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子どもが成長する瞬間は、刺激的で美しい。学校という「モノづくり」に挑戦する校長のキャリアヒストリー

2022年4月に東京都世田谷に開校し、代々木校、吉祥寺校と新しい学校を展開しているオルタナティブスクール・ヒロック初等部。同校は、子どもが主役となって「育ち」や「学び」を広げているスクールだ。

今回話を聞いたのは、開校当初からヒロック初等部カリキュラムディレクターを務め、2023年9月よりヒロック初等部2校目となる代々木校の校長を務める五木田洋平さんだ。

学校の立ち上げだけにとどまらず、音楽活動や書籍の執筆等、多岐に渡って活動する五木田さんが、これまでどのようなキャリアを歩んできたのか。
詳しく話を聞いた。


学校は、子どもの幸せに貢献できる場所

――五木田さんの現在のお仕事について、まずは教えていただけますか?

現在は、2022年4月に開校したオルタナティブスクール、ヒロック初等部で働いています。このスクールは世田谷区に1校目を開校したのですが、2023年9月に代々木に2校目を立ち上げました。子どもが主役のスクールで、自由進度学習で教科を学んだり、探究的な学びの時間がたっぷり確保されているのが特徴です。

もともと私は、2014年から2020年まで国際バカロレアのカリキュラムを採択する私立小学校の設立に携わっていました。その経験は、ヒロックを設立する上ですごく生かせていると感じています。

――小学校で働く以前は、別のお仕事をされていたと聞きました。先生になる前のキャリアについても聞いてみたいです。

大学在学中から週に5日、塾の講師をしていました。卒業後も1年は、別の大学に通いながら塾講師を続けました。塾講師時代の教え子たちは、今でも交流があります。でも僕にとって塾は、いわゆる勉強だけという場所で、ずっと働く場所ではないなと感じていて。

その一方で学校は、人の全てに関わるじゃないですか。学力はもちろんですが、一緒に何かを作ったり体験したりできる。その方が、さまざまな手段で子どもたちの幸せに貢献できると思ったんです。そして、学校の方がより複雑で、よりおもしろいのではないかと考えるようになりました。

――そうだったのですね。五木田さんのキャリアに影響を与えてくれた方はいますか?

強く影響を受けた人が2人います。

1人目が、高校のハンドボール部の監督です。彼はインターネットが発達する前の情報が自分の手元に届きにくい時代に、海外に強いハンドボールチームがあると聞けば、現地を直接視察し戦術を勉強して持ち帰ってきていました。そんな知性と根性を持ち合わせた方でした。その姿は、すごく研鑽しているように見えて、素敵な先生だと感じました。

2人目は、大学時代にお世話になった、IT系ベンチャー企業の社長です。「13歳のハローワーク」のウェブ版のような「あしたね」というサービスを作った会社です。僕はその会社で、ライターとしてインターンをさせてもらっていました。

ある日、その会社の社長に、記事の書き方について質問したことがありました。すると彼は、 「僕たちは対等な存在として働くべきだから、僕の話を聞く前に、まずは五木田くんなりの仮説を出してくれないか?そうすることで、君も成長できると思うし、 僕も君と対等に議論することができると思う」と言ってくださって。

その言葉で僕の世界は変わりました。人をリスペクトし、蔑まない。そして、自分のことも卑下しない。

学生時代はずっと、知識をたくさん詰め込んだ人が勝ちという雰囲気の環境が身近にあったこともあり、上下の関係があることが当たり前でした。だからこそ、その社長の言葉との出会いは、非常に感動的でしたね。

子どもが成長する瞬間は、刺激的で美しい

――これまでのキャリアの中で、苦しかったことはありますか?

やはり教員を始めたばかりの時期が一番大変でした。子どもたちと関わる時間以外の業務や、職場での人間関係構築などに苦労をすることもありました。コピーを1つとるにも、失敗を繰り返すことも(笑)。

教員時代の経験を、大学でも話をしている

でも教育技術を磨くことはすごく美しいことだと思っていたので、本を読んだり、周りの先生の実践を追試したりして、研鑽を積んでいました。

自分が学んで、それを使ってみた結果、子どもたちが成長する姿に出会える瞬間は、本当に楽しかったです。

――五木田さんは、写真撮影作曲など、クリエイティブな活動もされていますが、なぜ幅広い活動の中でも、教育に一番比重をおいているのでしょうか?

やはり教育が僕にとって一番おもしろいからです。写真を撮ったり音楽を作ることは、毎日できなくても大丈夫なんですが、教育に関わる時間は、毎日少しでもいいから日常の中にあって欲しい。

子どもたちの成長が僕にとって一番刺激的なもので、何かができるようになったりとか、何かに気づいたりする瞬間って、気持ちが高揚します。それは僕にとってロマンがあり、美しい時間です。

子どもとのエピソードを笑顔で語る五木田さん

跳び箱や二重とびが跳べたといったこともそうだし、みんなの前で上手く話せなかった子が話すことができるようになったりすることもそう。できることが増えると、その子の心も輝く。

そのための環境を作ったり、成長するための戦略を考えたりするのがすごく好きです。

――ヒロックでもその考えを大事にしながら子どもたちと接しているのが、想像できました。

僕たちはヒロックで、注目を浴びるための先進的でキラキラした取り組みをやっているわけではありません。泥臭く、子どもたちの小さな成長を積み重ねるための学校を作っていきたい。

子どもと保護者の背中を押すことができたり、勇気を持ってもらえたりするために、僕は学校という「モノづくり」に取り組んでいると思っています。

一人ひとりに合った教員像を描いて

――五木田さんは、苦しかった時期をどのように乗り越えたのでしょうか?

僕が苦しかったときは、師匠と思える人に出会えたことで、乗り越えることができました。だから、もし「この人だ!」とピンと来た人には、会いに行ってみることをおすすめします。

教員の仕事は日々本当に忙しいと思います。だから生活の比重がどうしても仕事を優先になりがちですよね。そんなときこそ、会いたい人に会うといったことの優先度を上げてみて欲しいと思います。

外の世界で学んだことを、スクールに生かし続けている

日頃の生活の流れの延長線上を「守り」だとするならば、そこからちょっとはみ出る「攻め」の時間も作らないと、忙しさや辛い気持ちに負けてしまう。

僕の言う「攻める」というのは、新しい本を読んでみるとか、 新しい実践を試してみるとか、人に出会いに行くとか。そうすることで僕は、辛い状況から少し乗り越えることができました。

ーー最後に、これから教育の道に踏み出したいと思っている方にメッセージをお願いします。

僕は、教員になるのに向き不向きはないと思っています。それはなぜかというと、一人ひとりの特性に合った教員像があると思うからです。

一般的な「授業がうまい人」といった教員像だけでなく、例えば僕であれば「ものを作る」とか「カリキュラムを整える」という場面で、自分の才能を生かしています。こういう先生にならなきゃいけないという完成形があるわけじゃなくて、それぞれの形があるのだと思います。

これからキャリアチェンジで教育の道に進んでくれた方は、ぜひ自分らしい教員像を見つけ出してほしいです。 そしてあなたが思う「オモロイもの」を生み出してほしいです。そして「こんなオモロイものを作ったけど、どう?」とお互いが見せ合える関係が築けたら、最高ですね。

取材・文:渡邉 和代 | 写真:ご本人提供

私立小学校とHILLOCK初等部を立ち上げた経験から得たチームビルディングの知見が書かれた、五木田さんの単著「対話ドリブン」が、3/11発売予定です。


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