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小澤メモ|POPCORN MOVIE|映画のこと。

6 モンスーリ公園のサンドイッチ。

パリ、ところどころ。
今、異国にひとりでいる。そのとき、よろこびを感じ、同時にかなしみも感じていた。ただ、そのかなしみは大きなものではないーーーーー。これは18人の監督からなるオムニバス映画『パリ、ジュテーム』の最終話、マーゴ・マーティンデイル演じる異邦人キャロルの回想。ジュテーム(愛してる)なんていう、照れてしまうタイトルだけど、個人的にこの映画は名シーンの集合体だと思っている。旅行案内やガイドブックなんかより、パリの魅力や人々の粋な対話を浮かび上がらせる、いわば約5分ごとのパリところどころなスクラップだ。ということで、実際に映画『パリ、ジュテーム』だけを頼りにパリを旅したのは、今からずっと前のこと。3週間近く滞在して、20区からなるパリの街を、映画さながらに全18話分くまなく散策した。

サンドイッチの話だった。
前述のキャロルが歩いたモンパルナスをはじめ、ジーナ・ローランズとベン・ギャザラが落ち合ったカルチェラタン、『アメリ』の舞台にもなったモンマルトルなどなど、ひたすら歩いた。ありがたいことに、パリはカフェやベーカリーが無数にある。歩き疲れたら、ふらっとカフェに入ってアン・カフェ・シルブプレすればいい。東京ではカフェ難民(ネットカフェ難民とはまた違うフランチャイズのコーヒー店にふらっと入っても席がないことが多いね)。それで、サンドイッチの話。劇中、異邦人キャロルは、ずっと習ってきたフランス語でパリジャンに話かけていくのだけれど、結局は英語で返されてしまう。そこに拙い自分のフレンチや旅行者然としてるもどかしさを感じ取っていく。ずっと来たかった国のレストランでひとりで食べるランチはなんだか寂しい……。

パリはトゥ・ゴーぐらいがちょうどいい。
そんな彼女が、パリをさまよって行き着いたのが、名もなき公園(14区のモンパルナスから少し郊外へ出たモンスーリ公園のようだ)。ベンチでひとり、トゥ・ゴーしたサンドイッチを頬張る。それが冒頭の彼女の回想だ。ガイドブックに載ってるレストランではなく、拙いフレンチで尋ねたカフェでもなく、名もなき公園のベンチで食べるサンドイッチ。見ているこちらもせつなくなるけれど、(なんか良い感じ!)とも思えてしまう光の射し方、風の揺れ方、チーズのはさまれ方。もともと、パリはどの店のパンも平均点が高い。うまい。公園もカフェ並みにたくさんある。ある意味でチャージの要らない良い席。だから、旅行中の食事のうちに何度かはサンドイッチくらいがちょうどいい。(キャロルが座ったベンチでサンドイッチを食べたい! そのとき、どんな気持ちになるか!? )。そう思ったままに、映画を見た翌年、パリ郊外のモンスーリ公園のそのベンチで名もなきサンドイッチを頬張った自分がいた。そのときの気持ちについてはまた書けたらいいなと思う。6
(写真はパリのベーカリーにて/2011年)

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