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#3 「サスティナブルな創造」(後編)

日本酒の枠を超え、色とりどりの分野で活躍する「ニホンジン」を訪ね、
日本の輪を広げて行きます。それはまさに「和の輪」。
第3回のゲストは一般社団法人the Organic代表理事・小原壮太郎さんです。
※#3の後編です。 前編は
こちら

小原壮太郎さん(左)と薄井一樹(右)

薄井 最初、都会の若い女性をターゲットに里山に来てもらって、オーガニックな農産物を五感で体験してもらうフェスの立ち上げから始まって、オーガニックを軸としたサスティナブルな社会づくりに向けての活動が始まったんですよね。
 
小原 当初はフェスを開催するっていうところをメインアクションにしてましたが、2016年に環境省の、後に事務次官を務められた中井徳太郎さんていう方と出逢いまして、国の予算や政策というトップダウンだけではなく、私たち市民一人一人の意識や行動からボトムアップで変えていくことが大切だよね!ということで共感しあうところがあって。
 
薄井 大事なところですよね。
 
小原 僕たち民間の市民一人一人がそういう意識とかライフスタイルを変えていくことによって、ボトムアップから社会を変えていって、社会の変革というか改善するムーブメントができるっていう思いから、じゃあ一緒にやろうということで環境省で「つなげよう、支えよう森里川海プロジェクト」のアンバサダーチームをを組成したんです。
 
薄井 著名な方々もアンバサダーになられてますね。
 
小原 シンガーソングライターのMINMIさんとかモデルのマリエちゃんとか、四角が元々そういう世界にすごく顔が広い人間だったので、どんどん繋いでもらっていまもう30人を超えるぐらいになってきて、その運営を、事務局長的な形で僕がサポートしてきました。
 
薄井 アーティストの方々には意識が高い人も多いでしょう?
 
小原 実際に、食や生活習慣から発症したアトピーやうつ病などの現代病を自己体験した仲間たちは、何が大事かを深く実感しているので、それをファンやSNSのフォロワーのみなさんたちに伝えたいと思ってるから、自発的にどんどん発信してくいきます。それがサステナビリティ推進に関心が高い企業にも届いて、企業に向けて」アドバイスとかコンサルテーションさせて頂いたり、アンバサダーチームの仲間と連携した企画とかプロモーションを企画して実行するなど、どんどん進化・発展しています。
 
 薄井 まさに仙禽も! うちも酒を作っているので、一時産業の農業とは切っても切り離せない。その辺の相談にのっていただいて、こうしてお付き合いが始まったわけです。

薄井 僕たちの有機農業、オーガニックっていうことを題材にして、日本酒造りもやっぱり自然じゃないといけないとか使う原料も農薬にまみれてる米じゃなくてちゃんとしたエネルギーのあるお米を使わなければいけないっていうことで、ずっと仙禽としては取り組んできたんですけども。やっぱりやればやるほど1つの企業だけでは難しいなっていうことがすごく分かってきて。さっきお話が出た環境省とかね、その行政がきちんとバックアップしてもらわないとなかなかその有機農業化っていうのは本当に難しい 。これ日本が抱えるこれ一つの大きな問題でもあるなというのは最近痛感してます。
 
小原 本当にその通りですね。僕はthe Organicっていう社団をやってきたことによって、全国有機農業推進協会っていう農業団体の理事と事務局長まで任せていただける様になり、そこからさらに日本のオーガニックをワンチームにする「日本オーガニック会議」というプラットフォームが、一昨年ついに実現したんです。
 
薄井 すごいことですよ。
 
小原 これで全有機農業団体で皆が集って一つのの上で議論したり、皆で政策案を作って政府に政策提言するとか、そういうムーブメントが実現して、その執行部もらせていただいたりするんですね。そういう意味では、僕も農水省とか環境省とかいわゆる中央省庁、政府側の行政機関とかあとはその地方自治体のいろんなこう役場のみなさんともお仕事するようになってきて・・・
 
薄井 どんな実感があります?
 
小原 すごい実感するのは、日本って結構税金をしっかり集めてるから、その集めた税金を再分配する際に、オーガニックを広げることによって、農業と食がちゃんと食料安全保障の観点も含めて持続可能になるっていうことですね。
 
薄井 なるほど。それは期待したい!
 
小原 農業には農業従事者の人口激減による担い手の不足・先細りの懸念があるけど、オーガニックで再興していくことによって、付加価値も高まり、経済的にも自立しやすくなるし、人の健康度も向上するので、医療費だって下がるわけです。
 
薄井 確かに。
 
小原 特に近年は地球温暖化による気候危機がだいぶ顕在化してきて、世界中の国が政府の戦略方針として脱炭素に取り組み始めました。地球温暖化対策のためにはやっぱり持続可能な社会でサステナビリティを推進せざるを得ない。でオーガニック化するっていうのはその中でも非常に重要なファクターだというのはもうはっきりしてきてるんで。そういう意味でやっぱり日本の政府や行政機関、自治体がそのオーガニック推進するっていうのはもう本当に当然の流れになっています。
 
薄井 ただ日本って変革をしづらい体質も感じている部分はあると思うんですけど。
 
小原 そのためには横に繋がって他の自治体でもこういう事例があるよっていうのを自治体の役所の方々にも情報共有しながらサポートして推進していく。そこで仙禽さんみたいな心も力もある地元の事業体が、こういうことをやりたいからそれをサポートしてくれみたいな形で、役所の人が動き出す第一歩を逆に民間側からも促してあげると、よりパワフルに変革が起きるんじゃないかなあとは感じていますね。
 
薄井 壮太郎さんが農業に関心を持ったのは、アントニオ猪木さの影響もあるとか?
 
小原 そうですねあの、猪木さんがIGF(イノキゲノムフェデレーション)っていう会社を作った時に、そこの代表取締役に就任したのが最初のご縁でした。猪木さんは移民として少年時代をブラジルで過ごされた経験もあって、食や農への意識が高く造形が深い方なんです。で一緒に北朝鮮に招かれて行った時も、同行させてもらって。
 
薄井 北朝鮮に一緒に行ったんですか?
 
小原 猪木さんは、北朝鮮の高官たちと日本で連携連帯してお互いに足りないリソースをね、補い合って協力したらじゃあ農業問題解決するじゃないか! みたいな話をされまして、僕もそこに共感したので、国交が正常化したら僕もお手伝いをしたいと思って、日本に戻って来てから、国内の農場をあちこち見てまわるようになったんです。そんな中で、2009年の1月に千葉県にある「くりもと地球村」っていう7ヘクタールのオーガニック農園と出会ったのが、今の僕の活動に繋がっているのです。
 
薄井 そういう経緯でしたか。海外の農業と比較した時にどうですか? オーガニックということをテーマにした時に日本の農業というのは・・・
 
小原 一番大きく言われるのは、やっぱりアジアモンスーン地域といわれる中でも、特に日本は梅雨もあったり台風もあって高温多湿で、確かに虫は発生しやすい、あとまあ病気もでやすい。だからまあそういう意味で農薬とか化学肥料というものを使って農産を拡大してきて、それがシステム化しているっていうのは現実としてあるんですよね。ただ、じゃあそれで終わりか、出来ないかっていったら本当はそんなことはないんですよ。新しい流れとして自然と共生するオーガニック化っていうのをやっていくっていうことが、今、企業にとってもESG投資っていう文脈で企業価値向上にもつながるので、農業を変革するにはいいタイミングにはなってきていると思います。
 
薄井 欧米と比べてどうですか?
 
小原 ヨーロッパは逆に2005.6年くらいに干ばつとかですね、気候変動の厳しい影響を早めに受けてきたんで、サステナビリティ推進の流れが早く起きていたんです。だからやっぱり2020年に「Farm to Fork」という「農場から食卓へ戦略」というのを策定して一気にも2030年で今8〜9%の有機農業を2030年までの10年間で25%まで伸ばすっていう戦略ができてたりしてたんですよね。そこに関してはヨーロッパは気づき、行動を起こすのが早かったと思います。逆に日本ほど高温多湿ではない乾燥した気候でやりやすいってところもあって、すごくオーガニックの先進地ヨーロッパ、遅れている日本みたいなにはなってるんですけど・・・
 
薄井 ヨーロッパは早かった。そこが非常に大きいですね。

薄井 若い世代がサステナビリティに対する関心を抱いているっていうことについてどう考えてます?

 小原 今Z世代とかその更に下の世代とか、自分も娘が小6でそういうまさに世代入ってきてますけど ESDっていうサステナブル教育が日本の学習指導要領に入ってきて子供たちの意識もその教育からも高まってるんですけど 、

 薄井 根底にそういうことがあったんですね。

 小原 娘の学んでる姿とかを見てもSDGsみたいなテーマを授業で語り合ったりとか、自分の自由研究のテーマにしてることもすごく増えてるし、Z世代とかα世代の意識っていうのは我々の若い頃に比べて全然変わっているなあっていうのは実感しますね。

 薄井 僕たちも日本酒作ってるわけだけど、オーガニックの日本酒に対する関心、またはその有機農業、僕たちは米が主原料だから田植えを毎年するんだけど、その田植えも有機農業だから手植えをするんですよ。そこに来たいとかね。一昔前の人には考えられない、重労働をあえて東京からみんな来るわけですよ、若い人が関心を持って。そういう意味で随分時代の流れによって変わったなという風には感じていますね。

 小原 大切なことは、僕らのアクションが、高度経済成長期に作ってきたカルチャーを見直すきっかけになることですよね。日々の消費行動をサステナブルとかオーガニックな物に変えていくこと。価格っていう数字だけではもう物を選ばない。自分にとって本当に必要なもの、おいしいもの、ワクワクするものは何だろうとか? 一番変わるのは意識です。空気、水、土、環境をより良くする循環を考えながら、物を選ぶ行動に変化していく。 

薄井 お金がたくさん回ることが経済的に見ればいいのですが、環境であったり、健康っていうものを優先した方がいいのかっていう狭間に、今、我々はいると思うんです。まあ、コロナ禍が人の意識をある程度変えてくれたと思うんだけど。

 小原 本当にその通りですよね。いきなり原始時代みたいな生活に戻れって言われても無理ですし、経済成長してきた豊かな社会を全否定はできませんが、自然と共生するような循環型の社会にしつつ、でも人間の知恵とかテクノロジーは活かした新しいハイブリットな社会をつくっていくバランス感覚が大事だと思います。政府の中でも自然資本を守り、むしろ活用しながら経済を活性化していくNX(Nature based transformation)が政策の軸の一つになりつつあります。

 薄井 自然×ITみたいな。ただ今の日本では、オーガニックとか、サステナビリティとか、SDGsという言葉というものが一人歩きしてしまってファッションになっている感もあって、その辺の矯正力というところも含めて壮太郎さんの今後の活動も僕はすごく期待している次第でございます。

 次回(#3 鼎談編)に続く。


 

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