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インタビュー記事ってどうやって書くの? 「オープンインタビュー」で学ぼう!

「インタビュー記事」を一度も読んだことがない人は、いない。

しかし「インタビュー記事を書いたことがない人」は、たくさんいる。インタビュー記事は、取材対象という第三者を巻き込まなければ成立しない。文章を書くひとでも、取材機会のあるメディアに関わっていたり「やろう」という強い意志がなければ、取り組む機会は意外とない。

6月のある日、sentenceのコミュニティSlackで、こんな告知が投稿された。

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sentence初のオープンインタビュー企画は、特に前触れもなく始まった。この投稿を見たとき、私は「なんだろう?」と首を傾げた。はっきり言って、他人事だった。

蓋を開けてみれば、この「オープンインタビュー」は、sentence運営メンバーのなかがわあすかさんが取材・執筆担当者となり、彼女がインタビュー取材記事を作っていく流れを、すべて公開しつつ進めていくという、のべ2ヶ月ほどかけて開催された一大企画だった。sentence会員はその様子を見つつ、機会があれば口や手を出しつつ、インタビュー記事の作り方を学んだ。そして会員の一人である私はいま、この記事を書きつつ、さらに学びを深めている。

この記事では、本企画全体の流れをひとつひとつ辿りつつ、私が何を感じ、学んでいったかを記していく。非会員の方には「sentenceはこんなことをやっている」という一例として、会員の方には「そうそう、こんな企画だった。めっちゃ学んだわ〜」と振り返る材料としていただければ、幸いだ。

オープンインタビュー 取材・執筆の流れ

インタビュー記事の取材・執筆は、以下のような段階を踏む。今回のオープンインタビュー企画も、この流れに沿って行われた。本企画ならではのステップは、*このように*、*マークで囲いをつけた。

sentence_オープンインタビューフロー

各ステップでどんなことをするか、ひとつひとつ見ていこう。

ステップ1:企画書作成、取材依頼

「企画を立てた! 記事を書くぞ! そのためにインタビューするぞ!」となったとき、まずとるべきアクションは、取材依頼。取材依頼とは、なにをどうするのか? なかがわさんによる優しい解説で、オープンインタビュー企画はスタートした。

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これを読んで、自身も取材記事を書く機会が多いというメンバーからコメントが入った。

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なかがわさんが取材・執筆を進める過程の公開にとどまらず、このように、その様子を観戦している会員からの知識やノウハウ共有も交えながら、今回のオープンインタビューは進んだ。

ステップ1では、インタビューの目的などを記載した「企画書」を作成し、インタビュー依頼のメールとともに送付した。なお今回のインタビュー先は、フリーランスライターでsentence運営メンバーでもある西山武志さん。

メールやり取りはSlack上で公開チャットして行われた。企画書や原稿もGoogle Documentで公開、sentence会員なら全ドキュメントを見ることができる。

取材先に企画書をどう送付するか、どんな形で送るのか……のみならず、取材日程の調整がすんなりといかず、取材相手が提案してきた日程に対して「調整が難しく、別の日時で再提案させてください」と返す場面もあり。「アポ取りしてると、こういうことあるよね!」という状況で、ビジネスコミュニケーションの事例としても面白かった。

ここで、やりとりを見ている会員向けに、なかがわさんから「取材依頼コミュニケーションで、何か気をつけていることがあれば教えて!」とご意見募集の声が。

それに応えるメンバーからのコメントは、インタビューを受ける側の体験談など、貴重な情報に溢れていた。

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取材して終わりではなく、そこから始まる関係性を感じさせるコミュニケーション、できるようになりたい。

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SNS経由で取材申し込みをする場合でも、必要な情報はちゃんと渡す、フランクになりすぎない等、社会人として基本的な心構えは忘れずに。

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オンライン取材が普及して確認するべきことが増えた側面もある。取材前準備、大切!

ステップ2:事前リサーチ、質問事項作成

取材先と日程が確定したら、企画書からさらに一歩踏み込んだリサーチと、具体的な質問項目の作成に取り組もう。

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「取材する側がドキドキするように、される側も緊張や不安を抱えているはず」ということは、忘れがち。でも、取材相手も人間! 相手が気持ちよく話せるように準備するのが、インタビュアーの仕事だ。

作成途中ですが…と前置きしつつ、なかがわさんが作成した

・質問項目リスト

・その質問項目を作るためにリサーチしたメモ

が、公開された。質問項目の一部を抜粋しよう。

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私はさらっと流し見して「なるほど」で終わってしまったが、別の会員からのコメントが秀逸だった。

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質問項目の土台となる「リサーチメモ」は、取材相手の公開情報や、代表作品などをまとめたもの。こちらも一部抜粋してみよう。

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私が社会人駆け出しの頃、「アポをとったら、アポ相手のことはできる限り下調べしておくように」と、先輩によく言われた。さらに一歩踏み込んで、調べたことを頭の中に入れて終わりではなく、ドキュメントを作成しておくと、後から見返したり記述を加えたりできてよい!と、このステップを見ていて気がついた。

質問項目が完成したら、取材日前に、インタビュー先に送る。事前に送ることで、取材相手も心の準備ができるはず。質問項目とあわせて、(オンライン取材なら)取材当日に使うZoomなどオンラインツールのURLも送付するとスマート。

こちらの都合でURL送付が直前になる場合は、事前に一言伝えておくと、取材先の安心感がちがうだろう。お互い気持ちよく取材当日を迎えられるよう、気遣いを忘れずに。

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ステップ3:取材本番、*取材後のフィードバック*

いよいよ取材当日! Zoomごしに観客(sentence会員)が見守る中、なかがわさんが、西山武志さんと初対面の体でインタビューを行う(実際はふたりともsentence運営なので顔見知り)。

今回のインタビューは、こんなタイムラインで開催された。

19:30~19:40(10分): 会の説明
19:40~20:40(60分): インタビュー
20:40~21:00(20分): 観客からの質問タイム、インタビューのフィードバックなど

インタビュー開催前に、西山さんによる「取材を受ける側の準備メモ」がSlackに上げられたり、終了後にインタビューに関する詳細なフィードバックがなされたり、インタビューの様子をただ公開するだけにとどまらない、盛り沢山の1時間半になった。

インタビュー自体の60分間は、「実は初めましてじゃないんです、私、西山さんと同じ場所にいたことがあるんです」というなかがわさんのアイスブレークや、質問項目の時間配分などに感心している間に、あっという間に過ぎていった。

インタビューを終えて、フィードバックタイム。フリーランス編集者の長谷川賢人さんからの詳細なフィードバックが、圧巻だった。Slackに投稿された詳細なコメントの一部を、見てほしい。(実際の分量は倍以上。とても具体的で役立つポイント満載なので、本当は全文抜粋したいが……sentence会員なら全部見れます!

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会員からの感想も、いくつか抜粋してみる。コメントにある通り、他の人の取材現場に立ち会える機会は少ない。表も裏も全部公開する本オープンインタビュー企画、実は、かなり貴重なのだ。

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ステップ4:書き起こし、構成作成、初稿提出

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書き起こしは労働集約的で時間のかかる作業。できるだけ自動化したり、他の人に頼んだりしたい…と思うひとが多いのか、コンピュータやAIで処理する研究が多く行われている。英語だと自動化が進んでいるが、日本語ではいまひとつ。

しかし、私がアルバイトで書き起こしをしていた15年前と比べて、性能が格段にアップして「実用に耐えるレベル」という口コミを耳にすることも増えた。そこで、今回のインタビューの書き起こし機会を活用して、軽く実験させてもらうことにした。

具体的には、無料で誰でもダウンロードできるAndroid音声文字変換アプリを使って、音声認識ソフトウェアでざっくり起こし→人間は整えるだけ…という手順を試してみた。

試してみた結果…、私の期待値を10とすると、6程度のできばえ。起こしやすい声とそうでない声で、明暗が分かれた。女性の声は9割がた自動書き起こしできたが、男性の声はほとんど自動書き起こしできず。人間がほぼ全て書き起こすような状態だった。今後のさらなる技術発展に期待したい。最近出た「Rimo Voice」も評判良いみたいだ。

さて。時間はかかるものの、書き起こしをすると、インタビューをどう進めていたか、会話の内容はどんなものだったかを、じっくり味わうことができる。インタビュー時間が予定ピッタリだったこと、質問票全体についてバランスよく聞けていることに感動して、なかがわさんに「時間管理のコツは?」と質問したところ、こんな回答をもらった。

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取材前から時間管理は始まっている。

ローマは一日にして成らず。千里の道も一歩から。有意義な取材は、入念な事前準備から。

取材のあと、なかがわさんは、以下のような手順で原稿を作成していった。

① 書き起こしを参考に情報整理・話題ごとの要約を作成
② 構成案の作成(ここが軸になりそうだ!こんなふうに情報の流れを作ろう!のイメージ)
③ 原稿の執筆

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作成された構成案に、sentence会員が「担当編集者」としてあれこれコメントを入れた。

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構成案をもとに、なかがわさんの執筆が進む。

原稿執筆の手順は、原稿タイプや、同じ取材記事でも、人によって異なる。場数を踏んで、自分がやりやすいスタイルを構築していくのがよい。(経験値重要!)

原稿執筆の順番については、sentenceラジオでも取り上げられていた。

Slackで、こんな記事も共有されていた。


そして、初稿完成!!

ステップ5:*sentence内でYMO会(フィードバック会)*

「YMO会」とは、原稿を読んで、ライター同士でフィードバックをする会のこと。sentenceでは、週1くらいの頻度で開催している。詳しいやり方は、西山さんのnoteに記されている。

完成原稿における「Y・M(佳き・モヤっと)ポイント」を複数人で見つけ合ってディスカッションを行ない、最終的にそれぞれが今後の執筆での成長課題「O(推して参る)ポイント」を策定することで、個々のスキルアップを促進。言語化された学びをシェアしたり、文書としてストックしたりしていくことで、組織全体のラーニングにも繋げています。

他の人が書いた文章を読んで、「好き」「嫌い」を感じるのも悪くはない。でももう一歩踏み込んで、「ここよき!」「ここはもやもやする」「どうすればもっとよくなる?」などを考え、自分の考えをコメントとして落としていくと、読みながらにして「書く」を学ぶ機会になる。

さて、なかがわさんが作成した取材記事の初稿を題材に開催したYMO会。私も参加した。あっという間の1時間半だった。この、ドキュメント画面に収まりきらない量のYMOコメントを見てほしい。

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YMO会を終えて、なかがわさんによる感想コメントがSlackに投稿された。

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私も投稿した。「自分だったら、この文章を読み進めるか?」という読者目線と、「読書体験をどう設計するか?」という企みの両立。こだわりや伝えたい部分を、どうやって文章に織り込んでいくか。なかがわさんの文章を読んで語らっているうちに、書くことに思いを巡らせ、そんな視点を得ることができた。

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別の参加者、村上未萌さんが書いた #イベントレポ note も素晴らしかった。

Y(佳き)な学び
🤔企画書の作成の段階から、インタビュー同席を経て、原稿の完成までを見守っていたからこそ「自分だったらどうするか」を考える機会になりました。
😲 正直、インタビュー時の情報量の多さ・原稿に入れたくなるエピソードの多さに、どう整理するか想像つきませんでした。あすかさんの原稿を見て「自分は初稿で、ここまで情報の過不足なく、自他の人柄が伝わるような文章は生み出せないなあ」と圧倒されて、本当に尊い過程を見せていただき勉強になりました。
👀 書き手の目線だけでなく、読み手目線からも「この記事を読んだ後、どんな感覚を得て、次のステップに進んでもらいたいか?」をストーリーに組み込むことは大事だなあと再認識しました。
🤲 印象に残った・主題としたいことを拾って、一語一語丁寧に選んでいこうとする参加者の皆さまの姿勢に、背筋を伸ばす思いでした…タイトルや小見出しをつけるのは、あまり得意ではないので、強弱のつけ方も含めて見倣いたいです。

ステップ6:さらに推敲、改訂稿作成

「執筆者のなかがわさん頑張れ…!」のステップ。会員はそっと見守りつつ、改訂稿を待つ。ステップ7の「リアルタイム赤入れ会」前日に公表された改訂稿には、インタビューとは別の日に撮影された写真が挿入され、最終稿にまた一歩近づいたことが感ぜられた。

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ステップ7:sentence LIVE *リアルタイム赤入れ会*

イベント告知noteはこちら。

取材時も溢れるほどのフィードバックをくれた編集者の長谷川さんが、作成された改訂稿を読み、赤入れし、その赤入れの心を語り合うイベント。「リアルタイム」と銘打ってはいるものの、読んで赤入れして…を1.5時間で終わらせるのは不可能なので、赤字はイベント前に入れてあった。

sentence会員は、赤入り原稿をイベント前日にプレビューできた(非会員の方向けには、イベント後に配信された)。赤入り原稿を開いた私は、まず赤字の数に圧倒された。

自分がむかし出版社で働いていたとき、上司に文章をチェックしてもらうと、いつも赤字だらけになったな……と苦い記憶を思い出しつつ、赤字を読んだ。すごい熱量だった。いかにして原稿をよくするかを考え抜く、長谷川さんの熱量が伝わってくるようだった。

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リアルタイム赤入れ会については、詳しいレポートがアップされている。是非ご一読を。

ステップ8:さらにブラッシュアップ、最終稿作成


完成した原稿はこちら!

ものを作る様子を見学するのは楽しい。作って、磨いて、ヤスリをかけて、最後にブラシで表面のチリを取り除いて……生の素材が研ぎ澄まされて、ひとつの作品に変貌していく過程を見る楽しさ。ところが、文章を作る工程は、ふつう見学できない。オープンインタビューは、そんな「ふつう」にチャレンジするプロジェクトだった。

なかがわさんが企画書や質問項目という種を撒いて、取材を通して生まれた言葉をよりあわせて作られた初稿。それが磨かれて改訂稿になって、さらにヤスリをかけて調整して……一連の過程を経て、完成原稿になって、公開された。

その様子を数ヶ月かけて併走してきた私は、この記事が一朝一夕に出来上がったものではないとを知っている。オープンインタビューで「オープン」になっていた部分からは見えない、汗や涙もあったに違いない。

でも、記事を読んで、私は思った。「まるで初めからこう書き上がることが決まっていたみたい」と。それは、美しい工芸品に触れる時の感覚に似ていた。

ふりかえって…

「オープンインタビュー」開始時の、なかがわさんのSlack投稿を、もう一度眺めてみる。

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「企画書の作成、取材依頼、リサーチ&質問事項の作成、インタビュー本番、執筆まで、インタビュー取材の一連の流れを、みなさんに公開しながら進めていく企画です」

「sentenceメンバーのなかには「毎月だれかにインタビューしてるよ~~!」という方もいらっしゃれば、「これからインタビュー取材に挑戦したいけど、どうやって進めるのか分からない」という方もおられることでしょう」

この言葉を読み返して、少しノスタルジックな気分になった。

私は以前、業界関係者向け調査レポートを書く仕事をしていた。企画を立て、取材をして、その内容をまとめる…、あれも「取材記事」といってよいだろう。手順も「◎オープンインタビュー 取材・執筆の流れ」とほぼ同じだった。

企画書の作成、取材依頼、リサーチ&質問事項の作成までは、先輩が事例を渡してくれた。完成原稿の例も、見せてもらった。しかし先輩は先輩で仕事があり、忙しかった。取材当日以降は、基本的に全て私に任された。いわば、放置プレイ。

取材当日どうやってアイスブレークすればいいのか、インタビューをどう円滑に時間通りに進めるか、録音から書き起こした内容をもとにどう原稿を作ればいいのか、全てひとり手探りで進めた。正解がわからない、知りたい。いや、正解じゃなくてもいい、先輩がどういうふうにインタビューしてるか、こっそり覗き見したいーーそう願っていたあのときの自分に、この「オープンインタビュー」を見せてあげたい。

……そう思いつつ、このイベント振り返りを作成した。

はじめは他人事だったオープンインタビュー企画。気がつけば、すっかり自分事になっていた。あいにくタイムマシンはないから「あのときの自分」には渡せないが、もしこれを読んでいるあなたが同じように「インタビュー記事ってどうやって書くの?」と悩むことがあったら、sentenceのオープンインタビューのことを思い出してほしい。

「書く」と共に生きる人たちのためのコミュニティ「sentence」。会員になると、オープンインタビューの企画書やインタビュー質問票、インタビュー当日の映像や、溢れ返るほどの赤字が入った原稿などを見ることができる。困ったときにはSlackの「お悩み相談室」で、sentenceメンバーに相談することもできる。

「仲間と共に、書くことを学びたい」—— そう感じた方は、ぜひ気軽に立ち寄ってくださいね。

この記事を書いた人:かにさん
空を飛んだり文章を書いたりする、パラグライダーが好きな会社員。noteで好きなことを語ったり、海外情報を調べてまとめたりしています。
note: https://note.com/kanikana
Twitter: https://twitter.com/kanikanaa
sentenceは、編集デザインファームである株式会社inquireが運営する、書くことを学び合うための会員制のコミュニティです。コンセプトの「書くと共に生きる」をテーマに、「書くこと」を仕事や生活の一部として活動されている方へ、「書くこと」にまつわる取り組みや、大切にしているものを尋ねて連載しています。sentenceの活動に興味を持ってくださった方は、公式HPnoteをご覧ください。お申し込み、お待ちしております。


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