると面白いものができる……そんなことを、新規ビジネスでやりたい」と仰っていて、その流れで「オンラインの会議では料理はできるけど発酵はできない」という話になりました。
「こういう話がしたい」という情報の伝達はできるけど、情報をぬか床に入れて発酵させることができない。それがなぜなのか。五感のうちふたつ(目と耳)しか使えないからなのか、相手と同じ場所にいられないからなのか……わからないけど、とにかくオンラインの発酵はむずかしい。私はその話を聞いて、本当にその通りだなと感じました。
登壇者は揃って「なるほど」「あぁ……」とうなずきます。モデレーターの西山さんも「たしかに、むずかしい」とうなります。そして「忘れもしません」と、土門さんのインタビューで受けた衝撃について切り出しました。
西山 インタビュー前半、始まって10分程度の段階で「中川さんは愛の人なんですね」と、思い切った仮説を投げかけましたよね。あれはもしかして、オンラインのインタビューを発酵に近づけよう、という意図ですか? あの問いを投げることによって、その後に語る言葉が「愛の人」というフィルターを通って出てくるようになる……そんな狙いの問いかけでしたよね?
「その通りです」とうなずく土門さん、その思いについて語ります。
土門 私は、インタビューは発酵の場であるべきだと思っています。オンラインのインタビューでは「60分でいかに発酵させるか」をやらなくちゃいけない。じゃあどうするかを考えて、早い段階で「私の仮説」という軸を相手に投げかけました。
「なんかこのひと『愛の人』とか言ってるけど?」とひっかかかる。そういう異物がある状態だと、それを意識しながらの応答になるから、普段と出てくる言葉も少し違ってくる。「今日はこの話をする」という軸を早い段階で共有した方が、私らしい、私だからこそできるインタビューになるんじゃないかと思ったんです。
「軸を投げかけるのは他のお二人もやっていますが、始まって10分程度の早い段階で大きな仮説を投げかけるのは、見ててドキドキしました!」と興奮気味に語る西山さんとは対照的に、土門さんは冷静に自分のインタビューを振り返ります。
土門 「中川さんが書くモチベーションって、“愛”じゃないですか?」というような仮説の投げかけに対して「なに分かったふうなことを言ってるの?」と嫌な気持ちになるインタビュイーもいるでしょう。そうすると場の空気が冷めちゃうから、仮説の差し出し方には気をつけないといけない。それに、インタビューの序盤で思い切った仮説を投げ込むことは、場を硬直させる危なさもあるから、いつでも最適解になるとは限らないやり方だと、自分でも思ってます。
西山さんは「軸の投げかた」を切り口に、小池さん・だんごさんのインタビューについても振り返りを続けます。
西山 小池さんのインタビューは個々の事例をもとに、細かく細かく軸になりそうなキーワードを投げていき、最終的にそれが繋がって深い仮説ができる感じがしました。
その言葉を受けて、小池さんは「僕の中では最初からテーマはあったんです。冒頭で言うか迷って、迷った結果、今回は言わないことにしました。でも土門さんのお話を伺っていると、ぶつけちゃうのもアリだったかも」とコメントしました。
続けて西山さんは「だんごさんは最後まで軸を決めないというか、決まっていてもなかなか見せない(笑)。相手に自由に泳いでもらってるような感じ」と表現。話題をふられて、だんごさんも振り返ります。
だんご 土門さんのように、ズバッとテーマを投げ込んでその軸で進んでいきたい思いもあります。今回も個人的に興味のある話までいけたらいいなという思いはあり、序盤にそれについてもちょっと触れました。でも今回のインタビューで第一の目的は、中川さんにとっての「書く」は何かを掘り下げることだった。なのでそちらを優先して、個人的興味の追求は途中で捨てました。
クライアントから求められるものと、ライター個人が興味あるもの、限られた時間でどちらを優先するか。一石二鳥を狙えればベストですが、時間の制限もあり、いつもできるとは限りません。両立を狙う工夫はもちろん、両立を目指すか否かの判断も、インタビュアーの腕の見せ所なのでしょう。
ところでインタビュアー各々が持っていた「インタビューの軸」や「私の仮説」は、どうやって生まれたのでしょうか? 登壇者たちのディスカッションはさらに深まっていきます。
インタビュー前に、対話を一回終わらせておく
(登壇者の小池真幸さん)
仮説の立て方について、小池さんが土門さんに問いかけます。
小池 ご自身が普段考えている興味関心の領域と、取材で伺いたい軸や「仮説」は、どの程度リンクしていますか。たとえば今回のインタビューで話題になった「愛」や「ウェルビーイング」は、土門さんご自身が普段から考えていたテーマだったのでしょうか。
「めちゃくちゃ面白いですね」と、土門さんは笑顔で語り始めます。
土門 まず情報収集をします……が、情報の中に答えはないんです。では何をするかというと、自分に訊くんです。「なぜ私は中川さんのことに興味を持ってるんだろう?」と自分に訊き、「私はここに共感する」「ここに違和感を感じる、ここがわからない」と言語化する。「私の場合は穴があって穴を埋めるように書くけれど、中川さんの場合は逆に穴から何か出しながら書いている気がするな」みたいに自分事化する。そうしてから、インタビューに挑むんです。
情報収集を通して取材対象を読み込み自分事化する……この独特な仮説の立て方は、キャッチコピーの作り方に関する本にヒントを得て始めたそうです。
土門 どなたかは忘れてしまったのですが、とあるコピーライターさんの著書に「キャッチコピーを書くときに誰にヒアリングするか」ということが書かれていたんです。「クライアントにヒアリングしても答えはない。じゃあどうするかというと、自分にヒアリングする。日本酒のキャッチコピーを書くなら、その日本酒について自分はどう思ってるか、いつ飲みたいか、飲んだ時どんな気持ちになるか、自分にヒアリングしまくる。そこからキャッチコピーが生まれる」と書かれていました。それを読んだのをきっかけに、インタビュー前の情報収集段階で取材対象と自分の対話を一回終わらせておき、自分の中で「仮説」を用意し、インタビューでリアルな対話をする……というやり方をするようになりました。
「そうすると、短時間でもぐっと踏み込めるんじゃないか」という土門さんの言葉を受けて、西山さんは「単純に情報を聞き出そうとしても、新しいものって出てこない。情報は情報でしかない。そこに自分を投影して、解釈や仮説……つまりは新たな文脈を付与したりすることで、すでにある情報以上の話が溢れてくるんですよね」と同意します。
小池さんが引き続き、「調べてみた結果、強くは興味を持てそうにない人にインタビューする際は、どうしますか」と登壇者に尋ねると、土門さんは「なんで興味ないの?」って自分に聞くかな、と屈託なく答えます。
土門 興味のない自分って、そのまま想定読者になるんです。「なんで興味がないの?」「だって関係ないし」「なんで関係ないと思うの?」……と掘り下げていきます。興味のないところから興味を持てるようになって、同じようなプロセスを読者が歩めるように書けたら、いい記事になっていくはずなので。
だんごさんが、ご自身と土門さんのスタイルを比較します。
だんご 僕は相手を全く知らない状態から始めるインタビューが多いので、ちょっとずつ面白そうなところを探していきます。土門さんは最初からアタリをつけて「ここ!」と決めて掘りますが、僕は面白そうな鉱脈をちょっとずついろいろ掘って、「ここだ!」と思ったら掘り下げていく。違ったらまた別のところを掘る。それを重ねて、最終的に「何か」にたどり着く、といった感じですね。
西山さんが「だんごさんは、事前に『対話を終わらせておく』ことができない取材を多く経験しているから、旅人のようなインタビュースタイルになったわけですね」と言うと、だんごさんは「そういうやり方がクセになってしまっているのかも」と笑いました。
だんご 僕はお二人に比べたら事前準備の量は少ないと思いますが、アタリをつけてなかったところからダイヤモンドが出てくるとすごく嬉しいんですよ。そういう意外性から湧き上がってくるような喜びを、求めすぎちゃっている面もあるかも(笑)。お話を聞いて、土門さんのやり方も面白いだろうなと思いました。
だんごさんの旅人的な進め方も、土門さんの鉱夫的な進め方も、小池さんの分析的な進め方も、各自が手がけてきた仕事を土台に確立された、その人らしいインタビューのスタイルなのだな……登壇者のお話を聞きながら、強くそう感じました。
インタビューにはさまざまなスタイルがあり、手法がある。その理解を、今後のインタビューにどうやって生かしていくことができるだろうか? 話題は、自然と未来志向に発展していきました。
西山 僕は仮説を出すときもあるし、最後まで出さない時もあります。相手に合わせて選んでいる。土門さんが「場を硬直させる危なさがある」と仰っていましたが、僕がインタビューで最も危惧しているのはまさにそこで。相手がこちらの仮説に引っ張られすぎて、本当はそうじゃないのに「そうです、そうかもしれません」と言ってしまう可能性は、往々にしてあります。
「インタビューには、インタビュアーが意識的かどうかにかかわらず、相手の発言を誘導してしまう怖さがある」と、幅広い取材を経験しているライターならではの思慮深い発言が出ます。
西山 僕は、こちらの投げかける仮説について、違うときにははっきりと「違う」と言ってくれそうな相手には、積極的に仮説を投げにいきます。逆にこちらの思いを汲んで、求めているものを返そうとしてくれる相手には、あえて強く仮説を提示したりしない……というような使い分けをしています。
土門 私が以前「経営者の孤独」という企画でインタビューしたみなさんは、経営者なので言語化が上手でインタビューにも慣れていらっしゃいました。だからこちらも、彼らの思考の深さに負けないような仮説を用意しておかないといけない……という背景があった。他方で、インタビューや言語化に慣れてない方も大勢いらっしゃる。そのような方に強い仮説を投げ込むと、その場を染めてしまうという可能性はありますね。
「そういうことを避けるために、いつもやっていることがあります」と前置きして、土門さんはインタビュー開始時に使える工夫を教えてくれました。
土門 それは「最初に相手に自己紹介をしてもらう」こと。自己紹介をしていただくと、自身を表現する言葉のなかに、本人にとってのキーワードが出てきます。そのキーワードを捉えることで、ご自身がどこに軸を置いていらっしゃるのかが分かるし、その言葉を出発点とすれば、自分の仮説で場を染めちゃうのを避けられます。 インタビューを受ける機会が多い経営者でも、話すタイミングが異なれば、前回のインタビューとは状況や手がけていることが変わっているかもしれません。既出の情報を読んで「この人はこういうひと」と決め付けず、お互いに「その時、その場だからこそ出てくる言葉」を通して対話を作り上げていく、そのための工夫ですね。
さまざまな工夫を重ねて、インタビューという「対話」をどう実り多くするか。イベントはさらに盛り上がっていきます。
インタビューを通して「カツカレー」を目指す
イベント終盤に差しかかって、小池さんが仮説の立て方についての話をさらに広げていきます。
小池 今回は「書くと共に生きる」というお題が先にありました。それをブレークダウンして、たとえば僕は「ドラマチックに書くにはどうするか?」という問いを立てました。いっぽう土門さんのように「書くと共に生きる」とは何か……と、お題に対する仮説を直球で立てる方法もあります。このように仮説といってもさまざまなレイヤーがあるなか、どのくらいのレイヤーにどれくらいの粒度の仮説を立てるのがいいのか。それは場合によって変わってくるのではないかと思います。
土門 たしかに。細かくひとつずつ階段を作っていく小池さんのような方法もありますが、私の仮説の立て方は大きい。大きなものをガーンと作って「飛ぶ? 降りる?」みたいな仮説の立て方ですね(笑)
仮説の立て方について場が盛り上がるなか、土門さんがふと「カレー」を話題に出しました。
土門 私がインタビューでやりたいことは、対話なんです。私にとっての「対話」とは何かというと、イメージとしてはヘーゲルの「弁証法」なんですね。まず「主張=テーゼ」があり、次に「テーゼに対立する主張=アンチテーゼ」がある。そこで相容れなくて終わりではなく、対話を通して、「テーゼとアンチテーゼを統一した新しい答え=ジンテーゼ」に辿り着く。私はそういうものが対話なのではないかと思っていて、インタビューを通してそれをやりたいんです。わかりやすい例で言うとジンテーゼとは……そう、たとえばそれは「カツカレー」なんですよ。
ヘーゲルの弁証法から始まった話題は、気がつくとカツカレーに至ってました。
土門 「カレーが食べたい」というテーゼに対して、「いや、私はカツが食べたい」というアンチテーゼがあったとする。そこで「じゃあランチは別々にしよう」と解散したら、対話は終わり。「でも一緒に食べたいね。それなら……カツカレーにしたらよくない?」というのがジンテーゼ。対話によって「AでもBでもないC」、カツカレーという新しい答えを出す……私はそのために仮説を投げ込むんです。
(登壇者3人とモデレーター西山武志さん【右下】が談笑する様子)
土門さんは笑顔を見せながら、真剣に言葉を紡ぎます。
土門 中川さんという存在に対して「あなたは愛の人じゃない?」という仮説を投げ込む。それに対して、できれば「そうなんです」「違います」で終わりじゃなく、「新しい答え=ジンテーゼ」が生まれてほしい。そうすれば、どこにも書かれてないインタビュー記事が生まれるはずなんですよね。
熱っぽく語る土門さんの言葉を受けて、西山さんが返します。
西山 それはインタビューで一番目指すべきこと……というか、それをやらないとインタビューの意味はないのかもしれませんね。私とあなたが話すことによって、新しい「何か」が出てくる。その「何か」があるからこそ、インタビューにはいつだって価値がある、と言えるんだと思います。
小池さんも真剣にうなずきつつ、話を編集の領域に広げていきます。
小池 最終的な文章はライターが書くのだとしても、ライターだけで書いたらカレーになってたのが、編集者が居たおかげでカツカレーができました……そういうところにも編集者の存在意義があるような気がしています。
「カツカレー」という秀逸な比喩を足掛かりに、話題は深まります。
だんご カツカレーを作るにしても、カツとカレーだけなのか、福神漬けも添えるのか。編集者がその場にいることで、より良いカツカレーを考えることができる。編集者が取材に同行する意義はそこにあるんでしょうね。
西山 そうそう、「ここはカレーラーメンじゃないんだよな」というときに「魅力的だけど、今回はカレーラーメンじゃない。カツカレーでいこう!」とバランスを取ってくれる存在が編集者だったりする……って、この例え話、見てる皆さんに伝わってますかね?(笑)
「これはデパートで出すものだからカレーラーメンよりカツカレーがいい」「ラーメンって言ってるけど、もうご飯炊いちゃったんだけど?」……といったさまざまな状況や全体のバランスをふまえて、より良いカツカレーをどう作るか? 編集者の存在意義についても、話は大いに弾みました。
ですが編集者の存在意義が光るためには、インタビューそのものが「カツカレー」、すなわちジンテーゼに至ることが欠かせません。
インタビューという対話を通してジンテーゼに至るために、どんなテーゼ=仮説を持ち込み、どうやって対話を深めるか。登壇者の皆さんは、三者三様のやりかたで「カツカレー」を目指しているのですね。
経験豊富な登壇者のインタビューのやりかたを覗き見て、学ぶことができる貴重な場「VIEW OF INTERVIEWERS vol.2」トークセッションも、終わりの時間が近づいてきました。
Q&Aセッションをはさんで、イベントの締めくくりに、sentence会員の関美穂子さんによるグラフィックレコーディングがお披露目されました。
素晴らしいグラレコを見て、登壇者は大喜び。グラレコにも唯一の正解はありません。だからこそ、他の誰でもない関さんが描く意味があるし、描いてもらった喜びもひとしおなのでしょう。
自分ならではの「カツカレー」をつくろう
「インタビューをせず、文章で貰った回答だけでも取材記事は書けてしまうのではないか?」というモヤモヤを抱えていた私は、このイベント「VIEW OF INTERVIEWERS vol.2」に参加して、納得しました。
あのとき回答文書だけで満足せず、改めてインタビューする時間を設けてよかった。インタビュイーと話す時間を通して、文書だけでは至れなかった対話の成果=自分ならではの「カツカレー」をつくることが出来たと思うから。
「VIEW OF INTERVIEWERS vol.2」は、インタビューの面白さと、奥深さを感じるイベントでした。同じ人物を取材しても、インタビュアーという「媒体」が異なれば、引き出す側面は異なる。つまり「(インタビュイーの数)x(インタビュアーの数)」だけの「カツカレー」が生まれ得るのです(……生まれるのは「カツカレー」だけとは限りませんね笑)。
本noteのためにイベントメモをまとめつつ「次にインタビューをする前に、このイベントの録画を見返したい」と、私は思いました。sentenceの会員になると、こちらのイベントだけでなく、過去のイベントの録画もすべて、いつでも自由に閲覧することができます。
「sentenceってどんなコミュニティなの?」と気になった方は、ぜひこちらをご覧ください。
↓ 入会はこちらから ↓
そしてなんと今回の続編となる「VIEW OF INTERVIEWERS vol.3」が9月29日(水)からスタートすることが決定しました。テーマは「採用広報」です!
絶賛参加受付中ですので、気になる方はぜひこちらをご覧ください。※期間限定で早割もございます!
出演者の紹介
友光だんご(インタビュアー)
1989年、岡山生まれ。株式会社Huuuu取締役/編集部長。大学進学とともに上京し、出版社へ入社。女性ライフスタイル誌・車中泊専門誌の編集に携わったのち、2017年2月に退社。その後、株式会社Huuuuへ所属し、編集者・ライターとして「ジモコロ」などを中心に活動中。「CAIXA」編集長。インタビューと犬とビールが好き。
Twitter:https://twitter.com/inutekina
小池 真幸(インタビュアー)
企画・執筆・編集やメディア運営、発信支援などを生業としています。主な領域はビジネス・テクノロジーや人文・社会科学など。「CAIXA」副編集長。主な活動媒体は「PLANETS」「WIRED.jp」「FastGrow」「CULTIBASE」など。そのほかベンチャーキャピタルやスタートアップの発信支援も。
Twitter:https://twitter.com/masakik512
土門 蘭(インタビュアー)
1985年広島生まれ、京都在住。小説・短歌などの文芸作品や、インタビュー記事の執筆を行う。著書に歌画集『100年後あなたもわたしもいない日に』、インタビュー集『経営者の孤独。』、小説『戦争と五人の女』がある。
Twitter:https://twitter.com/yorusube
西山 武志(モデレーター)
story/writer。"書くと共に生きる"をテーマにしたコミュニティ「sentence」の運営メンバー。関心領域は人間と物語、趣味は漫画と温浴。直近のいち推しは『ほしとんで』とtabi-shiroのサウナ。書く仕事のほとんどが、インタビューものです。しゃべるより聞くほうが好き。笑うように生きたい。
Twitter:https://twitter.com/tkswest80
<この記事を書いた人:かにさん>
空を飛んで文章を書く趣味人。マーケティングの仕事をしながら、noteでパラグライダーについて語ったり、英語で読んだ情報をまとめたりしています。
note: https://note.com/kanikana
Twitter: https://twitter.com/kanikanaa
(編集:西山武志、sentenceメンバー)